解説者のプロフィール

稲熊隆博
1952年生まれ。大阪府出身。帝塚山大学現代生活学部食物栄養学科教授。農学博士、技術士。同志社大学大学院工学研究科博士課程(前期)修了後、カゴメ株式会社に入社。カゴメ㈱総合研究所主席研究員を経て、現職。トマトをはじめ、野菜研究のスペシャリストとして研究を重ねている。
トマトを生で食べるのはもったいない!

野菜の食べ方として、皆さんがまず思い浮かべるのは、サラダではないでしょうか。しかし、私は野菜を生で食べるより、調理して食べることをお勧めします。
そして、なにより私が調理して食べることを強くお勧めしたい野菜が、トマトです。
ここでいう調理とは、砕いたり、潰したり、熱を加えたりすることです。
野菜を調理して食べることの長所は、三つあります。順に説明しましょう。
一つめは、かさが減ることです。
加熱すると、野菜の体積は、約3分の1になります。それにより、多くの量の野菜を食べることが可能になるのです。食べる量が増えれば、当然、摂取できる栄養素の量も増えます。
二つめは、栄養成分の吸収率がよくなることです。
植物の細胞壁は、ヒトの体では分解できないセルロース(多糖類の一種)でできていますが、加熱すると、セルロースの構造が弱まり、くずれます。それをしっかり噛んで食べることで、細胞壁が壊れます。
この二つの過程を経て初めて、私たちは野菜の細胞内にある栄養素を、しっかりと体内に取り込めるのです。
三つめは、腸内に不要な物を取り込んで、体外に排出してくれることです。
野菜のセルロースは、食物繊維として私たちの腸で働きます。食物繊維が働くためには、セルロースが壊れていることが重要です。大きく長いままの食物繊維よりも、細かく破砕されている食物繊維のほうが、表面積が増えるので、より不要物を取り込んで排出してくれるのです。
さらに、食物繊維にはもう一つの働きがあります。腸内で善玉菌のエサになることです。腸内細菌も、分子の小さい食物繊維のほうが食べやすいので、善玉菌が増えやすくなります。
野菜を調理するというと、「ビタミンが熱で壊れるのでは?」と思う人が多いかもしれません。
しかし、ビタミンAやDなどの脂溶性ビタミンは、簡単には壊れません。また、ビタミンB群やCなどの水溶性ビタミンは、煮汁などに溶け込むので、こちらも、よほど長時間煮込まないかぎりは残ります。汁ごと食べれば、より多くの摂取が可能になります。
動脈硬化を防ぐリコピンの吸収率が16倍にアップ
実際、トマトに含まれる栄養成分「リコピン」は、生で食べるよりも、加熱したほうが吸収率が上がると、実験で明らかになっています。
海外では、野菜を潰して裏ごしし、ソースとして食べるのが定番です。フランスの研究では、トマトを加工品にすると、リコピンの吸収率が、生のトマトに比べて16倍に上がった、という報告もあります。
リコピンには、活性酸素を消去する、強い抗酸化作用があります。活性酸素とは、細胞を傷つけ、生活習慣病や老化の原因となる物質です。
血液中のLDLコレステロールは、活性酸素によって酸化すると悪玉コレステロールに変わり、それが血管内皮に入り込むことで動脈硬化を起こします。
しかし、リコピンをしっかりとっていれば酸化を防げるため、動脈硬化、ひいては高血圧、脳梗塞、心筋梗塞の予防に役立つのです。
紫外線によって発生する活性酸素を消去してくれるので、シミ、シワも防いでくれます。
そのほか、骨粗鬆症の予防、気管支ぜんそくの症状緩和、喫煙者に起こりやすい肺気腫の予防、男性不妊に対する効果なども確認されています。
加えて、リコピンには動脈硬化を防ぐうえで重要な、善玉コレステロールを増やす働きがあることも報告されています。
最新の研究では、直線的な構造のリコピンは、加熱によって部分的に折れ曲がり、構造が変化するとわかりました。そして、折れ曲がった部分で壊れた物質には、さらなる健康効果を生む可能性があると期待されているのです。
トマトには、リコピン以外にも、微量の栄養素が豊富に含まれています。それらが総合的に働くことで、疲労を軽減する効果もあります。マウスを使った実験では、運動する前、もしくは運動の途中でトマトを摂取すると疲れにくくなった、というデータが得られています。
オリーブオイルを加え加熱して朝にとろう!
トマトを摂取する際、加熱とともにもう一つお勧めしたい食べ方があります。
それは、オリーブオイルを加えることです。
私たちの実験では、トマトジュースをそのまま飲んだ人よりも、オリーブオイルを加えて飲んだ人のほうが、リコピンの吸収率が約4.5倍も高まるという結果が得られました。

別の研究では、ほかの植物油と比べて、オリーブオイルが、最もリコピンの吸収率を高める油だということも確認されています。
また、リコピンの吸収率は時間によっても異なります。実験では、吸収率が最も高いのは朝だという結果が出ました。吸収量も、朝が最も多いと報告されています。
つまり、オリーブオイルで調理したトマトや、オリーブオイルを加えて温めたトマトジュースを朝食にとるのが、理想的なとり方なのです。
市販のトマトジュースは、リコピンが豊富な赤系のトマトを「破砕し、加熱」して作られています。ですから、リコピンを摂取するうえでは、とても効率的な飲み物です。
リコピンは、とり過ぎで害になることはありません。むしろ、体内に蓄積されたリコピンは、摂取しないと9日ほどで半減するといわれています。ですから、毎日とり続けるべきなのです。
皆さんもぜひ、ホットトマトを食生活に取り入れましょう。
リコピンの吸収率を高める「ホットトマトジュース」の作り方
