
気温が上昇し、暑い日が続く季節になると、いろんな場所で「熱中症に注意」と目にすることが多くなります。熱中症と聞くと、蒸し暑い夏の日の炎天下で、スポーツなどの活動をしたときに起こるイメージがありますよね。しかし実際は屋内で起こることも多く、身近な病気なのです。どんな症状があるのか、また、その予防・対処法について、高知大学医学部付属病院老年病・循環器内科大澤直人先生にお話を伺いました。(ケンカツ!編集部)
熱中症とはどんな病気ですか?
大澤:
通常、人の内臓の温度は約37℃に保たれるようにできています。この通常の温度より体温が上がると、血管を拡張させたり汗をかいたりして体温を下げます。
反対に通常の温度より下がった場合は、体表の毛細血管を収縮することで汗を抑え、体内に熱を閉じ込めて体温を上げようとします。
「熱中症」とは、高温多湿の環境下で、大量の汗をかくことによりによる体内の水分や塩分(ナトリウム)のバランスが崩れたり、体温の調節ができなくなることなどで起こってしまう健康障害の総称です。
症状の重さにより、軽症、中等症、重症に分けられますが、短時間で重症となるケースもあるため、注意が必要です。
熱中症の症状について教えてください
大澤:
熱中症の症状は主に「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」の4つあります。順に解説しましょう。
①熱失神
炎天下や蒸し暑い室内で活動すると、人間の体は、体温を下げるために大量に汗をかいて脱水症状を起こしたり、皮膚の血管が拡張することにより、血圧が低下し体内の熱を下げようとします。
その結果、体温を下げるために脳への血流が減る事でめまいや立ちくらみ、頻脈、呼吸数増加、失神などを起こすことをいいます。
②熱けいれん
大量の汗をかくと、水分とともに塩分(ナトリウム)が失われます。
水分を補う際に塩分が含まれない飲み物を飲むと、血液中の塩分(ナトリウム)濃度が低下し、筋肉の収縮に必要な塩分(ナトリウム)が不足することにより、筋肉痛や手足のつり、こむらがえりといった症状を引き起こします。
小児の発熱の際に起こることがある「熱性けいれん」とは違います。
③熱疲労
大量の汗をかいて、水分と塩分(ナトリウム)が過剰に失われ、脱水状態に水分がとれない状況が続くと脱水に陥ります。
脱水によって体内の水分量が減少することにより、循環する血液量が減ってしまいます。
これによって臓器機能が低下し、吐き気や食欲不振などの胃腸症状や疲労感などさまざまな症状が起こります。
対応を怠ると、より重症の熱射病になる危険性があります。
④熱射病
脱水が進行していくと、体温が40℃を超え、脳の温度も上昇することで体温調節の機能が失われ、体にこもった熱を拡散できなくなります。
発汗が止まり、皮膚が乾燥し、体温が急激に上昇し、40℃を超えます。
意識低下障害や異常行動、過呼吸や全身けいれんなどの症状が起こります。全身の臓器に障害が起き、治療が遅れると脳障害が残ったり、最悪の場合死にいたることもあります。

熱中症かな?と思った時の受診の目安を教えてください
大澤:
医療現場では、熱中症の重症度は「Ⅰ度」「Ⅱ度」「Ⅲ度」の3段階に分類されます。
「Ⅰ度」と診断されるのは、熱失神や軽い熱けいれんなどです。通常は入院を必要とせず、自分で水分や塩分を補給することにより、短時間で回復できるような場合が当てはまります。
「Ⅱ度」とは、熱疲労の症状が見られ、入院の上で体温管理や安静、点滴などによる十分な水分と塩分(ナトリウム)の補充が必要な場合です。
さらに「Ⅱ度」の状態が進行し、意識障害や、腎臓や肝臓などの臓器障害、DIC(血液凝固障害)などがみられる場合、最重症の「Ⅲ度」と分類されます。場合によっては呼吸や循環管理など、集中治療が必要となります。
医療機関を受診する目安は、Ⅱ度からを目安にするとよいでしょう。
ただし、Ⅰ度に該当する場合でも、水分補給が十分に摂取できない場合、吐き気が見られる場合、症状がなかなか回復しないような場合はすみやかに医療機関を受診し治療を受けましょう。
熱中症はいつ起こりやすいのでしょうか?
