難聴は認知症発症リスクを高める?対策には「見た目の若さ」と「補聴器」 海外でも注目

難聴は認知症発症リスクを高める?対策には「見た目の若さ」と「補聴器」 海外でも注目

最近の国内外の研究では、難聴と認知症の関係にたいへん注目が集まっています。難聴と認知症の関連については、非常に多くの学説が唱えられていますが、そのうちの代表的な説をご紹介します。【解説】内田育恵(愛知医科大学耳鼻咽喉科特任准教授、国立長寿医療研究センター客員研究員)


難聴になると脳が萎縮する可能性

最近の国内外の研究では、難聴と認知症の関係にたいへん注目が集まっています。
例えば、1958年から、米国メリーランド州のボルチモアで行われている米国最長の長期追跡研究では、追跡開始時に認知症のない36〜90歳の男女639人を対象に、難聴と認知症発症の関連を調べて報告しています。

12年近くにわたって追跡調査をしたところ、聴力が正常の人を1とすると、軽い難聴の人が1.89倍、重い難聴の人になると4.94倍も認知症になりやすいことがわかりました。
同じ調査チームからは、難聴があるとその後の脳の萎縮にまで影響することも報告されています。

前述のボルチモアの調査で、56〜86歳の126名を約6年間追跡して、MRI(磁気共鳴画像)を使って脳の容積を測定したところ、難聴がある人とない人では、脳の容積の減少が明らかに違っていたのです。
難聴の存在が、脳萎縮の危険性を高めることを示した驚くべき調査結果です。

なぜ難聴になると、脳の変化が起こるのでしょうか。

難聴と認知症の関連については、非常に多くの学説が唱えられていますが、そのうちの代表的な説を以下にご紹介します。

第一は、耳にとっても脳にとっても悪影響を及ぼす、共通の原因が存在するという説です。
例として、血流障害の問題が挙げられています。
糖尿病や動脈硬化などがあると、脳の血流が循環障害を起こす危険が高まり、脳に悪影響を与えます。

脳は4本の大きな動脈、すなわち首の左右2本の内頸動脈と左右2本の椎骨動脈によって血液供給を受けていますが、脳に分布する動脈のかなり末端に、内耳に栄養を与える動脈があります。
脳に血流障害をもたらす環境は、同時に内耳の血行にも悪影響を与えるのです。

次に有力視されているのは、難聴によるコミュニケーション障害の問題です。
難聴があると、人とのコミュニケーションを図ることが徐々に難しくなっていきます。
難聴の人は、社会的に孤立し、不安や抑うつ、意欲の減退などに苦しむ傾向が高くなるのです。

コミュニケーション障害による心理的な影響に加えて、社会活動の減少や運動機能の低下が、認知症を引き起こす有力な要因となります。
難聴があっても、人との関わりや社会参加を続けることにより、認知機能を良好に保つことができるのではないかと多くの研究者が考えています。

見た目が若い人は体の働きも若い

国立長寿医療研究センターの「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の取りまとめ役である下方浩史教授(名古屋学芸大学大学院)は、老化を食い止めるための提言として「見た目を若く保つ」ことを勧めています。

下方教授の研究によれば、見た目年齢が実年齢より若く見える人は、生理機能や運動機能が年よりも若い傾向にあったとされています。

逆に、見た目年齢が実年齢よりも老けて見える人は、生理機能や運動機能が実年齢よりも老けていました。
見た目の若さとは、心身ともに健康で、顔色や肌の血色がよく、骨格や姿勢がきれい、身のこなしが若々しいといった印象の総合判断です。

こうした条件が整うためには、部分部分ではなく、全身的にバランスよく健康な状態を保つことが必要なのです。
見た目の若々しさに気を配ることは、耳や認知機能の若さにとっても効果的な可能性があります。

補聴器を使って脳のトレーニング

2015年、補聴器と認知機能との関連を25年にわたって追跡したフランスの研究結果が発表されました。
この研究で、中等度以上の難聴になったとしても、補聴器を使えば、認知機能の低下は難聴のない人と変わらないことがわかったのです。

この研究は、調査開始時に聞こえは悪くないと答えた2394人、聞こえが悪いと自覚のあった1276人が対象です。
難聴があっても補聴器で聴力の不足を補って活用すれば、認知機能の低下するスピードを健康な人と同等にとどめることができると示されたのです。

この研究は、対象の規模が大きく、25年の長期にわたる観察であることから、非常に期待のもてる有力な研究結果であるといえます。

ただし、補聴器による、難聴のある人の認知機能の低下を予防する効果については、この報告のように有効であるとする報告ばかりではなく、有効ではないとする報告も混在し、まだ一定の見解には至っていません。

聞こえに不便を感じたら、まずはお近くの耳鼻咽喉科を受診して、難聴の程度や状態を評価してもらいましょう。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

この健康情報のエディター

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