解説者のプロフィール
夜、寝ようとすると、脚の奥にむずむずと不快な感じが起こり、なかなか寝付くことができない。
飛行機などで長時間座っていると、脚がむずむずして、動かさずにいられなくなる……。
もし思い当たるようなら、「むずむず脚症候群」かもしれません。
悩んでいる人は意外と多く、日本では200万人以上の患者がいるとの推計もあります。
しかし、従来あまり知られておらず、気のせいと片づけられたり、ほかの病気と間違われたりするケースも多かったようです。
ですが近年、有効な治療薬が次々に登場し、適切な治療を受ければ、劇的に改善することも多いそうです。
睡眠障害を専門に扱う、睡眠総合ケアクリニック代々木の中村真樹先生にお話を伺いました。
【取材・文】山本太郎(医療ジャーナリスト)
ふくらはぎに虫がはうような違和感
――「むずむず脚症候群」とは、どのような病気なのでしょうか?
夜に寝ようとしたときなどに、脚を中心にむずむずと不快な感覚が生じる、慢性疾患です。
正式には、「レストレスレッグス症候群」といいます。
むずむず脚症候群には次のような特徴があり、診断するさいの基準にもなっています。
・脚に不快感を覚えて、脚を動かしたくなる
「むずむずする」「虫がはうような」と、人によって表現はさまざまですが、非常に不快な感覚が脚に起こります。
ふくらはぎに起こる人が多いですが、足首や腰の周りにも起こることもあります。
症状は、そのつど違う場所にではなく、同じ場所に起こるのが特徴です。
また、皮膚の表面に起こる「かゆみ」とは異なり、脚の内部に起こります。
・リラックスしているとひどくなる
横になっている、座っているなど、安静時や体を動かしていないときほど、不快な症状が起こりやすくなります。
・夜に症状がひどくなる
症状は主に、夕方から夜にかけて起こるのが特徴です。
特に夜、眠ろうと横になると症状が現れて、寝付けずに苦しむ人が多いものです。
ただし、進行すると、日中でも症状が起こることもあります。
・脚を動かすとらくになる
歩いたり、ストレッチをしたりして脚を動かすと、少なくともその間は症状が軽くなります。
実は、むずむず脚症候群は、つい数年前まで、医療関係者にもあまり知られておらず、数年間、診断がつかずに苦しむ人も多かったのです。
病院に行くと筋肉痛ではないかと湿布を出されたり、うつ病を疑われて抗うつ薬を出されたり、眠れないとのことで睡眠薬を出されたりしたものの、改善することはなく、長年、さまざまな病院を渡り歩く患者さんも少なくありませんでした。
むずむず脚症候群の症状の特徴

はっきりした原因は解明されていない
――むずむず脚症候群は、どのような原因によって起こるのでしょうか?
まだ、はっきりとした原因は解明されていませんが、次のような問題が関係していると考えられています。
・遺伝的要因
遺伝性があり、親にこの病気があると、子どもも発症する確率が高くなることがわかっています。
特に、若くして発症するケースは遺伝的要因が関与しているとの見方が強まっています。
・ドーパミンの機能障害
脳の中で情報を伝達する、視床下部のドーパミンという物質の機能障害が関与している可能性が高いと考えられています。
視床下部のドーパミンには運動や感覚を制御する神経の興奮を抑える働きがあり、ドーパミン不足は運動や感覚の過剰な興奮につながります。
実際に、ドーパミンの働きを改善する薬に、むずむず脚症候群の治療効果があることからも、この仮説は有力視されています。
・鉄分の不足
鉄はドーパミンの合成に欠かせない物質で、鉄が不足すると、ドーパミンの合成が滞ります。
・ほかの病気や薬剤の影響(二次性)
原因が特定されていない特発性(一次性)のものに対して、ほかの病気や薬の影響で起こるものを二次性RLSと呼んでいます。
鉄分の不足を招く鉄欠乏性貧血や月経過多、妊娠、慢性腎不全、関節リウマチ、糖尿病、パーキンソン病などの神経の病気、抗うつ薬などの服用が、むずむず脚症候群の原因となることがあります。
予備軍を含めると200万人以上
――この病気になる人は増加しているのですか?
1995年に国際的なむずむず脚症候群の診断基準が作成されるとともに、しだいにこの病気への認知が進んできました。
その結果、診断のつく患者数は増えています。
ただ、実は昔から一定の割合でかかる人がいて、特に近年、増加傾向にあるわけではないと考えられます。
文献をたどると、17世紀にイギリスの内科医トーマス・ウィリスがこの症状を報告しています。
「RLS」という病名は、1945年にスウェーデンの神経科医カール・エクボムがつけました。
これまでの疫学調査の結果から、欧米人、特に白人には5〜10%、アジア人で2〜4%くらいの人に起こるといわれています。
日本での発症率はそれよりも少し低いと見られていますが、治療が必要な患者数は60〜180万人程度、予備群も含めると200万人以上に上ると推測されます。
男女別では、女性のほうが若干多いことがわかっています。
女性で妊娠を機に起こるケースが目立ちますが、その場合は出産後に自然に治まることも多いものです。
年齢が上がると男女ともに、この症状を訴える人が増える傾向にあります。
むずむず脚症候群の要因

