解説者のプロフィール
見た目と血管の年齢を大学の実験で検証
「人は血管とともに老いる」。これは、17世紀のイギリスの医師トーマス・シデナムの言葉で、私たち医師の間では当然のように語り継がれてきました。
老いる、とはなんでしょうか。決め手の一つは、「見た目」だと思います。自分の顔にシミやシワが多くなれば、老いたと思うでしょう。だとしたら、シミやシワが多ければ、血管も老いているのでは――。
今から6年ほど前、私はこんな推測をしました。ところが、この仮説を皮膚科の重鎮の先生に言ったところ、あっけなく否定されてしまったのです。「皮膚の老化であるシミやシワは、100%紫外線の影響」だということでした。
しかし偶然、私の上司の教授が興味を持ち、また好奇心旺盛な女子大学院生が入学したことにより、正式に「血管年齢と肌年齢」を研究テーマに取り上げることになったのです。
実験の結果は、驚くべきものでした。下の二人の女性のほおの写真を見比べてみてください。Bさんのほうが、口元のほうれい線が目立たず、若く見えませんか?
実は、この二人はともに64歳です。そして、血管年齢を調べたところ、Aさんは70歳、Bさんは62歳という結果が出たのです。つまり、見た目年齢が若いBさんは、Aさんより血管年齢も若かったのです。
273人の実験結果は驚くべきものだった!
被験者は、もちろんこの二人だけではありません。私たちの研究グループは、273人を対象に、皮膚のシミやシワ、きめや透明感といったものから、実際の年齢より若く見えた人を●、老けて見えた人を○で表しました(グラフ参照)。評価をしたのは、20代から50代の、20人ほどの看護師です。
それとともに、血管年齢を測るために、動脈硬化の進み具合を調べました。方法は、動脈硬化の指標として使われる、頸動脈の内膜・中膜を合わせた厚さを測ることです。
その結果は、グラフでわかるように、見た目の年齢と血管年齢は明らかに相関するということでした。
見た目と血管年齢の違い(写真)

シミを増やし動脈硬化を起こす共通物質
では、なぜ血管年齢が高い、つまり動脈硬化が進んだ人ほどシミやシワが多く、見た目年齢が高いのでしょうか。その疑問を解くのが、「エンドセリン1」(ET1)と「AGE」という二つのキーワードです。
ET1は、私たち循環器科の領域では、動脈硬化の進行に関与する物質の一つです。血管の内皮細胞が産出するホルモンで、血管の収縮や拡張に作用します。
一方、皮膚科の領域では、シミの原因であるメラニン色素を作るメラニン細胞を活性化する物質として捉えられています。
つまり、ET1の値が体内で高くなれば、動脈硬化を起こしやすくなるだけでなく、シミも増えるというわけです。
研究を進めると、内臓脂肪が多い人ほど、ET1の値が高いことも判明しました。しかも、高いだけでなく、ET1をどんどん出してしまうのです。
もう一つのキーワード、AGEは、日本語では終末糖化産物といい、ブドウ糖がコラーゲンなどのたんぱく質と結合してできる化合物です。体内にたまると、体をつくっているたんぱく質の正常な働きが阻害され、シミやシワなど皮膚の老化を進めてしまいます。
実験的に肌のメラニン細胞を糖化すると、シミの原因であるメラニン色素が作られることが、最近の研究でもわかっています。
また、私たちは動脈硬化は血管の炎症により起こり、AGEはその原因の一つではないかと考えています。AGEは体内の酸化反応を促進し、動脈硬化を引き起こす活性酸素を発生させる要因にもなります。
さらに、内臓脂肪の多い、いわゆる「メタボ」の人や糖尿病の人、脂質異常症の人もAGEが多いことが明らかになっています。
おわかりですね。つまり、シミやシワの少ない、若々しい肌を保ち、同時に動脈硬化を起こさない強い血管にするための、共通項目は、ET1とAGEを増やさないようにすること。そして、内臓脂肪をためないことです。
伊賀瀬道也
1991年、愛媛大学医学部卒業。99年、愛媛大学大学院修了。2003年、米国ノースカロライナ州ウェイクフォレスト大学医学部高血圧・血管病センターに留学。2006年よりアンチエイジングドック、2011年よりアンチエイジング相談外来を行う。著書に『見た目が20歳若返る!血管健康法』(実業之日本社)などがある。