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【眼瞼下垂の最新手術】腱膜固定術のメリット 肩こりや頭痛が改善した例も

【眼瞼下垂の最新手術】腱膜固定術のメリット 肩こりや頭痛が改善した例も

眼瞼下垂とは、まぶたの機能に障害が生じて、まぶたが開きづらくなっているものをいいます。まぶたが下がってくると、上眼瞼挙筋を強く収縮させて物を見ようとするため、目の上奥が痛くなる群発頭痛や眼精疲労が起こります。【解説】松尾清(松尾形成外科・眼瞼クリニック院長、信州大学医学部特任教授・名誉教授)

解説者のプロフィール

松尾清
1978 年、信州大学医学部医学科卒業。信州大学医学部附属病院形成外科教授、米国ペンシルベニア大学形成外科特任研究員等を経て、2016 年より現職。信州大学医学部形成再建外科学教室名誉教授・特任教授。眼瞼下垂の新しい治療法「腱膜固定術」(松尾式)を考案。手術実績は1万件以上。著書に『まぶたで健康革命』(小学館)がある。

まぶたを持ち上げる筋肉の働きが衰えて、まぶたがたれ下がり、目が開きづらくなる「眼瞼下垂」は、加齢に伴って誰でも少なからず起こってくる症状です。
眼瞼下垂が進むと、まぶたに視界がさえぎられて見えにくくなりますが、困るのはそれだけではありません。

実は、頭痛や肩こり、さらには、まぶたの働きが脳や自律神経に影響を及ぼし、不眠やうつ症状などの原因になることもわかってきました。
実際に、眼瞼下垂を治す手術によって、長年悩まされてきた不調から解放された人も多いそうです。

眼瞼下垂手術のスペシャリストで、まぶたと脳の関係を明らかにした、松尾形成外科・眼瞼クリニックの松尾清先生にお話を伺いました。

【取材・文】山本太郎(医療ジャーナリスト)

まぶたをこするだけでも筋肉が切れてしまう

―眼瞼下垂は、どのようにして起こるのでしょうか?

眼瞼下垂とは、まぶたの機能に障害が生じて、まぶたが開きづらくなっているものをいいます。
まぶたを上げる筋肉(上眼瞼挙筋)が十分に発育しないために起こる、先天性(生まれつき)のものもありますが、多くは後天性で、最も多いのは、腱膜に生じた異常によって起こる「腱膜性眼瞼下垂症」です。

まぶたは、主に上眼瞼挙筋の収縮によって上がります。
上眼瞼挙筋は途中から薄い膜状の腱膜となり、まぶたの先端部分にある瞼板という板状の組織に付着しています。

上眼瞼挙筋が収縮すると、腱膜に引っぱられるようにして瞼板が持ち上がり、まぶたが開きます(次々項の図参照)。
ところが、腱膜と瞼板をつないでいる部分はとてもデリケートで、まぶたを頻繁にこすったりしていると、はずれたり、切れたりしてしまいます。

すると、上眼瞼挙筋の力がうまく伝わらなくなり、まぶたを上げづらくなります。
これは、年配の人だけでなく、若い人や子どもにも起こることです。

ただし、腱膜と瞼板がはずれても、まぶたを開けることはできます。
というのは、腱膜の下には、上眼瞼挙筋と瞼板をつなぐ「ミュラー筋」という特殊な筋肉があり、まぶたを開けるのをサポートしているからです。

ほかにも、耳の後ろの後頭部にある後頭筋、おでこにありまゆ毛を持ち上げる前頭筋、眼球を上に回転させる上直筋といった筋肉を収縮させることでも、まぶたは持ち上げられます。
しかし、腱膜が瞼板よりはずれていても、ほかの筋肉に無理をさせ続けていると、まぶたは開けられるのですが、その悪影響で体のあちこちにさまざまな症状が現れてきます。

まぶたには脳のスイッチがある

―どんな症状が起こるのですか?

