解説者のプロフィール

平松類(ひらまつ・るい)
二本松眼科病院医師。
昭和大学医学部卒業。昭和大学病院、三友堂病院眼科科長などを経て、2012年より現職。
講演活動のほか、雑誌やテレビの出演多数。
医療の情報をわかりやすく解説することに定評がある。著書は『100円メガネで視力は回復する!』(永岡書店)など多数。
●二本松眼科病院
http://www.nihonmatsu.net/
目のピントの調整力が高まる
「近視が進んで気になる」
「緑内障が心配」
「老眼で手元が見えづらい」
こんな人に、ぜひお勧めしたいセルフケアがあります。
それは、蒸しタオルなどで目を温める「目の温パック」です。
目の温パックは、家庭で簡単にできて、近視、老眼、緑内障( 眼圧が高くなって視神経に障害が起こる病気)などの進行阻止や予防・改善に役立ちます。
最近は、本来なら老眼とは無縁な年齢の人たちにも、スマートフォンの使い過ぎで老眼になる「スマホ老眼」が増えています。
このスマホ老眼にも、目の温パックが優れた効果を発揮します。
なぜ、目を温めるだけで、このような多彩な効果が得られるのでしょうか。
まず、近視と老眼に効く理由は、目の温パックで目のピント(焦点)の調節力を高めることができるからです。
私たちの目は、見る物までの距離に応じて、自動的に常にピントが合うようにできています。
この調節力は、目の中でレンズの役割をする水晶体と、水晶体の厚みを調整する毛様体筋という小さい筋肉が担っています。
遠くを見るときは、毛様体筋がゆるんで水晶体が薄くなり、近くを見るときは、毛様体筋が収縮して水晶体が厚くなって、ピントを調整しています(下の図参照)。
このピント調節力が不十分なために起こるという点で、近視と老眼は共通しています。
近視は、その調節範囲が近くに固定されてしまうため、遠くが見づらくなります。
老眼は、老化などによって毛様体筋の力が衰えて、水晶体を厚くできなくなり、近くが見づらくなります。
スマホ老眼の場合は、目の酷使によってそれが起こります。
症状だけ見れば逆のようですが、ピント合わせ能力が落ちるのは共通で、近視と老眼のメカニズムは似通っているのです。
目のピント調節のしくみ

セルフケアで視力低下を抑えることが大切
その調節力の向上に、大きな効果を発揮するのが、目の温パックです。
目の温パックをすると、目の血流が促進され、毛様体筋の緊張がほぐれて、目のピント調節力が高まります。
習慣的に続けていると、近視や老眼の予防や進行阻止に役立ちます。
ちなみに近視には、目の奥行きが長くなって起こる真性近視と、近くの見過ぎなどで毛様体筋が過度に緊張して起こる仮性近視があります。
よく誤解されていますが、仮性近視は大人にもあり、基本的に、真性近視と仮性近視が入り混じっています。
特に、その仮性近視の部分に、目の温パックは高い効果を示します。
近視は大人でも進むので、こうしたセルフケアで進行を抑えることには、大きな意味があります。
それが同時に、老眼の予防にもつながります。
一方、緑内障は、眼圧(眼球内部に詰まっている房水の圧)が高まり、視神経への血流が不足して、少しずつ視野が欠けていく病気です。
目の温パックは、目の血流をよくする効果があるので、緑内障の予防や進行阻止にも役立ちます。
緑内障は、遺伝的素因を持つ(近親者に緑内障の人がいる)人や強い近視の人、糖尿病・高血圧の人などに起こりやすく、40歳から増えます。
こうしたリスクを持つ人には、特に目の温パックがお勧めです。
目の温パックのやり方

目とともに首も温めるとよい
目の温パックをしていると、涙の質も改善されます。
涙は、水分だけでなく、適度な油分も含んでいます。
それによって、涙が目の表面に均一にとどまりやすく、乾きにくくなるのです。
その油分を分泌しているのは、上下のまぶたにあるマイボーム腺という器官です。
マイボーム腺の出口は、まぶたの縁に点々と並んでいます。
非常に小さく、詰まりやすいのですが、油分なので、温めると出やすくなります。
ですから、目の温パックで適度な油分が補充され、涙の質がよくなるのです。
緑内障の人は、涙の質が悪くなりやすく、そのことも、間接的に緑内障の悪化を促します。
また、緑内障になると、継続的に目薬を使わなければならず、目の表面が荒れやすくなりますが、それをカバーするためにも、目の温パックが役立ちます。
マイボーム腺の分泌が悪いと、目が乾くドライアイも起こりやすくなります。
ドライアイになると、目が疲れて緊張状態が続くので、老眼や近視も助長されます。
目の温パックで涙の質をよくすると、こうした目への悪影響も防ぎやすくなります。
また、目とともに、首すじも温めると、目の健康を保つためにより効果的です。
首すじを温めることで、睡眠の効率がよくなるという研究結果があり、睡眠と目の機能とは密接に関係するからです。
睡眠不足や眠りが浅い状態だと、目が充血して物が見えづらくなったり、ドライアイを起こしやすくなったりします。
首や肩のこりがひどくなるほど、実用視力(検査でわかる視力とは別の、生活の中での見え方)は衰えやすくなります。
首すじを温めると、首・肩のこりの予防・解消を通じて、実用視力の向上が期待できます。
また、目の温パックの後、まぶたのマッサージも行うと、よりいっそう効果的です。
マイボーム腺の出口は、まぶたの縁に並んでいますが、腺そのものは、上下のまぶたに縦に走っています。
そこで、温パックの後、まぶたを軽くさすることで、さらにマイボーム腺からの油分の分泌が促されるのです。
簡単にできて、目への幅広い効果がある目と首すじの温パックを、ぜひお試しください。
まぶたのマッサージのやり方
