「やせ型腸内細菌」と「肥満型腸内細菌」があることがわかった
同じ量、同じカロリーを取っていても、やせる人もいれば太る人もいます。これまでの科学では、この違いを運動量の差や体質などというばかりで、決定的な答えを出すことができませんでした。
近年の研究によって、このなぞが解明されつつあります。そのカギを握っているのが、腸内細菌なのです。
2006年に発表された米国ワシントン大学の研究では、肥満のマウスとやせたマウスの腸内細菌を調べ、比較しました。
すると、肥満のマウスには、「ファーミキューテス類」という腸内細菌が多く、腸内細菌のもう一方の種類である「バクテロイデーテス類」が少ないことを突き止めました。
この腸内細菌の傾向は、人の場合も同様であることがわかっています。つまり、「やせ型腸内細菌」と「肥満型腸内細菌」があることがわかったのです。
さらに、肥満の人を1年間の食事指導によってダイエットさせたところ、やせ型腸内細菌が増え、肥満型腸内細菌が減少し、やせた人に特徴的な腸内フローラ(腸内細菌叢)に近づいてきました。
この結果から、太った人の腸内フローラをやせ型の人に変化させれば、体は勝手にやせていくことがわかります。
ダイエットのカギを握っているのは、運動や食事制限ではなく、腸内フローラだったのです。
腸内フローラを改善させる食事

納豆、オクラ、メカブは腸内フローラ改善食 私自身が14kgやせた
ここで実例として、私自身の体験をお話ししましょう。
50代の初め、私の体重は86kgでした。身長は170cmですから、BMI(体形指数)にして約30です(普通体重の指標は18.5以上、25未満)。明らかに太り過ぎでした。
ウエストは91cmで、体脂肪率は28%です。幸い血圧と血糖値は問題ありませんでしたが、総コレステロール値が400mg/dLを超えていました(正常値は220mg/dL未満)。
そのころの私は、肉好きの野菜嫌いで、毎晩お酒を飲み、多忙を理由に運動もしていませんでした。腸内フローラを調べてみると、案の定、善玉菌のビフィズス菌は減り、悪玉菌のウエルシュ菌が増加し、非常に悪い環境になりつつありました。
このままでは、大腸ガンの研究をしてきた腸内細菌学者が大腸ガンになってしまう恐れが出てきたのです。これではいけないと思い、ライフスタイルを改善する決意をしました。
最初にとりかかったのが、食生活の改善です。
朝食は、旬の野菜を中心にした野菜をたっぷり取り、ごはんにみそ汁、サケ一切れなどのメニューです。必ず、便通を促す特製ヨーグルトジュースの「でるでるジュース」を飲むようにしました。ヨーグルトといっしょに、大豆やバナナの食物繊維やオリゴ糖を摂取することで、腸内フローラの改善効果を高め、かつ便通を促します。
昼は、調理したたっぷりの野菜に玄米です。
夕食は、肉を控え、魚中心のメニューに切り替えました。肉を取る場合にも、肉の3倍量の野菜を摂取するように心がけました。副菜には、野菜や海藻、キノコ類など食物繊維の豊富な皿が多く並ぶことになります。
中でも、私が愛食しているのが、「ネバネバ3兄弟」と呼んでいる納豆、オクラ、メカブで構成する一皿です。いずれも食物繊維を豊富に含み、腸内フローラを整え、便秘を解消し、免疫力をアップさせる効果があります。
ことに納豆に含まれる納豆菌の一部は、胃酸によって死滅せず、腸内に生きたまま届き、ビフィズス菌を増やします。
食事以外では、運動にも力を入れました。毎日、歩数計で確認すると9000歩は歩き、スクワットなどもしっかり行うようにしました。
食生活が変わったことで、便の形状も大きく変化しました。かつては、お酒を飲むと必ず下痢になり、とてもくさい便が出ていました。それが、あまりにおわない便が、スルッと気持ちよく出るようになったのです。お酒を大量に飲んだ翌日も、下痢便ではなく、必ず有形の便が出ます。
私は排便の前後で体重を計測し、便の重さを計測していますが、食事を変えて以降は、毎日大量の便が出るようになりました。朝の1回の排便で350gの便が出ることもまれではなくなったのです。
こうした生活を続けていたところ、体重は順調に減っていきました。2年後には、14㎏減り72㎏です。体脂肪率も28%から22%まで低下しました。
総コレステロール値は、190mg/dLまで無理なく落とすことができました。見た目も10歳以上若返ったと言われるようになったのです。
また、以前は春先になると花粉症がひどくなり、薬を飲んでも、ほとんど効かないほどでした。くしゃみと鼻水が止まらなくなり、1日でティッシュ1箱分を使い切ることも珍しいことではなかったのです。
それが、腸内フローラを改善したところ、花粉症はウソのように消えました。そのうえ頭が冴え、仕事への集中力も明らかにアップしたのです。
腸内フローラを改善するダイエットを行ってから、すでに10年以上が経ちます。
現在も、食物繊維やヨーグルトを積極的に取る食生活を続けているため、67歳の今も、私の腸内フローラは善玉菌のビフィズス菌が多く、悪玉菌のウエルシュ菌の少ない、30歳のころと変わらない状態をキープできています。職場の30歳代の男性と比べても、私のほうが若々しい腸内フローラを持っているくらいです。
ダイエット前後の証拠写真

カギは食物繊維の摂取にあり
ところで、これまでは体によい影響を与える腸内細菌として、善玉菌であるビフィズス菌と乳酸菌ばかりに注目が集まっていました。
しかし、研究の進展によって、最近は日和見菌の働きにも注目が集まっています。
日和見菌は、場合によっては善玉菌にも悪玉菌にもなりうる菌ですが、その大部分を占めるのが酪酸菌という菌です。酪酸菌が産生する酪酸は、腸内の免疫力の正常化やガン細胞の抑制など、非常に重要な役割を果たしていることがわかってきたのです。
酪酸菌をたくさん作るには、ヨーグルトだけでは足りず、食物繊維を多量に取ることが必要です。こうした点からも、ヨーグルトに加えて、野菜や海藻、キノコといった食物繊維の豊富な食材もしっかり食べてほしいと思います。
食物繊維たっぷりの食材とヨーグルトを毎日取り、やせ型腸内細菌の優勢な腸内フローラになれば、スリムで健康な体を手に入れられます。
何歳であろうと、始めて遅いことはありません。今から腸内フローラを若返らせるチャレンジを始めましょう。
解説者のプロフィール

辨野義己
1948年、大阪府生まれ。酪農学園大学獣医学科卒業。専門は、腸内環境学、微生物分類学。腸内細菌と病気の関係を研究し、DNA解析により多数の腸内細菌を発見。ビフィズス菌、乳酸菌の健康効果を訴えている。『腸を鍛えれば頭がよくなる』『体が勝手にやせる食べ方』(ともにマキノ出版)など著書多数。