解説者のプロフィール
日比野 佐和子
Rサイエンスクリニック広尾院長、医学博士。大阪大学医学部大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学講座特任准教授。内科医、皮膚科医、眼科医、日本抗加齢医学会認定専門医(アンチエイジングドクター)。眼科専門医である弟の林田康隆氏との共著『眼科医は市販の目薬をささない』(廣済堂出版)をはじめ目に関する著書多数。
林田 康隆
Y'sサイエンスクリニック広尾院長、医学博士。NTT西日本病院外来医長、大阪警察病院手術顧問(いずれも非常勤医師)。日本眼科学会認定眼科専門医
「視力は回復しない」は 一昔前の話
一昔前までは、近視でも老眼でも、「低下した視力は回復しない」と言われていました。
近視は遺伝で、老眼は老化現象なのだからあきらめるしかないと考えられていたのです。
確かに、強度近視など、治るとはいえないものもあります。
しかし今は、近視は環境が主な原因であり、老眼を含めた老化も、トレーニングや生活習慣で食い止められることが、数々の研究で裏付けられています。
我々の元を訪れる患者さんにも、実際に眼トレ(眼のトレーニング)で、進行した老眼の症状を自分自身で回復させた人が少なくありません。
視力を回復するには、ピントの調節力を鍛えることがポイントです。
眼トレで視力が回復すると先に述べましたが、ここでいうトレーニングとは、筋肉を「鍛える」トレーニングではなく、筋肉を「ほぐす」いわばストレッチです。
その代表的なものが、近くと遠くを交互に見る「目の遠近ストレッチ」です(方法は下図参照)。
目のレンズとなる水晶体は、近くを見るときに厚く、遠くを見るときに薄くなります。
この水晶体の厚みを操作しているのは、毛様体筋という筋肉です。
ピントを合わせるためには、水晶体と毛様体筋の柔軟性をいかに保つかがカギとなります。
例えば老眼は、主に水晶体の硬化が原因です。
ここに毛様体筋の衰えも重なり、ピントが合いづらくなる状態です。
自然な環境にあっても、ピントの調節力は10代がピークで、それからは年々低下するといわれます。
平均的には45歳前後から、手元へのピント調節に不便を感じ始めます。
その後、加齢による白内障の進行とともに70歳前後で目の調節力が著明に低下する人がほとんどです。
一方で、20代でもかかるスマホ老眼もあります。
これは、スマートフォンをはじめとしたデジタル機器の液晶画面などを近くで長時間見ることで起こる調節けいれんや調節の緊張ですが、目のピントが合わせづらくなる症状が老眼によく似ていることで「スマホ老眼」と名付けられたようです。
現代人の生活は、手元を見る作業なしでは成り立ちません。
スマホやパソコンを見続けるような目にとって過酷な環境は、筋肉をこわばらせ、水晶体を硬くして、仮性近視や老眼などのピント調節障害を引き起こす原因となるのです。
目のストレッチのやり方

早い人なら2週間で効果が現れる
こうして衰えたピント調節力を戻すのに最も効果的なのが、目の中の筋肉をほぐし、水晶体の柔軟性を高める目の遠近ストレッチというわけです。
くり返し「遠」と「近」をスイッチしていると、毛様体筋がほぐれて、スムーズに切り替わるようになります。
結果、ピントの切り替えを速やかにする効果が期待できるのです。
目の遠近ストレッチは、疲れ目やドライアイ、近視、遠視、そして老眼にも効果があります。
1分程度の簡単なものですが、その1分をきちんと習慣にできれば、視力は回復していきます。
早い人なら、2週間もすれば効果が出るでしょう。
60代では7〜8割の人がかかるといわれている白内障も、水晶体が硬くなることが原因の一つです。
早い段階で目のストレッチをはじめとした訓練を行って目の柔軟性を取り戻せば、白内障の進行を抑えることも期待できます。
もちろん、水晶体にも限界はあります。
しかし、日々のストレッチで柔軟性を持たせていれば、平均よりずっと長く使うことができます。
目のストレッチには、遠近ストレッチのほかにも方法があります。
いくつかご紹介しておきましょう。
●グーパーまばたき
両目を閉じてパッと大きく目を開けます。
これを5回くり返します。
ギュッと強く閉じたほうが、効果が出やすいです。
●眼球グルグル
目を左右に3回ずつグルグル回します。
いずれも目が疲れたときに行うとよいでしょう。
目のストレッチには副作用がなく、取り組む時期が早いほど、効果を実感できます。
早速今日から始めてみましょう。