解説者のプロフィール

城戸淳美(今井病院医師)
東京女子医科大学医学部卒業。
東京女子医科大学附属消化器センターなどに勤務後、北京中医大学日本分校で中医学を学びながら、体のゆがみを取り、自然治癒力を引き出す「骨格バランス健康法」を考案。
現在は栃木県足利市の今井病院にて、内科、皮膚科の視点から心と体をトータルに診る医療を行っている。
股関節のずれが全身の不調を呼ぶ
私は1日に多くの患者さんを診ますが、観察してみるとほぼ全員の足の長さが左右で違います。
その原因は、股関節がずれているからです。
股関節の角度(大腿骨の骨頭部と大腿骨体のなす角度)は、正常な成人では約135度と言われていますが、この角度よりも浅くなると足は短くなり、角度が深くなると足は長くなります。
足の長さに左右差があると、骨盤や全身の骨格が左、または右に傾いています。
このゆがみは、腰痛や生理痛、便秘、冷えなど全身の不調につながります。
また、背骨がゆがむと、背骨を通る脊髄神経が圧迫されるため、その神経に対応する臓器の働きが悪くなります。
自律神経や筋肉のバランスもくずれ、頭痛、肩こり、めまい、不眠、疲れやすいなど、いろいろな症状が出てきます。
そうした骨格のゆがみを矯正するために私が指導している方法が、両ひざをひもで縛る「ひざ縛り」です。
ひざ縛りは、約70年前に考案された「礒谷療法」という整体療法に根幹をなす治療法です。
礒谷療法では、「すべての病気は股関節の転位(ずれ)から生じる骨格のゆがみによる」という理論に基づいて治療を行っています。
その結果、重度の脳性小児マヒや脊椎側弯症(背骨が側方に湾曲する病気)に苦しむ人や、腰やひざの痛みで歩行が困難な人などを、元気に歩けるようになるまで回復させているのです。
私は、東洋医学を学ぶなかで礒谷療法を知り、自分自身のぎっくり腰などの体調不良を治す目的で礒谷療法を勉強しました。
自分で実践して効果を実感し、患者さんの治療にも応用するようになったのです。
ひざ縛りを指導した患者さんたちは、さまざまな不調が改善しています。
ひざ痛が解消して正座ができるようになった人、加齢で縮んだ身長が2㎝も伸びた人、O脚が改善した人、腰痛が治り、歩けるようになった人など、目覚しい効果が現れた事例もあります。
ひざを縛って寝るとよく眠れる
ひざ縛りは、毎日の健康法としても最適です。
股関節のゆがみは、足を組んで座ったり、長時間姿勢をくずして座っていたりなど、日常のささいな動作や習慣で簡単に起こります。
ひざ縛りを行うことで股関節のゆがみを矯正し、正しい姿勢に直すことができます。
ひざ縛りはイスや床に座って行っても、横になって行ってもかまいません。
イスに座った状態でひざ縛りを行うと、自然と背すじが伸びて姿勢がよくなります。
長時間デスクワークをしても、あまり疲労感を感じなくなります。
私がよく勧めているのは、就寝時のひざ縛りです。
私もひざを縛って寝ていましたが、眠りが深くなった実感があり、ある患者さんも「不眠が解消した」と言っていました。
「ひざを縛ると血行が悪くなるのでは」と思う人もいるでしょう。
確かに片足だけ縛るとうっ血してしまいます。
しかし、両足を揃えて同時に縛るひざ縛りでは、股関節のゆがみが取れるため、かえって血行がよくなり、足が温まってきます。
かつて海にもぐって仕事をする海女さんたちは、海から出て冷えた体を早く温めるために、足をひもで縛ったと言います。
これも足縛りと同じ理屈でしょう。
海女さんたちは昔からの知恵でこのことを知っていたのだと思います。
『体操ニッポン!』(日本文化出版)の記事によると、リオ五輪男子体操金メダリストの内村航平選手は、高校時代、O脚を矯正するために、柔道の帯で両ひざをガッチリ縛って寝ていたそうです。
内村選手が何を参考にひざ縛りを知ったかはわかりませんが、この方法はO脚の改善にとても有効です。
骨盤のゆがみが解消されるため、体のバランスも取りやすくなります。
現在の活躍は、この頃からの努力が実を結んだからかもしれません。
ひざ縛りで股関節のずれが直ると、下半身太りやむくみも解消されます。
足の血流がよくなるということは、全身の血液循環がよくなるので、肌のくすみやシミ、シワが減り、血色がよくハリのある肌に変わっていきます。
ダイエットや美容面でも効果が高いのです。
なお、ひざ縛りを行う前に、「ひざ抱え体操」をやっておくと効果が高まります。
この体操も股関節のずれを直し、体のゆがみを取ります。
ひざ縛りを習慣にして、不調や痛みのない体を手に入れてください。
「ひざ縛り」のやり方
