解説者のプロフィール
誰でも毎日催眠を体験している
私は診療でヒプノセラピー(催眠療法)を用いています。
ヒプノセラピーを語る上で欠かせないのが、「顕在意識」と「潜在意識」です。
私たちの意識のうち10%は、理性、思考、判断を司る顕在意識。
残り90%は感情、感覚、記憶を司る潜在意識と言われます。
潜在意識は、文字どおり隠れています。
自分では意識できない領域ですが、情報処理能力は顕在意識の100万倍と言われます。
催眠とは、ふだんあまりつながっていない潜在意識にアクセスし、「顕在意識と潜在意識がつながった状態」になることです。
ちゃんと意識(顕在意識)が働いているので、操られることはありません。
安心してくださいね。
催眠を特別な状態と感じられるかもしれませんが、誰でも1日に十数回は催眠状態を体験しています。
起床時や就寝前の意識がぼんやりしているとき、瞑想やヨガなどをして心静かにしているときは、実は催眠状態にあります。
習慣化していることも、広い意味では催眠状態です。
毎日通う場所には、無意識でたどり着けますよね。
映画を観て共感しているときも催眠状態。
顕在意識では作りごとだと分かっているのに、潜在意識では映画の世界と自分の感情が共鳴し、涙ぐんだりします。
映画の世界をあたかも自分が、体験しているかのように感じているのです。
催眠状態になると免疫力が上がる
人間の生命活動に欠かせない自律神経(※呼吸、体温調整、消化といった、人間の生命活動に欠かせない機能を支える、体中に張り巡らされたネットワーク。)は、交感神経と副交感神経の2つから成り立っています。
交感神経は私たちの心身を興奮、緊張させ、活動状態に導きます。
しかし、常に交感神経が優位だと疲れてしまい、高じるとうつにもなり得ます。
顕在意識だけで過ごしていると、日常生活で入ってくるたくさんの情報を判断し続けることになります。
そのため、交感神経優位になりやすく、ストレスを感じやすいのです。
一方、副交感神経は、私たちの心身を弛緩させて、リラックス状態へと導きます。
催眠状態では、脳波に「アルファ波」や「シータ波」(※いずれも脳波の種類を表す。アルファ波は安静時、シータ波は深いリラックス状態のときに出る脳波。)が現れることがわかっています。
つまり、潜在意識につながった催眠状態は、リラックスしているので、副交感神経優位になりやすいのです。
例えば、副交感神経優位になると、リンパ球による免疫力が向上します。
ガンの免疫を司っているのはリンパ球ですが、実はこれらは、副交感神経が支配しています。
経験上、緊張している人は、ガンなどの病気が治りにくい傾向があります。
リラックスして、副交感神経優位になる時間が必要なのです。
催眠状態とは、潜在意識と顕在意識がつながった状態を指す

潜在意識とつながり本来の生き方を取り戻す
潜在意識は、私たちの体ともつながっています。
例えば、心臓移植をすると、心臓を受け取った人は、食べ物の好みや習慣が提供者とそっくりになるケースがあります。
また、殺されて亡くなった提供者の記憶が蘇り、犯人が捕まった例もあります。
つまり、細胞には感情や記憶が埋め込まれているということ。
細胞は潜在意識とつながっているのです。
心臓が単なる血液ポンプであれば、こうしたことは起こり得ません。
細胞に記憶があるなら、ガン細胞にも記憶があります。
私がガン患者さんにヒプノセラピーを行う場合、潜在意識につながっていき、ガン細胞と話をします。
すると、潜在意識にある“感情のしこり”が明らかになります。
これがガンを作っていることも多いのです。
以前、講演会で100人ほどのかたに催眠誘導をしました。
講演を終えるとある女性がやってきて、「死のうと思っていたが、内側から声が聞こえて『死んじゃだめだ』と言うので、生きようと思った」とおっしゃっていました。
患者さんは病気を治す答えを、自分の潜在意識の中に持っていて、答えに気づくお手伝いをするのが催眠というわけです。
これ以外にも、潜在意識とつながることで、拒食症や対人恐怖症を克服されたり、家族問題を解決されたり、花粉症や腰痛が改善したり、胃ガンの進行が止まったりと、催眠療法には多くの実例があります。
人は誰しも潜在意識の中に、問題解決力や自己治癒力を持っています。
そうした力を思い出せば、本来はもっと輝いて、自分らしい生き方ができるのです。
萩原優
イーハトーヴクリニック院長。医学博士。広島大学医学部卒業。聖マリアンナ医科大学第一外科にて消化器外科、内視鏡診断・治療、緩和医療に従事し、第一外科講師、消化器外科准教授を経て、外科部長に就任。30年以上にわたり3000件以上の手術に関わる。現在は、イーハトーヴクリニック院長、聖マリアンナ医科大学客員教授、日本緩和医療学会評議員などを務める。著書に『医師が行う「ガンの催眠療法」CDブック』(マキノ出版)など。