よく眠りたければ朝の過ごし方が重要
不眠を解消して、心地よい眠りを得るために、夜の過ごし方や寝室の環境を整える人は多いでしょう。
もちろんそれらも大切ですが、眠りを改善するためのより重要なキーは「朝」にあります。
「朝の早起き」もその一つ。
同時に、ぜひ気を配りたいのが「朝食」の内容です。
実は、朝食の内容は眠りの質に大きくかかわるのです。
たとえば、「トーストとサラダとコーヒー」という朝食を食べたとします。
サラダを食べているので、一見、ヘルシーなメニューにも感じられるかもしれません。
しかし、よい眠りを得るためには、ある栄養成分が圧倒的に不足しています。
それは「トリプトファン」というアミノ酸です。
トリプトファンは、体内では合成できない必須アミノ酸の一種で、食品から取るしかありません。
アミノ酸はたんぱく質の構成成分ですが、単独でもさまざまな機能を持っています。
そして、トリプトファンの重要な機能の一つが、「神経伝達物質であるセロトニンの材料になる」ということです。
そのセロトニンを材料にして、眠りを促す睡眠ホルモンである「メラトニン」が作られるのです。
ですから、おおもとの材料であるトリプトファンを十分に取っていないと、セロトニン、ひいてはメラトニンをしっかり分泌させることができません。
しかも、トリプトファンを取ってからメラトニンが生成されるまでには時間がかかります。
そのため、朝食でしっかりトリプトファンを取ることが重要なのです。
いつもの朝食に納豆やバナナをプラス
トリプトファンは、納豆などの大豆製品、バナナ、牛乳・乳製品、ナッツ類、魚、肉、卵などに豊富に含まれています。
一度に取る量は、納豆なら1パック、バナナなら1本、卵なら1個など、ごく一般的な量で十分です。
先ほどのメニューでいえば、目玉焼きかハムエッグを添えるだけでも、トリプトファンが摂取でき、安眠を促すメニューになります。
バナナやヨーグルトをプラスすればさらによいでしょう。
和食なら、納豆を添えるだけで、トリプトファンの摂取量を増やせます。
特に、バナナやパックの納豆なら、手軽に取れて便利です。
不眠の悩みを抱える人は、ぜひ明日の朝食から、トリプトファンの豊富なこれらの食品を積極的に取ってみてください。
理想は、バランスの取れた食生活の中に、これらを組み込むことです。
しかし、時間がなくて、どうしても朝食を抜いてしまうという人は、せめてバナナやゆで卵、ナッツなど、どれか一つだけでも取りましょう。
完全に朝食を抜くよりは、はるかに睡眠を促す力になります。

光のコントロールと合わせて行うこと
ただし、朝食で取ったトリプトファンを有効に生かすには、「光」にかかわる二つのポイントも同時に実践する必要があります。
その一つは、朝のうちから光を浴びるということです。
私たちが摂取したトリプトファンは、光を浴びることでセロトニンへの変換が促されます。
同時に、光を浴びることで、メラトニンの分泌は抑制されます。
その分、メラトニンの材料を体内にため込んで、夜になったら一気に出して睡眠を促すことができるのです。
ですから、トリプトファンの豊富な食事を取ったら、30分以内に外に出て光を浴びるのが理想的です。
最初から、庭やベランダで朝食を取れればなおよいでしょう。
外に出られないなら、せめて窓を大きく開けて、光を浴びましょう。
光にかかわるもう一つのポイントは、「夕方以降は強い光を浴びない」ということです。
文明の進んだ現代でも、私たちの体の根本的な機能は、太古の昔とそれほど変わりません。
強い光は日中を意味するので、体は活動性を保ち、睡眠ホルモンのメラトニンは、自然に抑制されます。
夜、明るい蛍光灯の下で過ごしたり、パソコンやスマートフォン、テレビなどの画面を見たりすると、この状態になってメラトニンが抑制されるため、寝付きが悪くなるのは当たり前なのです。
せっかく朝食で、メラトニンの材料になるトリプトファンを取っても、光のコントロールができていないとムダになってしまうわけです。
夜は暗めの照明にし、パソコン・スマートフォン・テレビなどの画面は、少なくとも寝る前の時間帯には見ないようにしましょう。
蛍光色でなく、オレンジがかった電球色の照明なら、夕日の波長に近く、メラトニンの分泌が抑制されにくいので、お勧めです。
不眠の悩みを持つ人は、朝食でのトリプトファン摂取と、こうした光のコントロールを、ぜひ合わせて実践してみてください。
簡単なことですが、これだけで寝付きがよくなり、眠りも深くなったという人は多いのです。
安眠を促す毎日の習慣として、定着させるとよいでしょう。
解説者のプロフィール

宮崎総一郎
中部大学生命健康科学研究所特任教授。
1954年生まれ。医学博士。
日本睡眠教育機構理事長。
近著に『ぐっすり眠りたければ、朝の食事を変えなさい』(PHP研究所)がある。
●日本睡眠教育機構
http://sleep-col.com/