治療の中心は薬物療法
――むずむず脚症候群の診断や治療は、どのように行われるのでしょうか?
通常は、まず問診をもとに診断します。
最初に述べた四つの特徴すべてに当てはまれば、むずむず脚症候群である可能性が高いと考えられます。
また、むずむず脚症候群の患者さんには高い確率で、就寝中に脚や腕がピクッとくり返し動く現象(周期性四肢運動:PLM)が認められます。
PLMの合併を確認するため、睡眠ポリグラフ(PSG)検査を行う場合があります。
この検査は、睡眠中の脳波や心電図、筋肉の動きなどを測定し、この現象を見つけるもので、ひと晩の入院が必要です。
問診だけで明らかに診断できない場合や、二次性RLSが疑われる場合、血液検査や神経伝導速度検査などを行う場合があります。
治療は薬物療法が中心になります。
主に、次の3種類の薬が使われます。
最も広く使われているのは、プラミペキソール(商品名:ビ・シフロール)という薬です。
ドーパミンの働きを改善する薬で、2010年に治療薬として初めて健康保険が適用されました。
治療効果は高く、当クリニックでは、プラミペキソールの服用によって、8割程度の人には、日常生活に支障が出ない程度に症状の改善が見られています。
ただし、胃腸障害などの消化器症状が副作用として起こることがあります。
妊娠中や慢性腎不全の患者さんには原則、使えません。
また、この薬は飲み過ぎると、かえって症状を悪化させてしまうことがあり、注意が必要です。
むずむず脚症候群の薬は症状を抑えるためのものですから、基本的には飲み続ける必要があります。
同じく、ドーパミンの働きを改善する薬で、2013年に健康保険適用になったのがロチゴチン(商品名:ニュープロパッチ)です。
これは貼り薬で、成分が徐々に溶け出して皮膚から吸収されていきます。
1日に1回貼り替えることで、血液中の薬の濃度を一定に保て、作用している時間が飲み薬より長いのが利点です。
むずむず脚症候群は進行すると、夜だけでなく日中にも症状が起こるようになることがありますが、そういうケースにはロチゴチンが向いています。
ロチゴチンはプラミペキソールより副作用が現れにくく、腎不全の患者さんでも使うことができます。
一方、薬の効果が現れ始めるまでに時間がかかるのが、弱点ともいえます。
プラミペキソールは服用したその日から症状の改善効果が見られる人がほとんどですが、ロチゴチンは一般に症状の改善まで2〜3日はかかることが多いものです。
また、貼ったところの皮膚が赤く腫れたり、かゆくなったりすることがあり、貼る場所を日によって変えるなどの対策が必要です。
三つめが、ガバペンチン・エナカルビル(商品名:レグナイト)です。
これは、前の二つとはまったく違った働きをする薬で、GABA神経系という抑制系の神経の働きを高め、神経の過剰な興奮状態にブレーキをかけるように作用します。
もともと抗てんかん薬(てんかんの治療に用いられる薬)として用いられていたガバペンチンを改良したものです。
レグナイトの長所は、脚の不快感や痛みの鎮静作用があることに加え、睡眠を深くする作用があることです。
症状が起こるのが夜だけで、特に不眠に悩んでいるような人には適しています。
一方、副作用として眠気やふらつきが生じることがあるので、服用後に自動車などを運転することは禁じられています。
まずは内科のかかりつけ医に相談を
――治療を受けたい人は、何科を受診すればいいのでしょうか?
本来は「神経内科」が専門とする病気なのですが、「何科に行っていいのか、わからなかった」という声は実際によく聞かれます。
症状を「かゆみ」と捉えて皮膚科に行く、あるいは「痛み」と捉えて整形外科に行くという人が多いです。
また、むずむず脚症候群によって寝不足になった結果、「不眠」を訴えて、心療内科や精神科に行く患者さんもいます。
そして不眠症と診断され、睡眠薬だけを処方されることがありますが、睡眠薬で眠気が強くなると、かえって脚の不快感が増し、「眠りたいのに眠れない」という事態に陥ってしまうことが多いです。
ほんの数年前までは医療関係者でも、むずむず脚症候群について知らず、別の病気と間違われることも多かったのですが、近年ではだいぶ認知度が高まり、適切に診断されるケースが増えてきています。
まずは、かかりつけの内科医に相談して、睡眠障害専門の病院やクリニック、あるいは、大学病院や総合病院の神経内科を紹介してもらうのがいいでしょう。
――患者さんが、日常生活で何か注意すべき点はありますか?
症状を悪化させる生活習慣上の要因としては、睡眠不足、鉄分不足につながるような偏った食生活、カフェインやアルコールの取り過ぎ、喫煙などが挙げられます。
こうした生活習慣を避けることが大切でしょう。
寝る前に、ストレッチなどで脚を伸ばすのも症状の軽減によいと思われます。
ただし、筋肉疲労が残るような、負荷の大きな運動は逆効果になりかねません。
運動を終えたら、脚をマッサージしたり、入浴したりして、筋肉の疲労をケアするといいでしょう。
これは個人差があるのですが、お風呂で脚を温めたり、反対にシャワーで冷やしたりすると、症状が軽くなるという声も聞かれます。
そして、一般に言えることですが、十分な睡眠時間が取れるように(一般的には6〜7時間が目安)、決まった時間に就寝・起床することが睡眠の量・質の確保という面からも重要です。

中村真樹
1997 年、東北大学医学部卒業。2003 年、同大学大学院修了。東北大学病院、東北大学精神科助教などを経て2012 年より現職。東京医科大学睡眠学講座客員講師兼任。睡眠の専門医として、日々多くの症例に接するほか、雑誌などで快眠法などを一般読者向けにわかりやすく解説する。日本睡眠学会認定医、日本精神神経学会専門医。