解説者のプロフィール

後藤利夫(ごとう・としお)
●新宿大腸クリニック
東京都渋谷区代々木2-12-4西原ビル501
03-5350-9080
http://www.daicho-clinic.com/
1988年、東京大学医学部卒業。専門は大腸内視鏡検査で、無麻酔・無痛検査法「水浸法」を開発。全国20以上の病院で大腸内視鏡検査を実践・指導。4万人以上を検査し無事故の実績を持つ。著書に『腸をきれいにする特効法101』(主婦と生活社)などがある。
「臭いおなら」には発がん物質が含まれ、大腸がんの原因にもなる
おなかにガスがたまると、苦しいですね。たまりすぎると、おなかがパンパンに張ってしまうし、出るガスも臭くなります。また、臭いガスにはニトロソアミンなどの発ガン物質が含まれており、大腸ガンの原因になります。
なぜ、おなかにガスがたまってしまうのでしょうか。
ガスを作るのは、大腸にいる腸内細菌です。食べ物が大腸に入ってくると腸内細菌が分解しますが、前半部分の上行結腸辺りでは善玉菌が多く、炭水化物などを分解してガスが作られます。
このガスは臭いがなく、毒性もありません。むしろ、腸を刺激して、腸の蠕動運動(内容物を先へと送り出す腸の働き)を活発にしてくれます。
しかし、腸の後半部分に行くにつれて、悪玉菌が増えてきます。悪玉菌は肉などのたんぱく質を分解し、窒素化合物や硫黄酸化物などのガスを作ります。このガスに毒性があり、また、臭いのです。
たんぱく質は適度に食べていれば小腸で分解されて大腸まで行くことはありませんが、食べ過ぎたり、質の悪いたんぱく質を取ると大腸で悪玉菌のエサになり、悪玉菌を増やします。
また、ガスは、便秘の人ほどたまりやすくなります。長く便が大腸にとどまっていると、腐敗が進み、ガスが発生します。
便やガスは腸の後半のほうにたまります。そこで悪玉菌が増殖し過ぎると、発ガン物質ニトロソアミンやガン化を促進する二次胆汁酸を作り、大腸ガンを引き起こすのです。
実際、大腸ガンは、S状結腸や直腸など、腸の後半に発生することが多いものです。
この便秘やガスの原因になるのが、「腸の下垂」です。
加齢や運動不足で、腸が下垂してしまう
大腸はおなかを一周しており、直腸、上行結腸、下行結腸の3ヵ所で固定されています。
横行結腸や肛門に近いS状結腸は、体内で固定されていません。そのため自由に動き、横行結腸がハンモックのように下垂したり、S状結腸がねじれてループを作るようになったりすることがあります。
すると、腸が長くなって便が移動しにくくなり、便秘しやすく、ガスもたまってきます。

腸が下垂する理由はいろいろありますが、その多くは加齢や運動不足による腸の筋肉の衰えが原因です。
腸管には平滑筋という筋肉があり、この筋肉が蠕動運動をして便を押し出しています。ところが、平滑筋が衰えると、腸がだんだん薄くなり、伸びて垂れ下がってきます。腸が薄くなると動きも悪くなるので、さらに便秘しやすくなります。
私はこれまで4万人以上の方の腸を見てきましたが、腸の薄い人は大腸内視鏡で見ると、裏側にある肝臓や脾臓が透けて青く見えます。それくらい薄くなってしまうのです。
また、腹筋の強さと腸の筋肉は相関関係があり、腹筋が強いと腸も強く、下垂しにくいようです。反対に腹筋が弱い人は、腸が垂れておなか(下腹部)がぽっこりしています。
溜まったガス(臭いおなら)を出す「スー出し体操」
下垂した腸を元に戻し、腸の動きをよくするには、腹筋を鍛えるのが一番です。とはいえ、腹筋運動は大変です。そこで皆さんにお勧めしたいのが、たまったガスを抜く「スー出し体操」です。
これは、あおむけに寝て、おなかをひねる体操です。腹筋を鍛えるものではありませんが、ひねることで便の通りの悪いところが解放され、ガスが出やすくなります。
コツは、深く息を吐きながら、ゆっくり行うことです。大腸は自律神経(意志とは無関係に内臓の働きを支配している神経)のうちの、心身をリラックスさせる副交感神経に支配されています。
ですから、ゆっくり行うことで副交感神経が刺激され、大腸の働きがよくなります。また息を深く吐くことで横隔膜が動き、腸が刺激されます。
同じ効果を得られるものに、ウオーキングがあります。歩く目安は一万歩です。歩く振動が腸を刺激して、おなかの動きがよくなります。この一万歩歩きも、ゆったり歩くと効果的です。
それと並行して、食物繊維を取ることも忘れないでください。食物繊維は善玉菌のエサになり、便の材料にもなります。ただし、便秘のひどい人がいきなり食物繊維を食べると逆効果です。少しずつ、食べる量を増やしていくといいでしょう。
便やガスが出やすくなる「スー出し体操」のやり方
【 ひざ倒し 】

❶あおむけに寝て、ひざを立てる。

❷口からゆっくり息を吐きながら、両ひざを右側に倒していく。両肩はしっかり床に着けて、ひざが倒れるところまで倒す。

❸左側も②と同様に行う。
※②から③を20回くり返す。
【 ひざ抱え 】

❶息を吐きながら、両ひざをおなかのほうに引き寄せ、両腕で抱え込むようにギュッと抱く。
❷息を吸いながら、両腕をゆるめる。これを5回くり返す。