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【脳梗塞の後遺症】失語症になったナレーターのリハビリ体験談

【脳梗塞の後遺症】失語症になったナレーターのリハビリ体験談

前兆はありました。脳梗塞を起こす少し前、私は突然、頭痛に襲われました。絶え間なくハンマーでガンガンと叩きつけられるような痛みと吐き気。疲労感と眠気。頭痛薬は効かず、1週間後、ついに病院に駆け込みました。詳しく調べるために検査入院をしました。その最中に、脳梗塞が起こったのです。【体験談】沼尾ひろ子(ナレーター)

プロフィール

沼尾ひろ子
ナレーター。
NPO法人脳梗塞患者と失語症者の自立支援の会代表理事。
脳梗塞後に失語症になり、猛烈なリハビリ後、復帰。
著書に『ナレーターなのに失語症になっちゃった』(エスコアール出版)、『「地声」のままで大丈夫!好かれる声の磨き方』(日本実業出版社)好評発売中。

脳梗塞の前兆

 私は、テレビやラジオでナレーションの仕事をしています。
 私は、この仕事が大好きです。神様から与えられた天職だと思っているほどです。

 2006年7月。そんな私が脳梗塞(脳の血管が詰まる病気)になり、言葉を失ってしまいました。病名は、出血性脳梗塞による失語症。もう二度と、マイクの前には立てないと思いました。

 それでも、奇跡的に3ヵ月で仕事に復帰できました。そこにはいくつかの幸運がありましたが、いちばん大きかったのは「もう一度、ナレーターの仕事をしたい!」という強い思いでした。それは、自分らしく生きることへの切望でもありました。

 脳梗塞は、その人の人生を一瞬にして変えてしまいます。それだけでなく、大切な家族の人生も変えてしまいます。
 そうなる前に、ぜひ皆さんに伝えたいことがあります。
 少しでも体に異変を感じたら、まずは病院に行って検査を受けてほしい。そうすれば、自分や家族の人生を自分で守ることができます。

 脳梗塞を起こす少し前、私は突然、頭痛に襲われました。それまで、頭痛などに縁のなかった私ですが、頭痛は徐々にひどくなっていきました。
 絶え間なくハンマーでガンガンと叩きつけられるような痛みと吐き気。とてつもない疲労感と眠気。頭痛薬は効かず、痛みをこらえて仕事場に通いましたが、1週間後、ついに病院に駆け込みました。

 そこでは頭痛の原因が見つからず、もっと詳しく調べるために1週間の検査入院をしました。その入院の最中に、脳梗塞が起こったのです。

脳梗塞の症状と治療、そして後遺症

 病院の迅速な治療で命にかかわることにはなりませんでした。
 けれども、左側頭部に起きた8cmの脳梗塞は、ナレーションを生業にする私に致命的な後遺症を残しました。脳のその場所には、言葉をつかさどる言語野があったのです。

 脳梗塞は、起こる前に前触れと思われる予兆があるそうです。片側の手がしびれる、口がもつれる、物を落とすなど、いろいろな症状がありますが、なんかおかしいな、と思うくらいのため、「気のせい」「勘違い」と思われがちだそうです。

 しかし、これを放置すると、高い確率で再発するそうです。
 私の場合、頭痛が脳梗塞の予兆だったのかもしれません。

 フリーランスで仕事をしていた私は、当時、週に何本ものレギュラーを抱え、時間に追われる生活をしていました。
 その忙しさも緊張感も充実した毎日と感じていましたが、気付かないところで無理をしていたのでしょう。ストレスと疲れで、体が悲鳴を上げていたのです。

 後日、主治医から、低用量ピルを服用していたことや水分摂取が少ないことが脳梗塞の一因とも考えられると指摘されました。しかしそれ以前に、自分の体を顧みない生活や、無自覚のストレスが、私の体をボロボロにしていたのだと思います。

