爪や毛の伸びの左右差、足がだるい、重い、つるは危険サイン
動脈硬化は、怖い病気です。動脈硬化が進むと、血流が悪くなり血管が詰まって、脳梗塞や心筋梗塞(脳や心臓の血管が詰まる病気)、足の組織が死んでしまう壊疽など、重篤な病気を引き起こします。ときには、突然死を起こすこともあります。
動脈硬化の予兆は、外見に現れることがあります。表をご覧ください。
当てはまるものがある人は、動脈硬化が進行していると考えられるので要注意です。
では、なぜこのような症状が起こるのでしょうか。
動脈硬化があると、血液の流れが悪くなり、血流障害が起きます。血流が悪いと栄養が届きませんから、皮膚の温度が下がったり、皮膚のハリがなくなったり、細かいシワができやすくなったりします。また、爪や毛が伸びにくくなります。
表の①②は、頸動脈の病変が疑われる兆候です。
頸動脈は、首から脳や顔に行く血管で、狭くなると顔の血流が悪くなり、シワができやすくなります。
また、まぶたのコブは、遺伝性の脂質異常症に多い兆候です。体質的にコレステロールを分解する能力が低いと、血液中にLDLコレステロールがたまって、まぶたの細い血管に脂肪腫ができやすくなります。
こうした変化とともに、立ちくらみや脳貧血なども起こしやすくなります。
③〜⑥は、足の太い動脈に起こる閉塞性動脈硬化症の兆候です。両方の足を比べて、爪が伸びない、毛が生えない、皮膚の温度が低い、皮膚にハリがない、足が細いなどがあれば、その足の血管が狭い、または詰まっているなどして、血流が悪くなっている可能性があります。
また、蚊は皮膚から出る炭酸ガスをかぎつけて寄ってきます。ですから、蚊に刺されないほうの足は血流が悪く、代謝が落ちている可能性があります。
閉塞性動脈硬化症があると、少し歩いただけで、足がだるい、重い、痛い、つるといった症状が出て歩けなくなります。
これは足の筋肉に乳酸などの代謝産物がたまるためですが、しばらく休むと回復して、歩けるようになります。これを、間歇性跛行といいます。
足の血流不全が強くなると、ちょっとした傷でも治りにくく、潰瘍(皮膚や粘膜がただれて欠損した状態)をつくりやすくなります。さらに悪化する
と、足の先の組織が壊死する壊疽になり、足を切断するはめになります。
問題はそれだけではありません。足に動脈硬化があるということは、全身に動脈硬化が起きていると考えられるのです。
動脈硬化の進行を外見からチェック

末梢の動脈硬化もわかるABI検査
そこでお勧めしたいのが、下肢の動脈に狭窄や閉塞がないかどうかを調べる「足関節上腕血圧比(ABI)検査」です。
ABIは、上腕と足首で血圧を計り、足首の最大血圧を上腕の最大血圧で割った数値です。通常は、手より心臓から遠い足の血圧のほうが高くなります。しかし、動脈に狭窄があると、その先に血液が行かなくなり、足の血圧が低くなります。
ABIが1.0〜1.4なら正常範囲です。1.0を切ると足の血流障害が疑われ、0.9を切ると、明らかな閉塞性病変が疑われますから、0.9が一つの基準になります。
さて、もう一つ怖い数値を紹介しましょう。
ABIが0.7なら5年後の生存率は7割、0.5なら5割に下がるというデータがあります。さらに低くなると、10年後の生存率は限りなくゼロに近づきます。
なぜこんなに生命予後が悪いのかといえば、足の動脈が詰まっている人は、心筋梗塞や脳梗塞を合併している割合が多いからです。
ちなみABIが0.7だと、間歇性跛行が出る段階、0.5を切ると傷の治りが悪くなり、潰瘍になりやすくなります。
こうしたことから、現在では閉塞性動脈硬化症や心筋梗塞、脳梗塞を別々の病気と考えるのではなく、全身的な動脈硬化症の一部分症と捉えるようになっています。
高血圧や糖尿病などの合併症や喫煙のある人は50歳から、合併症のない人でも65歳以上の人は、ABI検査はお勧めで
す。
この検査によって、閉塞性動脈硬化症だけでなく、脳卒中や心筋梗塞の危険度もわかります。ぜひ一度、専門外来で検査を受けてみてください。
解説者のプロフィール

重松 宏
都庁前血管外科・循環器内科理事長。血管疾患に対する外科的治療のエキスパートで、経皮的血管形成術や大動脈瘤に対するステントグラフト治療、静脈瘤に対するレーザー治療などの低侵襲的血管内治療の先駆者でもある。「未病に勝る治療はない」と考え、心・血管健診の重要性を啓発している。
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