
間食や甘いものが大好きだった
食後の胸やけや、みずおちの辺りが常につかえているような不快感は、思い返せば高校生の頃からありました。
医師になってからもそれは続き、物を食べると食道の出口がキューッと締まる感じがしたり、燃えるような感覚もありました。
年齢とともに、「がんだったらどうしよう」という不安が大きくなり、胃の内視鏡検査を受けたのは、2008年です。
そこで正式に逆流性食道炎の診断を受けました。その後、新薬が出る度に飲んでみましたが、効果がなく、症状は一生ついてまわるものだとあきらめていました。
ところが、翌年の2009年、私の逆流性食道炎は思わぬ形で改善することになります。
きっかけは、糖尿病が発覚したことでした。ヘモグロビンA1cが突然6.6%になったのです(過去1~2ヵ月の血糖値がわかる数値で、正常値は6.5%未満)。
祖母と母が糖尿病だったので、遺伝的素因はありました。
加えて、私は子どもの頃から甘いものが大好きで、朝食の代わりに大福やアイスクリームは当たり前。間食や甘い飲料が欠かせず、カップラーメン、コンビニ弁当にスイーツ、夜11時以降にコーヒーとお菓子かパンでくつろぐといった食生活を続けていました。
私は医師なので、糖尿病が治らないことや、その終末の恐ろしさはよく知っていました。ですから「これはなんとかしなくては」と、必死に対策を探し続けました。
そしてたどり着いたのが、糖質制限食を提唱する江部康二先生のブログです。理論に納得した私は、糖質制限食をすぐさまやってみることにしました。
血糖値も正常化、胸やけも起こらない!
糖質制限食を開始したのは、2009年6月ころです。
食事は、肉類、チーズ、卵、葉物野菜などを中心にして、ご飯、パン、めん類といった主食は食べません。甘い飲み物、お菓子もやめました。
病気を改善したいという思いで一生懸命だったのもあり、食事を変えることは、さほどつらくはありませんでした。
日々スーパーマーケットを歩き回って、食べられる食品を探すのは、ジャングルでのサバイバル生活のようでした。
パンの代用(大豆粉パン)を作ることに挑戦したり、酒飲みでない自分がいろいろな焼酎(焼酎は糖質ゼロ)を飲んで銘柄に詳しくなっていったりと、新しい楽しみを見つけていきました。
主食の代用としては、特に厚揚げがお勧めです。レンジでチンしてふりかけをかけて食べると、ご飯代わりにもなるし、パン感覚でも食べられます。
袋入りの大豆の水煮も、携帯できて、そのまま食べられるので重宝しました。
こうして糖質制限食を始めたところ、まず眠気が著しく減ったことに気づきました。それまでは朝が弱くて、日中もじっとしているとすぐ眠くなっていたのですが、すっきり覚醒していることが多くなったのです。
食後の胸やけは、糖質を食べなければまったく起こらず、いやなみずおちのつかえ感も、すっかり解消しました。
逆流性食道炎は、単純に過剰な糖質が原因だったのだと理解した瞬間でした。
今でも食道のつかえを感じるときがあります。それは、味のついた加工肉を食べたときです。同じ肉でも、塩コショウをかけただけのものでは明らかに反応が違います。
自分の食道の反応で、食べた物の糖質の多い少ないが予想できるようになりました。
血糖値も正常値になりました。

糖質制限を患者にも勧める花岡先生
基礎体力がアップ!肌の状態もよい
糖質制限には、基礎体力をアップする効果もあるのでしょう。長距離を歩いたり、電車で長時間立つことが平気になりました。夏の暑さ、冬の寒さにも弱かったのですが、今は一年中、同じようなスーツ姿でも平気です。
吹き出物やものもらい、頻発した陥入爪(足の親指がひどく化膿する疾患)も激減しました。体臭も変化し、ワキや足のにおいを指摘されることもありません。
また、幼少の頃から下痢で授業中におなかが痛くなったり、大人になってからはひどい便秘で痔になったり、といったことをくり返していました。それが、糖質制限を始めてから便通が整い、毎日、健康的な硬さの便が出るようになっています。
糖質制限は、私の本職である整形外科の治療にも、非常に役立ちます。
実は、糖質制限を診療に取り入れたいという気持ちが、私が独立開業した理由の一つでもありました。
逆流性食道炎が解消するうえに、体にいいことばかりの糖質制限を、始めてみませんか?
全身の血流がよくなり炎症が治りやすくなる(高雄病院理事長 江部康二)
医者は忙しいので、つい手軽なカップラーメンやお菓子などでおなかを満たしがちです。
花岡さんは糖尿病になったことで気づきが得られて、むしろラッキーだったと言えるでしょう。
糖質制限食を行うと、全身の毛細血管の血流・代謝がよくなります。そのため、吹き出物やものもらいなどの炎症が起こりにくく、起こっても治りやすくなるのです。
解説者のプロフィール

江部康二
一般財団法人高雄病院理事長。1950年生まれ。1974年京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所などを経て、1978年より医局長として高雄病院に勤務。2000年より現職。2001年から糖質制限食に取り組む。翌年、自身の糖尿病に気づき、自ら糖質制限食を実践し、肥満と糖尿病を克服する。現在も豊富な症例をもとに糖質制限食の研究を続けており、肥満や糖尿病以外の幅広い疾患・生活習慣病についても高い予防・改善効果を証明している。著書多数。近著『江部康二の糖質制限革命』(東洋経済新聞社)が好評発売中。