解説者のプロフィール

小林敬和(こばやし・のりかず)
●タンタン整骨院
東京都豊島区東池袋2-31-14 リヴェール102 号
03-3590-0556
http://www.tantan-seikotsuin.net/
タンタン整骨院院長・柔道整復師。
柔道整復師の資格取得後、総合病院、整形外科、父の経営する「こばやし整骨院」などで経験を積む。2007年、タンタン整骨院を開院。「深層筋活性化療法(IAT)」という伝統ある手技療法を中心とした施術から、東洋医学、西洋医学、カイロプラクティック、気功、波動療法などを組み合わせた独自の施術を行っている。『「おでこを冷やす」だけで心と体が元気になる』(三笠書房)など著書多数。
おでこを冷やすだけで脳の血流がアップする
最近、体を温めることが、盛んに推奨されています。
しかし、ただ体を温めるより、いったん体を冷やしたほうが、もっと体が温まることをご存じでしょうか。
氷水に手を入れると、手は急激に冷えますが、その後一気に温かくなります。
これは、冷えた手を温めようと、手にたくさんの血液が集まるからです。
人間の体には、体を常に一定の状態に保とうとする「恒常性」が備わっています。
冷やした後に体が温まるのは、この恒常性が働くからです。
今回ご紹介する「おでこ冷やし」も、この原理を応用したものです。
なぜ「おでこ」なのかと言えば、おでこは脳血流を改善する最も効率のよい部位だからです。
頭部は、薄い筋肉や筋膜に覆われています。
その中で最も筋肉が薄く、かつ脳に近いのは、おでこです。
ですから、おでこを冷やすと、ダイレクトに脳の深部まで冷やせるのです。
脳を冷やせば、そこを温めようとして脳への血流が増えます。
脳血流が増えれば、脳の働きが活性化し、全身に脳の指令が届きやすくなります。
また、脳の血流がよくなると、頭を覆っている筋肉や筋膜がほぐれます。
すると、頭蓋骨を構成している骨が柔軟に動くようになり、脳脊髄液の流れがよくなります。
脳脊髄液は脳や脊髄に栄養を補給し、老廃物を回収する大事な液体で、自律神経(内臓や血管の働きを支配する神経)の働きにも深くかかわっています。
さらに、頭の筋膜がほぐれると、それにつながる全身の筋膜や筋肉がほぐれ、痛みやこりが取れてくるのです。

おでこ冷やしが「不眠」を改善する理由
頭痛、肩こり、腰痛、自律神経の不調……私の整骨院にはいろいろな症状の患者さんが訪れますが、すべての症状の根幹には「不眠」が隠れています。患者さんの中には、「慢性的な疲労感はある」と自覚しながらも、不眠の症状には気づいていないかたも多くいます。そのような患者さんに私が施術をすると、必ずといっていいほど眠りはじめます。施術後もしばらく気持ちよさそうに寝続けるかたもいるほどです。
よい睡眠をとることは、健康の大原則です。私は、夜、しっかり寝るためには、昼間に適度な緊張感を持ち、自律神経のうちの交感神経を高めておくこと、そして運動によって体をある程度疲れさせておくことが不可欠だと考えています。
自律神経は、私たちの意志とは関係なく、体の機能を維持・調節する神経で、交感神経と副交感神経の2つがあります。交感神経が優位なときは興奮状態で、副交感神経が優位なときはリラックスした状態です。
昼間に仕事をして、適度に交感神経が緊張している人は、夜はリズムよく副交感神経が働き、よい睡眠が取れているのではと思います。土日になると夜更かししてしまい、生活リズムが崩れるのは、昼間の適度な緊張が足りないためです。
不眠の傾向にある人は、昼間に交感神経の緊張が足りない人、デスクワークが多く、体の運動量が足りていない人、またはストレスを受けすぎ、自律神経のバランスが崩れている人などが考えられます。
自律神経のバランスが崩れると、脳の血流量が減ってしまいます。それにより、ますます交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかなくなるという悪循環が起こります。
私の整骨院では、脳を休ませ、自律神経を整える施術を行っていますが、それを家庭でも行えるように応用したのが「おでこ冷やし」です。
なぜおでこを冷やすとよいのか、それは、人間には、体を常に一定の状態に保とうとする働きがあるからです。つまり、体の一部分が冷えると、そこを温めようとして、血流がよくなるのです。
おでこが冷えるとそこを温めようと、真っ先に前頭前野をはじめとする脳に血が送られ、血流が改善します。その結果、交感神経と副交感神経の切り替えがスムーズになってバランスが整い、深い眠りを得られるようになります。
■おでこを冷やすと脳の前頭前野が温まる!
おでこのすぐ裏にある前頭前野、側坐核が冷えると、そこに血流が集まり、活性化する