 後遺症として残った失語症は、私を苦しめました。読む、書く、話す、聞くという、コミュニケーションに関わるすべての機能が低下してしまったからです。

「脳梗塞の直後は自分の名前も思い出せなかった」と語る沼尾さん

「バカになってしまった」と悩み苦しんだ

 症状は人によってさまざまですが、私の場合、初期のころは、名前を聞かれても、自分の名前をまったく思い出せませんでした。時計もコーヒーカップもわかっているのに、その名前がなかなか出てこないのです。

 自分の気持ちも、言葉でどう表現してよいかわからず、人に伝えることができません。ひらがなや漢字も、うまく読めませんでした。
 私は自信を失い、自分がバカになってしまったのではないかと、悩みました。

 失語症者は、言葉をうまく伝えられないばかりに、認知症や知的障害と間違われることがあります。でも、知的レベルが落ちているわけではないのです。言葉の変換や表現が普段できていたようにうまくできないだけなのです。
 文章を読んで、すぐに意味を理解し、即座に声に出して読むこともできないのに、ナレーターの仕事ができるわけがありません。仕事への復帰は、あきらめるしかありませんでした。

 当時つらかったのは、「命だけでも助かってよかった」と言われることでした。
 でも、当事者にすれば、やりたい仕事もできない、好きなおしゃべりもできない、ただ息をしているだけ……。どうして笑顔が作れるでしょう。こんなことなら死んだほうがよかったと、何度、思ったでしょうか。

「仕事に復帰したい」という思いがリハビリの原動力に

 リハビリでは、音読や書く練習を何度も何度もくり返しました。思うようにできずにイライラするのは日常茶飯。もうやめたいと、リハビリを投げ出したこともあります。そのたびに、言語聴覚士の先生や家族に支えられての、地道な戦いでした。

 しかし日がたつに連れ、どうしてもごまかせない自分の気持ちがありました。「仕事に復帰したい。もう一度、ナレーターとしてやっていきたい」。一度封印したはずのこの思いを、抑えることができませんでした。
 無理かもしれないけれど、やれるだけやってみよう。そう気持ちが固まると、あとは努力するのみ。自宅で、脳トレなどの猛特訓を始めました。

 そんな私の決心を揺るぎないものにしてくれたのが、退院直後の画像写真でした。以前あった脳梗塞の白い影が消えていたのです。
 主治医の説明によると、私の脳梗塞は、一度詰まりかけたものの、結局は完全に詰まらずに血流が流れたので、ギリギリで死なずに助かった細胞がたくさんあった。だから言葉の回復が早かった、と言うのです。

 そうか、私の脳細胞のほとんどは、死んでいなかったんだ!そう思ったとき、私は元の自分に戻れると確信しました。
 それから2ヵ月の猛烈なリハビリと特訓の後、私は以前と同じように、テレビ局のスタジオでマイクの前に座っていました。ナレーターとしての、再出発の日でした。

沼尾さんが行ったリハビリの例

脳梗塞患者や失語症者の活動を支援して

 私の場合、病院で発症し、治療をすぐに始められたという幸運が重なりました。おしゃべりで前向きな性格も、いい方向に作用したのでしょう。

 そんな私でも、人に会いたくない、病気を人に知られたくないという気持ちはありました。
 でも、カラに閉じこもったら、終わりです。まず自分のカラを破って、一歩前に踏み出すことです。小さな目標を立てて、挑戦する。そのくり返しの中で、できることが増え、自信がついてきます。

 私の場合、最初の小さな目標は、退院することでした。
 それから、人に笑われても、「ま、いいか」と思える気持ちの転換が必要です。それができると、だいぶらくになります。

 私の生き方は、以前と180度変わりました。もちろん、ナレーターの仕事は今も続けていますが、月の半分は栃木県に住んで農業に携わり、野菜を作っています。
 また、脳梗塞患者と失語症者の自立を支援するNPO法人を立ち上げ、失語症者のためのボイストレーニングをしたり、講演や、農業を通しての就業支援なども行っています。
 こうした活動が、脳梗塞から復帰できた私の使命かもしれないと、今は思っています。

この記事のエディター

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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