合谷の位置はココ

合谷への刺激を最新技術で測定
ツボ刺激は、伝統的な治療法として現代医学よりはるかに古い歴史を持ち、その効果についても経験的によく知られています。にもかかわらず、いまだに謎を秘めた療法とされています。なぜツボ刺激が効くのか、その根本のところが、いまだによくわかっていないのです。
解明が難しいのは、その効果のしくみを生体内で医学的にとらえることが容易ではないからです。
そこで、私たちは最も古くから多くの人たちに愛用されてきたツボのひとつである合谷に、現代医学の最も新しい測定法であるMRI(磁気共鳴画像法)を用いて、脳機能の面からその秘密を探ってみました。
合谷を選んだのは、以下のような理由からです。まず、合谷は幅広い効果を持つツボであること。たとえば、頭痛、歯痛、疲れ目、鼻炎、肩こりなど、上半身の多様な症状に効果を発揮するばかりか、精神的なストレスの軽減にも効果があるといわれています。
中でも有名なのは、痛みへの効果です。私は脳神経外科を専門としていることから、頭痛などの痛みに定評があるこのツボに、以前から興味を持っていました。
また、MRIを用いて脳を調べる研究では、手の合谷は非常に便利なツボです。測定のときに、脳から遠く離れた手という場所にあり、しかも刺激が容易なために、ツボ刺激をしながら脳への影響をその場で確かめることができます。
外界と接している皮膚には、日常生活でたえず刺激(感覚刺激)が加わっています。そうした刺激は、神経を介して感覚の中枢である脳に伝えられますが、そうした一般的な刺激と鍼などによるツボ刺激とではどのように違うのかをMRIで調べてみました。
痛みの軽減に関係する脳の領域が刺激される
まず、MRIで得られた画像①(下の図)を見てください。これは一般的な刺激として、被験者の合谷を化粧ブラシでこすった場合に現れてきた反応です。
中心後回(一次感覚野)、縁上回(二次感覚野)、視床、島などと呼ばれる脳の部位の血流が増し、そこが賦活(活性化)されているのが画像からわかります。こうした変化は、合谷ではない部位に同様の刺激を加えても起きてきます。
ところが、捻鍼刺激(痛みを伴わない鍼刺激のこと)、電気鍼刺激、高温温熱刺激などのツボ刺激を合谷に与えたところ、一般的な刺激とは違った、脳の部位が賦活されたのです。特にハッキリとしているのは、帯状回と内側前頭回(補足運動野)などの脳の部位です。画像②(左の下の図)は、そうしたツボ刺激で得られた画像のひとつです。
実は、これらの領域の変化は、痛覚の処理をするさいに賦活される脳の領域と重なってきます。つまり、このことから、ツボ刺激が一般的な刺激と違って、痛みを軽減する効果があると推察できるわけです。
合谷を刺激したときの脳の反応(MRI画像)

適度な刺激でも効果的で持続する
また、痛みなどの刺激を脳が受け取るには、受容器と呼ばれる器官を介して、神経が刺激を受けなければなりません。そうした痛みを伴うような刺激を受け取る受容器のひとつに、「ポリモダール侵害受容器」があります。
実は、ツボ刺激の効果を説明する理論のひとつに、このポリモダール侵害受容器の反応(鎮痛作用)がかかわっているという説があります。
簡単に述べると、ポリモダール侵害受容器が刺激を受けると反応し、脳の鎮痛システムが賦活されて痛みが軽減されるという説です。
ポリモダール侵害受容器に反応を起こさせる刺激は強いものである必要はありません。ほとんど痛みを感じないような刺激でも、反応を起こさせることができます。
今回行った鍼刺激、電気鍼刺激、高温温熱刺激は、実際の治療の現場で行われているのと同様の、ほとんど痛みの伴わない刺激です。私たちの研究は、痛みの受容体を直接刺激するような実験ではありませんが、脳の痛覚の処理系が賦活された事実から考えるなら、このポリモダール侵害受容器説を側面から支持したことになるかもしれません。
ポリモダール侵害受容器は、指圧、マッサージなどの刺激にも反応します。このことから、一般のかたが自分の指を使って合谷を刺激しても、確かな手応えがあるでしょう。
痛くない適度な刺激で、合谷を5秒間押すことを5回繰り返すだけでも、頭痛などの痛みを軽減する効果があると考えられます。
しかも、その効果は持続性があり、刺激が終わったあとでも続きます。今回の研究の解析から、そうした従来の説を支持する結果が得られています。
解説者のプロフィール

ひぐち としひろ
京都府立医科大学卒業。明治国際医療大学脳神経外科教授、明治国際医療大学保健医療学部救命救急学科学科長、京都府立医科大学客員教授、医学博士。研究テーマは、磁気共鳴装置を用いた脳機能・脳代謝・内臓機能・骨格筋機能・骨格筋代謝の研究。