私は、おでこ冷やしと同様の効果のある施術を当院で行い、自宅でもおでこ冷やしをするように患者さんに勧めています。
その効果は、頭痛、めまい、肩こり、腰痛、うつ、不眠、冷え症、肌荒れ、ダイエットと多岐にわたりますが、今回は不眠についてお話ししましょう。
おでこを冷やすと、不眠のような睡眠障害も一瞬にして改善します。
それは、次の理由によります。
①自律神経の切り替えが速くなる
おでこを冷やすと、一瞬、ヒヤッとします。
それによって、自律神経のうちの交感神経が刺激され、急激に優位になります。
しかしその後すぐにスイッチが切り替わり、副交感神経が優位になってきます。
睡眠は、副交感神経によってもたらされます。
しかし不眠の多くは、自律神経の切り替えがうまくいかず、いつまでも交感神経が高いために眠れません。
しかし、寝る前におでこを冷やすと、交感神経から副交感神経にスムーズに切り替わり、速やかに眠りにつくことができます。
②おでこのツボが刺激される
おでこには、多くのツボが集まっています。
その中に、肝と腎の機能を高めるツボがたくさんあります。
肝は自律神経をつかさどる経絡(気と呼ばれる一種の生命エネルギーの通り道)で、イライラを抑える作用があります。
また腎は、腎臓や膀胱の働きを支配する経絡で、排尿を整えたり、心の不安を鎮める作用があります。
ですから、おでこを冷やすことで心の安定が得られ、夜間頻尿も抑えられるので、安眠がもたらされるのです。
ご本人が不眠だと思っていなくても、よい眠りを得られていない人は多く、おでこ冷やしをした人から、「朝スッキリ目覚められる」「よく眠れるようになった」という声をよく聞きます。
あるかたからは、普段4時に目が覚めるおばあさんが、おでこ冷やしをしたら、6時まで熟睡していたという話を聞いたこともあります。
また、不眠を伴うことの多いうつも、おでこ冷やしで改善します。
この場合、もちろん不眠も解消しています。
おでこ冷やしは、朝と夜の2回行うといいでしょう。
朝、起きたときにすると自律神経が整い、脳血流が増えて、その日1日を活動的に過ごせます。
日中体をよく動かせば、自然に夜も熟睡できるようになります。
夜は、寝る前に行ってください。
お風呂上がりなら、さらに効果的です。
ただし、おでこ冷やしの後の入浴は避けてください。
また、凍傷の危険があるので、やり過ぎも禁物です。
なお、脳の疾患(脳腫瘍や脳梗塞、脳出血の発作直後など)のある人は、しないほうがいいでしょう。
おでこ冷やしのやり方(氷嚢で行う場合)

おでこ冷やしのやり方(保冷剤で行う場合)

【準備するもの】保冷剤
❶保冷剤をおでこの形に合うように凍らせる

❷全身をリラックスさせながら保冷剤をおでこに当て、1分間冷やす

首を冷やしてもOK

横になれない場所では首を1分間冷やしてもよい
リラックスしながらやるのがたいせつ
おでこ冷やしは、大原則として、1回につき1分間だけ行うこと、1日2回まで、時間を空けて行うことを守ってください(連続して行わないこと)。1分以上行うと冷やし過ぎになります。
あおむけに寝て、リラックスしながら行うこともたいせつです。これまでは氷嚢を作って行うことを勧めていましたが、最近はどこでも安価で手に入るソフトタイプの冷却枕や冷却剤もあり、それを使用しても構いません。氷嚢は氷を使うだけなのでお金がかからないのでお勧めですが、冷却剤も凍らせて何度も使えるので便利です。
ただし、薬局などで売っている熱冷まし用のシートは適しません。皮膚の表面しか冷やせず、脳まで届かないので、じゅうぶんな効果が得られません。
首を冷やしても「脳」全体を冷やすことができる
夏の暑い日やストレスを感じたときなどは、「首を冷やす」のもお勧めです。首を冷やすと頸動脈の血液が冷え、脳全体を冷やすことができます。これは脳全体の血流を促進し、脳を温め、疲労を取ることにつながります。ただし、首を冷やす場合も1分間です。
これまで私は整骨院に訪れた述べ7万人以上の患者さんにおでこ冷やしを施術してきました。不眠はもちろん、頭痛、肩こり、腰痛、坐骨神経痛、高血圧、うつ、不安感、眼精疲労、夏バテ、子宮内膜症、アトピー性皮膚炎、肌荒れ、肥満など、多くの症状がおでこ冷やしで改善しています。ギックリ腰や骨折などで来院する患者さんも、患部への施術や処置と並行しておでこを冷やすと、早期に回復する傾向にあります。
また、おでこ冷やしを行うことで、「シミが消えた」「しわが減った」という人もいます。顔面への血流がよくなることで、シミやしわの根本原因を断ち、美肌になるのです。
もう1つ、よい睡眠を取るためにアドバイスがあります。私の整骨院の施術室は、蛍光灯を消し、あえて薄暗くしています。この状態でおでこ冷やしをすると、ほとんどの患者さんは施術中に寝てしまいます。部屋を薄暗くすることで、脳や神経を落ち着かせ、寝る前の準備をするのです。
私が勧めたいのは、夜寝る前だけ消灯するのではなく、夕方くらいから居間の照明を落とすことです。日本で不眠が増えている一因は、日本の住宅や店舗の照明が明るすぎることにもあると思います。
夜になったら暗くなり、眠くなるのが自然のリズムです。自宅の照明の明るさは必要最低限にして、脳をリラックスさせて、体を眠る体勢にしましょう。