大澤:
気温が高くなる7月8月の日中に最も多く見られます。
最高気温が30度以上の真夏日や猛暑日(35度以上)になると、とたんに救急搬送患者数が増加します。
また、熱帯夜が続くようなときには、夜間でも多くなります。
注意したいのが、梅雨の時期です。
5月6月にも気温が上がる日が多く、蒸し暑い日があります。通常は汗が気化するときに体温が下がりますが、湿度が高くなると皮膚の表面上の水分が気化しにくくなり、体温調整がうまくできなくなります。
風がないときも同様です。
また、本格的な夏に入る前の時期はまだ、体が暑さに慣れてないため、急に温度が上がると、体温調節が上手くできないので熱中症になってしまうことがあります。
熱中症はどんな人に起こりやすいのですか?
大澤:
平成29年の総務省の発表では、6月から9月まで全国における熱中症の救急搬送数は約5万3000人とされています。
炎天下で活動するような屋外労働者や、スポーツをする人は熱中症を起こしやすいということはご存知の方も多いと思いますが、実は、熱中症は、体温調節機能が未熟な乳幼児から高齢者まであらゆる年代で起こる病気です。
なかでも高齢者は重症化する場合が多く、発症率は年々増加しています。
高齢者が熱中症を引き起こしやすい理由をいくつか挙げてみましょう。
①体内の水分量が少ない
筋肉量が減少しているので、体内の水分量が若い年代より少なくなっています。
②体の熱を放出しにくい、汗をかきにくい
動脈硬化が進んでいることや自律神経の低下により、汗をかきにくく、体にこもった熱を放出しにくくなります。
③暑さや喉の渇きを感じにくい
感覚神経や運動神経の低下により、水分補給や避暑行動をとるのが遅くなってしまいます。
他にも、トイレの回数を減らすため水分摂取量を控えたり、エアコンを嫌うといった高齢者に見られる傾向も熱中症を引き起こす要因になっています。
他に、熱中症のリスクが高い人はどのような人ですか?
大澤:
服薬や持病のある方も熱中症にかかりやすいリスクがあるといえるでしょう。
たとえば、以下のような方も注意が必要です。
・服薬をしている方
自律神経の働きに影響を与える薬(抗てんかん薬、抗うつ薬、睡眠薬など)には体温調節や、発汗を抑制する作用があります。それによって熱が体にこもりやすくなってしまいます。
・持病のある方
高血圧・腎不全などで塩分制限をしていると、脱水などを起こしやすくなります。
また、前日のアルコールの摂取や、下痢や睡眠不足などの体調不良も、熱中症リスクを高めてしまいます。
熱中症はどんな場所で起こりますか
大澤:
工事現場や運動場、公園など暑い屋外での作業やスポーツ中に起こるイメージをお持ちでないでしょうか。
熱中症は、
①気温が高く、湿度が高いところ
②風が弱い・日差しが強い
で起こることが多く、炎天下の屋外だけでなく、屋内でも熱中症は起こります。
救急搬送の割合から見ると、屋内での発症が30パーセントを占めています。
実は家の中でじっとしていても、体内からは1日1,000ccの水分が失われており、さらに高温多湿になるお風呂場やトイレ、直射日光が当たる高層マンションの最上階などでは熱中症を引き起こす条件がそろっているので注意しましょう。
解説者のプロフィール
大澤直人(おおさわ・なおと)
2011年高知大学医学部卒業。
高知大学医学部附属病院老年病・循環器内科医師。
PADIスキューバダイビングインストラクター。
高知スクーバ・ダイビング安全対策協議会理事。