解説者のプロフィール

渡辺尚彦(わたなべ・よしひこ)
東京女子医科大学医学部教授(東医療センター内科)。
聖マリアンナ医科大学医学部卒業。
1984年、同大学院博士課程修了。
1995年、ミネソタ大学時間生物学研究所客員助教授として渡米。
専門は高血圧を中心とした循環器内科。
1987年8月から携帯型血圧計を装着、以来31年にわたり365日24時間、自分の血圧を測る血圧ドクター。
わかりやすい指導と笑いの絶えない診察室が評判で、遠方からの患者さんも多い。
『血液循環の専門医が見つけた 押すだけで体じゅうの血がめぐる長生きスイッチ』(サンマーク出版)ほか著書多数。
ふくらはぎの筋肉は全身の血流を促す
私は循環器の専門医として、これまで多くの人に、高血圧を予防・改善する生活習慣をアドバイスしてきました。
その中心はやはり減塩ですが、それと並んでぜひやっていただきたいのが、ふくらはぎをたたく「ふくらはぎパンパン法」です。
なぜ、ふくらはぎをたたくと血圧が下がるのか。
まずそのことから、お話ししましょう。
ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれています。
これは、ふくらはぎが心臓と同じように、全身の血液循環を促す重要な役目を担っているからです。
血液は心臓から、動脈を通って全身に送り出され、静脈を通って心臓に戻ります。
この静脈の血液を心臓のほうに流すのが、側を走る動脈と筋肉、特に、ふくらはぎの筋肉です。
心臓から最も遠い下肢の血液は、重力に逆らって心臓に戻らなければなりません。
そこで、ふくらはぎの筋肉は、ポンプのように強い収縮と弛緩をくり返して、血液を心臓のほうに送り出す役割を担っています。
この筋肉のポンプ運動を、乳搾りになぞらえて「ミルキングアクション」ともいいます。

しかし、長時間足を動かさないでいると、ふくらはぎの筋ポンプ運動が低下して、血液やリンパ(体内の余分な水分や老廃物、毒素などを運び出す体液)の流れが悪くなります。
その結果、足がむくんだり冷えたりし、さらに血圧も上がりやすくなってしまいます。最悪の場合、足の静脈にできた血栓(血液のかたまり)が肺動脈に飛んで血管を詰まらせる、エコノミークラス症候群を引き起こしかねません。そこで、ふくらはぎの刺激が注目されるようになりました。
ふくらはぎの刺激法として、最もポピュラーなのは「もむ」ことでしょう。
もちろんそれでもいいのですが、患者さんから、もむのは難しい、力がなくてもめない、などの意見をいただき、もっと簡単に刺激する方法はないかと考えました。
その結果誕生したのが、「ふくらはぎパンパン法」です。
ふくらはぎパンパン法の効果を実験で確認
ふくらはぎパンパン法は、ふくらはぎを下から上に向かって、手でたたいて刺激するものです。
これには、血流を改善させる三つの効用があります。
①下から上に順にたたくことで、上に向かって流れている静脈の血流が促される。
②たたくことで、筋肉の収縮・弛緩が活発になり、筋ポンプ運動が盛んになる。
③上半身も使うので、下半身だけでなく、上半身の血行もよくなる。
こうして静脈の血流が促進されると、全身の血液循環が改善し、血圧が下がってきます。実際に、この方法を行った前後で血圧を測ったところ、血圧の低下が認められました。
本来は、歩けば、ふくらはぎの筋肉が使われて下肢の血流がよくなり、血圧によい影響がもたらされます。
通勤で駅まで10分以上歩いている人は、10分以下の人より、高血圧のリスクが低いというデータもあります。
ですから、歩くのがよいことはわかっているのですが、ひざや腰が痛くて歩けない人や、高齢で筋力が低下している人もいます。
そういう人は、歩く代わりにふくらはぎパンパン法を行えば、血圧の上昇を抑えるのに役立ちます。
渡辺式「ふくらはぎパンパン法」のやり方

降圧効果が高い貧乏ゆすり
ふくらはぎを刺激する方法には、ふくらはぎパンパン法以外にも、いろいろあります。
ほかにもある!ふくらはぎの刺激方法

意外に効果が高いのが、貧乏ゆすりです。
下肢を上下に小刻みにゆすることで、ふくらはぎだけでなく太ももの筋肉も刺激されるので、下肢の筋肉全体が鍛えられ、血行がよくなります。
大事なことは、こうした運動を毎日継続することです。それによって血圧が下がれば、プラスアルファの効果がたくさん得られます。
たとえば、動脈硬化の進行を防ぎ、不整脈や狭心症、心筋梗塞、脳梗塞(心臓や脳の血管が詰まって起こる病気)などの重大疾患を予防できる可能性もあります。
そのためには、減塩にも励みつつ、ふくらはぎパンパン法や貧乏ゆすりなどをすれば、相乗効果で、さらに血圧は上がりにくくなります。
また私は、1987年から連続して携帯型血圧計を装着し、日々の血圧の変化を測定しています。
そこから見えてきたのは、血圧は「心の鏡」だということです。
血圧はちょっとした心の動きで上がったり下がったりします。
ですから、心を平安に保つことも大事です。