少食と水分不足が高齢者の便秘の大敵
高齢になると、便秘に悩む人が男女を問わず増えます。
平成25年度「国民生活基盤調査」によれば、便秘を自覚している人は、全年齢では、男性が1000人あたり26人(2.6%)、女性は、48.7人(4.9%)となっています。便秘に悩む人は、60代までは圧倒的に女性が多数ですが、70代以降は男性も増え、80歳以降になると、男女ともに10%以上の人が便秘を自覚するようになります。
高齢になると、便秘が起こりやすくなるのは、いくつかの原因が考えられます。
まず、大腸や周辺の筋力が低下し、腸の蠕動運動(内容物を先へと送り出す腸の働き)が弱まることです。
日常生活の習慣も便秘に大いに関係しています。例えば、同じ年代の人でも、便秘になるのは太った人よりも、実はやせた人のほうが断然多いのです。
やせている人は、一般的に食事の量が少ないものです。食事の量が少なければ、腸に入ってくる内容物の量も少なくなります。便もあまり作られなくなります。使わない筋肉が衰えるのと同じで、腸の蠕動運動も衰え、便を押し出す力が弱って、便秘が起こるのです。
加えて、高齢になると、水分の摂取量も少なくなります。高齢者は、トイレへ行くのが頻繁になったり、夜中に尿意で目が覚めたりするのを嫌うため、水分摂取を抑えてしまう人が多いのです。
便は、実はその大半が水分で、重さにして約7~8割が水分です。水分量が9割を超えると、ビシャビシャの下痢便になり、7割を切ると、カチカチの硬い便になります。水分摂取量が少ないと、便が硬くなり、腸の中を進みにくくなって、便秘がひどくなります。
このように食事量や水分量の減少は、高齢者の便秘を招く大きな要因となっています。
そこで、やせた高齢者の便秘解消のためには、「少食は便秘の大敵」と考え、よく食べることを心がける必要があります。高齢者はたんぱく質や脂質がとくに不足しがちなので、積極的に肉や魚を食べるといいでしょう。
起き抜けに水を飲むのが便秘解消のポイント
また、じゅうぶんな水分補給も重要です。
1日に摂取すべき水分量は、およそ「体重の30分の1」が目安になります。体重60kgなら約2Lです。
これは食品中の水分も含む量ですから、毎食きちんと食べているのならば、飲料として摂取する量は1.5L程度になるでしょう。
水分をきちんと取ると、大腸内で便が水分を含み、動きやすい硬さになります。水分で便のかさも増すので、腸壁に刺激が伝わり、それが腸の蠕動運動を活発化させるのです。
水の飲み方は、まず「起き抜けにコップ1杯の水」を習慣にしましょう。
ことに、冷たい水が空っぽの胃に入ると、その刺激で大腸の蠕動運動が活発になります。一度に飲む量は、コップ1杯程度でよいので、取る回数を多くし、こまめに水分補給をしてください。
冷水が副交感神経の働きを高める
もう一つ試みて欲しいのが、冷たい水での手洗いです。
腸の動きは、私たちの意志とは無関係に内臓や血管をコントロールする自律神経の支配下にあります。自律神経は、主に活動時に優位になる交感神経と、主に安静時に優位になる副交感神経とがあり、両者がバランスを取りながら働いています。
腸は、副交感神経が優位のときによく動くのですが、この腸を動かす副交感神経の働きが加齢とともに低下します。副交感神経の働きを活発にさせるのが、冷水での手洗いなのです。
やり方は簡単です。気付いたときに冷水で手を10~20秒間洗うだけだけです。
冷水を手で受け止めると、一時的に交感神経が優位になって、血管がキュッと収縮します。前方に揺れたブランコがそのまま後方に戻ってくるように、しばらくたつと副交感神経が優位となってくるのです。
このような刺激によって、自律神経の振れ幅を作ることが、交感神経と副交感神経のバランスを整え、低下しがちな副交感神経の働きを活性化します。それが、腸の動きをよくすることにもつながるのです。
冷たい水と熱いお湯を交互に浴びる温冷浴なども、同様の理由から、腸の活動を高める可能性がありますが、全身の温度を大きく変えることは体に負担がかかります。ことに高齢者には勧められません。
その点、気付いたときに手を冷やすこの方法ならば、体にかかる負担も少ないはずです
食事量の減少や水分摂取量の不足などは、生活の中の意外な盲点です。高齢者で便秘に悩んでいる人は、ぜひ自分の生活を振り返り、便秘対策に取り組んでいきましょう。

冷水が自律神経を刺激する
解説者のプロフィール

瓜田純久(うりたよしひさ)
1985年、東邦大学医学部卒業。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本超音波学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本消化器病学会認定医、日本消化管学会胃腸科指導医、日本病院総合診療医学会認定医などとして活躍。テレビ番組の医療コメンテーターとしても、わかりやすい語り口で人気。監訳書に『Dr.アップルの早期発見の手引き診断事典』(マイケル・アップルほか著、産調出版)などがある。
朝1杯の水が腸を目覚めさせる