まず、まぶたが下がってくると、上眼瞼挙筋を強く収縮させて物を見ようとするため、目の上奥が痛くなる群発頭痛や眼精疲労が起こります。
また、後頭筋や前頭筋を収縮させ、眉毛を上げて目を開こうとすることで、おでこにシワができたり、おでこや耳の後ろに頭痛が起こったりします。

いつもまゆ毛を上げている人は、うなじや肩の筋肉も収縮し、あごが上がったり、首が前へ突き出たりするので、首や肩のこりも出てきます。
そればかりか、まぶたの動きは、脳や自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)の働きにも、深く関わっていることが最新の研究からわかりました。

私は長年、形成外科医として眼瞼下垂の手術を行ってきましたが、手術後に患者さんから、「長年悩んできた不眠やうつ病が改善した」といった報告を多く受けました。
なぜ、そうしたことが起こるのか、詳しく調べていくと、ミュラー筋に思いもよらない働きがあることを発見しました。

「脳のスイッチ」としての役目です。

眼瞼下垂になると過度な緊張が続く

実は、ミュラー筋は、まぶたが適切に開閉するためのセンサーの役割もしています。
まぶたを強く開けたり、こすったりすると、ミュラー筋のセンサーが引っぱられて刺激され、その信号が脳の青斑核に伝わります。
 
青斑核は脳のさまざまな部位に刺激を伝え、脳全体を覚醒させます。
また、交感神経(自律神経の一つで体を活動的な状態にする)を興奮させる中枢と考えられています。
 
わかりやすく言えば、まぶたにある脳のスイッチを入れることで、心身を緊張させて「戦える状態」にする働きです。
私たちは難題に挑むとき、自然と目を見開きます。

また、眠くなると、自然とまぶたをこすることがあります。
これらは、ミュラー筋のセンサーを通じて青斑核を刺激し、脳を覚醒させ、交感神経を緊張させるために行っている動作なのです。
 
ミュラー筋が、腱膜の代わりにがんばってまぶたを引き上げていると、青斑核がいつも強く刺激されます。
すると、交感神経が強く働き、体中の過度な緊張からくるこりや痛み、不安感の増加、不眠などを招きます。
 
しかも、交感神経の緊張はミュラー筋を収縮させるため、さらにミュラー筋から脳へ余計な刺激が伝わるという悪循環が起こるのです。
また、眼瞼下垂でまぶたを上げにくい人には、無意識に歯を食いしばったり、舌で歯を押したりしていることがよく見られます。

これらも実は、交感神経を緊張させ、ミュラー筋を収縮させるために行っている補助的な動作なのですが、頭痛や顎関節症、歯周病、歯ぎしりなどを引き起こします。
一方、腱膜性眼瞼下垂症が進行して、ミュラー筋が伸びきってしまうと、まぶたが開きにくくなり、脳への刺激が減ります。

すると、常に眠い、やる気が起こらない、体に力が入らない、疲れやすくなるといった症状が起こります。
これらはうつ症状の一部とも考えられます。

こうしてミュラー筋の異常が自律神経のバランスをくずしてしまう結果、さまざまな弊害が生じてくるのです。

手術後にアルツハイマー病が改善した患者さん

――治療には、どのような方法があるのでしょうか?

眼瞼下垂は、手術で治すことができます。
手術にもいろいろな方法があるのですが、従来、一般的に行われてきた手術は、上眼瞼挙筋をミュラー筋ごと切除し、短くして瞼板にぬいつけるというものでした。

しかし、センサーであるミュラー筋を温存しないと、眼瞼下垂そのものは治っても、自律神経のバランスの乱れから生じる症状は改善しなかったり、場合によっては悪化してしまったりすることもあります。
そこで私は、ミュラー筋を温存する「腱膜固定術」(松尾式、信州大学式ともいわれる)を開発しました。

これは、二重まぶたのラインに沿ってまぶたを切開して、伸びてしまった上眼瞼挙筋の先についている腱膜を引っぱり、瞼板にぬい付けるという方法です(下の図参照)。
また、必要に応じて、まぶたを開けるさいの抵抗となっている組織(けいれんして縮んだ眼輪筋や、細目靱帯など)を減らします。

手術時間は1時間半前後で、術後の16時間は目を開けずに安静にしている必要があります。
この手術を受けることで、ミュラー筋のセンサーが強く引っぱられるようなことがなくなり、青斑核の強い刺激によるさまざまな症状も減ります。

手術後すぐに効果が現れて、それまでいっこうに改善しなかった頭痛や肩こり、不眠などの症状がなくなったという人も数多くいらっしゃいます。
こんな患者さんも、いらっしゃいました。

