
カレーライスを食べたら胸やけが再発した
私の病院では、1999年から、糖尿病や肥満の患者さんを対象に糖質(ご飯やパン、めん類、イモ類)を制限した食事を導入しています。
すると、糖尿病の改善のほか、アトピー性皮膚炎や頭痛など、さまざまな症状にも有効なことがわかってきました。逆流性食道炎も、その一つです。
あるとき、肥満で痛風を訴えて来院した30歳の男性に、糖質制限食を勧めました。すると、開始したその日から、食後に胸やけがしなくなったと言うのです。
聞けば、その男性は中学生の頃から逆流性食道炎に苦しんでいて、食後は必ず胸やけがあり、ひどいときは夜中にも起こっていたそうです。
ところが、糖質制限食を始めたとたん、その症状がピタリと止まったと言うから驚きです。しかも面白いことに、カレーライスを食べたら、また症状がぶり返したと言うのです。
人類の歴史上糖質の登場はつい最近
そこで、私は逆流性食道炎の患者さん20人に、糖質制限食を試してもらいました。その結果、1人を除いた全員に症状の改善がみられたのです。
糖質制限食を実践すると、なぜ逆流性食道炎がよくなるのか、はっきりとしたメカニズムはわかりません。
食べると胸やけなどの症状が起こるのは、糖質に対する体の拒否反応ではないかと、私は考えています。
というのも、人類が誕生した700万年前から日本で稲作が始まった約2500年前まで、食料といえば狩猟や漁労、採集をよりどころにしていたからです。穀物が登場するまで、人類の糖質の摂取量はごくわずかにすぎなかったのです。
「日本人は昔から米を食べてきた」などといわれますが、人類700万年の歴史からみると、2500年前など、ごく最近のことです。
これまで食べたことのなかった穀物が突然、主食になったわけですから、体が対応しきれず拒否反応を起こすことは、十分考えられるでしょう。
それでも寿命が短かった時代は、糖質の害が現れる前に亡くなる人が多かったと推測されます。しかし寿命が延びて、本来食べ慣れていない糖質に体が耐えきれなくなり、さまざまな病気が出現したと考えられます。
慢性の病気のほとんどは、「糖質病」といっても過言ではありません。現に、肥満や糖尿病、花粉症、アトピー性皮膚炎などは、多くの場合、糖質制限食でよくなります。私の病院では、尋常性乾癬や潰瘍性大腸炎も改善しています。
68歳でメガネは不要、夜中のトイレ通いもない
逆流性食道炎は、糖質の害がわかりやすい疾患ともいえます。糖質をやめればすぐに改善するからです。
糖質制限のやり方ですが、逆流性食道炎の改善には、朝昼晩の3食すべてで、ご飯やパンなどの主食、糖質の多い食品を制限する「スーパー糖質制限食」がお勧めです。
たいていの人は、試したその日に症状が緩和されます。糖質制限食をしてもよくならない人は、胃潰瘍や胃炎など、他の原因で胸やけなどの症状が起こっているのかもしれません。
糖質制限を行って症状が改善すれば、原因は糖質にあったということに気づくでしょう。
そんなはずはないと思うかたは、ぜひカレーライスを食べてみてください。カレーライスはカレーのルウ(小麦粉)+ご飯という、「ダブル糖質」食です。食べて胸やけなどがぶり返せば、糖質が原因だったとわかるはずです。

原因に気づけば、あとは糖質制限食を続けたり、糖質の量を加減したりすることで、再発が防げます。もちろん薬も必要ありません。そもそも逆流性食道炎の投薬治療は、薬で胃酸を抑えているだけなので、根本治療にはならないのです。
また、糖質制限食はアンチエイジング効果も抜群です。
私は自らの糖尿病が発覚した52歳から糖質制限食を始め、現在68歳です。身長は20歳のときのまま、歯は全部残っていて、聴力も衰えず、目は裸眼で広辞苑が読めます。夜中にトイレに起きることもありません。
そしてこれは私に限ったことではなく、長年、糖質制限食を継続している患者さんでも、同じことが起こっています。
糖とたんぱく質が結合する「糖化」が進むと、老化が進行するといわれています。糖質制限食を行っていれば糖化が防げるので、誰もが衰え知らずで年を重ねることができるのです。
ぜひお試しください。


江部康二
一般財団法人高雄病院理事長。1950年生まれ。1974年京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所などを経て、1978年より医局長として高雄病院に勤務。2000年より現職。2001年から糖質制限食に取り組む。翌年、自身の糖尿病に気づき、自ら糖質制限食を実践し、肥満と糖尿病を克服する。現在も豊富な症例をもとに糖質制限食の研究を続けており、肥満や糖尿病以外の幅広い疾患・生活習慣病についても高い予防・改善効果を証明している。著書多数。近著『江部康二の糖質制限革命』(東洋経済新聞社)が好評発売中。