解説者のプロフィール
小学生の5人に1人が慢性便秘

何日も便秘が続き、やっと便意がきたと思ったら、便が硬くて排便に苦しんだ――そんな経験があるかたは少なくないのではないでしょうか。
実は、便秘になるのは大人だけではありません。
「慢性便秘」と診断される子どもは意外に多く、私のクリニックにも、便秘に苦しむ小さい患者さんは多くいらっしゃいます。
先日、NPO法人日本トイレ研究所が、全国47都道府県の小学生4833名の保護者を対象に、排便に関するアンケート調査を実施したそうです。
それによると、慢性便秘と考えられる子どもは20・2%にのぼりました。
小学生の5人に1人が、慢性便秘だということです。
国際消化器病学会の診断基準では、以下のように、子どもの慢性便秘を定義しています。
●1週間に2回以下の排便
●トイレ・トレーニングを習得したのに、週1回以上の便失禁がある
●おなかに大量の便がたまっている
●排便時に痛みがある
●直腸に大きな便の塊がある
●トイレが詰まるほど便が大きい
このうち2つ以上の項目が、1カ月以上当てはまる場合、慢性便秘と診断されます(※4歳以上の場合は「これら項目の2つ以上が当てはまり、かつ過敏性腸症候群の基準を満たさない」ことと定義されている)。
子どもの便秘の理由は多様です。
幼児の場合によく言われるのが、幼稚園入園などの環境の変化です。
自宅では行きたいときにトイレに行けたのに、幼稚園ではそうはいかない。
トイレに行くタイミングがつかめないうちに、便意をなくしてしまうのです。
また、弟や妹が生まれて赤ちゃん返りをし、トイレに行かなくなるというケースもあります。
便秘の苦痛が継続すると、トイレ・トレーニングが完了していた子どもでも、トイレに行かずに立ったまま出すなど、独自のスタイルで排便するようになります。
5~6歳になっても、おむつでなければ排便できないという子もいます。
小学生になると、恥ずかしくて学校で排便できず、我慢しているうちに便秘が慢性化する子も多いです。
子どもの便秘は、放置していると「便秘の悪循環」(上図参照)にはまって、重症化しがちです。
便秘が重症化すると、「便漏れ」(上図参照)が起きます。
腸の蠕動と肛門の動きがうまく連動せず失禁したり、大量の便が自力で排泄できず、下痢便が漏れてしまうのです。
子供の重症便秘(実例)

ウンチについて親子で気軽に話してほしい
便漏れに気づいたら、すぐにでも診察を受けましょう。
かかりつけの小児科でもかまいません。
また最近では、子どもの排便外来を設置する病院も、全国に増えています(※全国にある子どものための排便外来のリストが見られる(日本トイレ研究所))。
特にご年配のかたを中心に、便秘を病気と考える人はまだ少ないようです。
しかし子どもが排便時に痛みや苦痛を訴えたら、「便秘くらいで」と思わずに、病院へ行くべきです。
子どもの便秘を防ぐため、また便秘の悪循環を断ち切るためにお勧めしたいのが、「声掛け」です。
トイレから出てきた子どもに、
「ウンチ出た?」
「いっぱい出た?」
「痛くなかった?」
などと話しかけて、親子の間で、ウンチについて気軽に話す習慣をつけるとよいでしょう。
トイレに時間がかかっていないか観察するのもたいせつです。
簡単なことですし、ぜひ今日から実践してみてください。
親子で、その日の便について話せたら、それを「排便日誌」(下図参照)に記録しておくといいでしょう。
排便リズムを把握できますし、病院を受診する際にも役立ちます。
排便日誌は、小学生くらいになれば、子どもが自分で記録することもできます。
また、「朝や食後(便を直腸まで移動させる、特に大きな蠕動が起きやすい時間帯)にトイレに座る習慣をつけようね」、「小学校や幼稚園など家以外の場所でも、我慢せずにトイレに行こうね」などと伝えておくこともたいせつです。
最後に、子どもの便秘を重症化させないためには、病院からの指示を守ることをお願いします。
浣腸や便秘薬がクセになるかもしれない――と自己判断で中断してしまう親御さんが多いですが、それが便秘の悪化につながることもあります。
病院から出される便秘治療薬や浣腸がクセになることはありません。
たいせつなのは、いったん直腸をからっぽにすること。
直腸をからにしないと、次の便が下りてきても、便意が起きないからです。
自分でウンチを出せる腸に戻すために、浣腸や薬を使っているのだとお考えください。
小児科医が勧める「排便日誌」

日本小児栄養消化器肝臓学会ホームページからダウンロードできます。
©小児慢性機能性便秘診療ガイドライン作成委員会
石丸由紀
1964年生まれ。1989年、獨協医科大学卒業。獨協医科大学越谷病院小児外科助手、同大学病院講師などを経て、2014 年、愛クリニック(埼玉県・所沢市)院長に就任。日本小児外科学会評議員、日本外科学会専門医。日本小児泌尿器科学会所属。