この記事では、「マインドフルネス呼吸法」を実際に行った人の体験例3名をご紹介しましょう。
家族との口論を回避
家族とのたわいのない会話から、口論に発展しました。
これ以上言い続けると、エスカレートしてひどいことを口走ってしまう――そう思った瞬間、その場を離れて、マインドフルネス呼吸法を行いました。
「今、自分はイライラして、怒っている」と認めながら、マインドフルネス呼吸法をしばらく続けていくと、心が落ち着いていきました。
すると、さっきまでカチンときたことが、たいしたことがないように思えてきたのです。
イライラして、ムカムカした感情が消えていきました。
マインドフルネス呼吸法で背すじが伸び、深くゆっくりした呼吸でおなかに空気が入ったことで、体の中心がスッキリした感じでした。
マインドフルネス呼吸法を始めた当初は、「自分の今ここでの感情や感覚に気づくこと」など、実感としてわかりませんでした。
また、そんなことが自分の日常に必要なのかと、疑いの気持ちも持っていました。
しかし、今は違います。
マインドフルネス呼吸法を継続することで、自分自身のスキルになることに気づきました。
(40代・女性)
夫への怒りを解消
緊張する場面の前やストレスを感じたときに、私はマインドフルネス呼吸法を行います。
私はボランティア活動をやっていて、会議に出ることがあります。
大事な会議で発表するときは、不安になり、とても緊張します。
そんなときの前に行うのです。
すると、あまり緊張しないで、思っていることを堂々と発言することができます。
マインドフルネス呼吸法を始めてからは、対人関係のストレスが少なくなりました。
行っていると、自然と心がスーッと落ち着いていきます。
今の自分の気持ちをありのままに見つめることができて、冷静になれるのです。
このため、感情にまかせて、他人にきつい言葉をぶつけたり、気持ちがモヤモヤしたりすることもなくなりました。
コミュニケーションがよく取れ、人間関係も円滑に運びます。
また、ふだん生活をしているとき、「あっ、ストレスを感じているな」と思ったら、すぐにマインドフルネス呼吸法をします。
先日、夫が味噌汁を作ったのですが、こんな出来事がありました。
鍋をのぞくと、味噌汁に干しシイタケが丸のまま、ゴロゴロと入っていたために、夫に激しい怒りが湧いてきたのです。
幸いにも、夫はそのとき不在でした。
ここは冷静にならなければならないと考え、マインドフルネス呼吸法を行いました。
すると、気持ちが落ち着いてきて、帰ってきた夫には、
「味噌汁を作ってくれてありがとう。でも、これからは干しシイタケをそのまま入れないでね」と、冷静に伝えられました。
マインドフルネス呼吸法を始めてから、夫婦ゲンカがめっきり少なくなりました。
(58歳・女性)
うつ病にも役立つ
私は、20年ほど前にうつ病を経験しています。
それ以来、ときどき気分の落ち込むことがあります。
そんな心が落ち込んだときに役立つのが、マインドフルネス呼吸法です。
私は、朝晩2回、3~4分間ですが、この呼吸法を習慣化しています。
マインドフルネス呼吸法をすると、血液の循環がよくなり、しだいに体が温かくなって、心身ともにスッキリします。
落ち込んだ気持ちが消えていくのです。
また、「今日は、ちょっとうつっぽいな」とか、「お天気がよくないと、体調が悪くなりがちだな」とか、その日の心身の傾向がわかってきます。
すると、気持ちに余裕が生まれます。
「今日の外出はやめておこう。
でも、パソコンで作業をするくらいならできる」と、今の自分にできることが見えてくるのです。
また、私は若い頃から体が弱く、よくカゼを引き、月に一度は病院のお世話になっていました。
マインドフルネス呼吸法を続けていると、「ちょっと鼻がぐずるな」とか、「少し寒気もするな」とかと、意識的に体調管理ができるようになりました。
体調が優れないときには早めの対処ができるため、ひどくなる前に手を打つことができます。
マインドフルネス呼吸法を始めて以来、半年も病院に行っていません。
すごいことだと思っています。
(73歳・女性)

解説者のプロフィール
石井朝子
心理学博士。日本認知療法学会理事、日本不安障害学会評議員。欧米では多くの実証的研究報告のある、ストレス軽減法の1つ「マインドフルネス」を、米国の精神療法家のマーシャ・リネハン博士から直接指導を受ける。DV被害親子のためのマインドフルネスを活用したケア介入プログラムや、子育て中の母親に対するストレス対処法の確立にも取り組んでいる。監訳書に『家庭と学校ですぐに役立つ感情を爆発させる子どもへの接し方』『パートナー間のこじれた関係を修復する11のステップ』(ともに明石書店)などがある。