高齢の女性で、軽いアルツハイマー病がありました。
ところが、手術を受けた後、症状が劇的に回復し、今は旅行ができるまでに回復したのです。

まぶたと脳は関連している、ということを証明する好例だと思います。

まぶたをこすり過ぎない

「たれ下がったまぶたが上がるようにすればいい」というのが従来の手術の考え方だとすれば、私はまぶたの機能的な異常を改善することで、「青斑核の機能を正常化する」ことが手術のゴールだと考えています。

眼瞼下垂の進み具合や、まぶたの状態によって、青斑核への刺激が強くなり過ぎる(覚醒し過ぎになる)人もいれば、刺激が弱くなり過ぎる(鎮静し過ぎになる)人もいます。

ですから私は、さまざまな検査を行い、まぶたの機能を確認した上で、手術の方針を決めています。
ヘッドバンド型の脳血流量を測定する装置を用いて、まぶたの機能が脳にどう影響しているかを判断し、適切な手術を決定するための検査法も開発しました。

眼瞼下垂の手術は、適切に行えば、術後20年くらい改善効果が持続します。
一つ注意しておきたいのは、眼瞼下垂の手術を行うと、見た目の印象がかなり変わります。

まぶたが上まで持ち上がるので、目元がパッチリするのです。
要するに、「若いころの自分の顔に近づく」ということなのですが、喜ばれる人もいれば、「整形したみたいで恥ずかしい」と戸惑ってしまう人もいます。

ですから、患者さんには「術後はこういう顔になる」という変化をよく説明し、理解してもらうことが大事です。
なお、手術は保険適応です。

――日常生活の中で、眼瞼下垂を予防することはできないでしょうか。

加齢に伴い、筋肉が衰えると、眼瞼下垂はどうしても起こりやすくなります。
これは老化現象ともいえ、しかたのない面もあります。

そこで、まず大事なのは、まぶたをこすり過ぎないことです。
現代社会は、脳を覚醒させておかなければならない時間が長くなり、知らずにまぶたをこする習慣を持つ人が増えてしまいました。

パソコンやスマホの普及がそれに輪をかけているというのが現状でしょう。
その結果、若者でも腱膜とミュラー筋が伸びて、眼瞼下垂になる人が増えています。

特にコンタクトレンズを使用している人は、レンズを外すたびにまぶたを引っぱっていますし、目がショボショボするので、外した後にまぶたをこすっているはずです。
長時間の使用や着脱に注意してください。

ほかにも、アイメイクを落とすさいや、花粉症やアトピー性皮膚炎がある人、涙もろい人などはまぶたをこすりやすいので、注意しましょう。

寝る姿勢でも予防できる

また、次のように、まぶたをリラックスさせる習慣を持つといいでしょう。
イスなどに座って肩の力を抜き、頭を垂れてうつむきます。

歯を食いしばらないように口を少し開け、顔の力を抜いてください。
その状態で1秒間に1回くらいの間隔で、目を左右にキョロキョロと動かします。

あるいは、まばたきをするのでもいいでしょう。
これを日中、1時間半に1回くらいの頻度で行うといいでしょう。

交感神経が過度に働いて不眠に悩まされている人は、横向きになり、体を胎児のように丸めて、あごを引いて寝るのがお勧めです。
こうすることで、眼球の位置が下を向き、ミュラー筋を刺激しにくくなります。

できれば、あごの下に枕を入れるといいでしょう。
この状態で顔の筋肉をひたすらゆるめると、眠りに入りやすくなります。

また、眼瞼下垂の根本的な治療法は手術ですが、症状が軽度であれば、テープを使って、まぶたを引っ張り上げる対処法も有効です。
まばたきができる程度の強さで、まゆ毛のすぐ下あたりの皮膚をおでこに向かって軽く持ち上げてはります。

医療用の透明テープを使うと、皮膚のかぶれも起こりにくく、周りからもほとんどわかりません。
例えば、日中のデスクワークで目の疲労や頭痛、肩こりなどに悩まされている人は、オフィスにいる間だけテープをはるといった対処で、症状の緩和が期待できるでしょう。

まぶたが変われば、生活が変わるはずです。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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