●聞き手
石川惠美子(医療ジャーナリスト)
●お話をうかがった方々
足立和孝(あだち眼科院長)
有安正規(視能訓練士・保健科学博士)
古川力(あだちコンタクトセンター)
一つのレンズで遠くにも 近くにもピントが合う

――老眼かな? と思ったら、早めに老眼鏡をかけたほうがいいですか。
足腰が衰えたとき、トレーニングをすると、筋力の低下を遅らせることができますね。
それと同じように、目も、一生懸命見ることで、進行をやや遅らせられることがあります。
しかし、あまり無理をすると目に負担がかかりますし、人によっては、早く老眼鏡をかけたほうがいい場合もあります。
見えにくいと感じたら、まずは気軽に眼科を受診してください。
――最近の遠近両用メガネは、かなり進化しているとか。
そのとおりです。
以前は、遠近両用メガネというと、「使いづらい」「見えにくい」とよく耳にしましたが、それは発売当初のレンズで、最近の「累進多焦点レンズ」は、格段に使いやすくなっています。
私(足立)も、累進多焦点レンズの遠近両用メガネをかけていますが、これ一つで車の運転もできますし、近くもよく見えるので便利ですよ。
目も疲れませんし、レンズの境目がないので、遠近両用と気付かれにくいのもうれしいです。
──どう違うのですか
遠近両用レンズには、二重焦点レンズと累進多焦点レンズがあります。
二重焦点レンズは、遠くを見る用のレンズの下に、手元を見る用の小窓があるもの。
いわゆる従来からある「境目のある遠近両用レンズ」です。
遠くと近くだけに焦点が合い、便利に使えるかたもいますが、中間距離が見えにくく、境目で急に見え方が変わるため、歩行時など、足元には注意が必要です。
それに対し、累進多焦点レンズは境目がなく、レンズ1枚の中に連続して焦点があり(累進設計)、遠くから近くまで、どの距離でもピントが合うように設計されています。
二重焦点レンズのように、境目で急に見え方が変わることもなく、外見上目立つ欠点もありません。
さらに、目的や用途に応じて作成でき、外出から室内まで、日常生活で幅広く利用することができます。
──それだけ、目にかかる負担は少なくなったのでしょうか。
そうですね。
目への負担は減ったと思います。
ただ、老眼が強い人は、度数の差が大きいので、慣れるまで時間がかかります。
そういう点では、老眼が進む前にメガネを作ったほうが、遠近両用レンズに慣れやすいと思います。
──累進多焦点レンズはとてもよさそうですが、何かデメリットはありますか。
レンズの側面に収差(ズレ)が出て、横目を使ったりすると、見え方にゆれやゆがみが出る点です。
これは、累進多焦点レンズの設計上、どうしても出てしまうものです。
現在、各メーカーでさまざまな設計での遠近両用レンズが開発され、それぞれに特徴があります。
例えば、レンズの大きさや、どこに累進設計があるかによっても見え方が違います。
なお現在は、レンズ外側に累進設計がある外面累進レンズ、内側にある内面累進レンズ、内外の両側に分けた両面累進レンズが販売されています。
後者になるほど視野が広がり、ゆれやゆがみも少なくなります。
慣れれば手放せなくなるくらい便利
──患者さんの反応は?
近視の人は、メガネをかけることに慣れているので、すぐ使いこなせる人が多いですね。
ただ、正視や遠視のように、もともと遠くが見えていた人や、少々神経質な人は、慣れるのに少し時間が必要な場合があります。
しかし、慣れてしまえば、これほど便利なものはなく、手放せないという人が大半です。
ただ、どうしても慣れないという人もいます。
──遠近両用メガネを作るときに注意する点はありますか。
目的や用途に合わせて選択するといいでしょう。
例えば、パソコンをする時間が長い人なら、約30㎝から1m以内がよく見える近々両用、部屋の中が不自由なく見えればいいという人なら、2~3mくらいまでが見える中近両用を選ぶと、目が疲れにくくなります。
──自分に合った遠近両用メガネを作るには、どこに行ったらいいでしょうか。
視能訓練士がいて、屈折矯正に力を入れている眼科に行くことをお勧めします。
メガネの度数を決める検査や、メガネ作成後の満足度など、眼科によって差が出ることがあります。
──量販店でも作れますか。
作れますが、レンズメーカーや価格によって累進設計が違うことがありますので、ご自身が希望したものと同じレンズか、累進設計が同じかなどをきちんと確かめてから、購入するといいでしょう。
──これから遠近両用メガネを作る人にアドバイスをお願いします。
必ず眼科で視力を測定してから、メガネを作ってください。
病気のチェックという点でも、眼科での視力測定が大事です。
また、メガネの度数が合わないと、頭痛や肩こり、目の疲れの原因になります。
メガネを作ったら、半年から1年に一度は、眼科で視力のチェックを受けてください。
古川さん、足立先生、有安先生