
左右の肩を「トントン」で自信のなさを解消できる
あなたの自信のなさが、ある動作をするだけで、簡単に解消されると聞いたら驚かれるかもしれません。
早速、その動作を紹介しましょう。
まずは、自分を抱きしめるように、両腕を胸の前で交差させてください。両手のひらは、肩に軽く添えます。
次に、あなたが「安心を感じるもの」を思い浮かべてください。「心地いいなぁ」「リラックスするなぁ」と思うものでもかまいません。
具体的なものでなくても、好きな人や場所、たいせつな思い出、自分だけの想像の世界を、思い浮かべてもかまいません。
思い浮かべたら、そのまま目をつむり、胸の前で両腕を交差したまま、左右の肩を、両手で交互に、ゆっくりたたきましょう。
強くたたく必要はありません。安心のイメージを味わいながら、「トン・トン・トン」と、左右の肩を、ゆっくり交互にたたきます。
左右1回で1往復です。12往復したら、一度動きを止めて、目をつむったまま、ゆっくり深呼吸してください。
深呼吸でリラックスしたら、もう一度、左右の肩を両手で交互にたたきます。
12往復したら、もう一度、深呼吸してください。
おそらく、体から力みが抜けて、胸のあたりが楽になるような感覚が得られたかたも、少なくないかと思います。
その感覚を、しみじみと味わいながら、深呼吸してください。
バタフライハグのやり方

自然災害や銃撃事件のトラウマ解消に活用
ご紹介したのは「バタフライ・ハグ」という、誰でも、どこでもできる心理療法の1つです。
バタフライ・ハグは、イグナシオ・ジャレーロ博士らによって、1998年に考案されました。
当時、心理療法の世界では「目や耳、腕といった体の一部を、左右交互に刺激することには、トラウマの解消効果がある」という研究が注目を集めていました。
そして、世界各地で、左右交互刺激を使った心理療法が、次々と開発されるようになりました。バタフライ・ハグもその1つです。
1998年にメキシコで起きたハリケーン災害の被害者に、バタフライ・ハグを試してもらったところ、トラウマの解消に非常に効果があったことから、世界的によく知られるようになりました。
以来、地震などの自然災害や銃撃事件などに巻き込まれた人たちの、つらい記憶を癒す方法として、バタフライ・ハグは世界各国で活用されています。
安心・安全のイメージはトラウマの消化を助ける
バタフライ・ハグのポイントは、「安心・安全を感じるもの」を思い浮かべながら行うことです。
自分が好ましく感じるものや人、場所や思い出……。家族や友人でもいいですし、映画やアニメのキャラクターでもかまいません。
こうした安心・安全を感じられるイメージを、心理療法の世界では、「リソース(資源)」と呼びます。
リソースとのつながりは、つらい過去を乗り越えるのに、欠かせないものです。
つらい過去をたくさん抱えた状態を例えると、「食べすぎで胃がパンパンに膨らんだ状態」と言うことができます。これでは消化がなかなか進みません。

リソースとは「胃薬」のようなものです。つらい過去の消化を助けてくれるので、胃にゆとりが生まれ、本来の消化力を発揮できるようになります。
そうなれば、嫌なことが起こっても、今度は消化できます。
バタフライ・ハグを行うと、リソースが活性化するので、リソースとのつながりが強くなります。
普段から、リソースとしっかりつながっておけば、トラウマやストレスを消化する力も強まります。
その結果、困難があっても「自分はだいじょうぶ」と思える自信を持てるようになるのです。
嘔吐がなくなり登校できた!情緒が安定し仕事に復帰!
私が担当したクライアントに、登校中に嘔吐してしまうため、学校に行けないお子さんがいました。
実は彼は、ある人への強い怒りを抱えていました。
その怒りは、体に不調を起こすほど強烈で、それが嘔吐の原因になっていたのです。
本人は、怒りを感じる相手について、考えることさえ避けたいようでした。そこで私は、彼のリソースを高める方法を選びました。
彼には、「心地よく感じる場所を思い浮かべて」と伝えました。
最初は「う〜ん」と悩んでいましたが、しばらくして彼は、家族旅行で行った九州や沖縄のことを思い出しました。
家族旅行の思い出を味わっているとき、彼は心地よさに包まれているようでした。
そして、この日以来、彼の怒りは消え、嘔吐もしなくなったのです。
リソースとつながることが心の安定をもたらす、いい例です。
家族からDVを受けた女性が、リソースとつながることで、情緒が安定し、仕事に復帰できたケースもありました。
心理療法の中には、トラウマになっている記憶を、クライアントに思い出させる方法もあります。
こうした方法にも効果はありますが、トラウマが強すぎて、逆効果になることも少なくありません。
その点、リソースに注目するバタフライ・ハグは、トラウマを思い出す必要はなく、困難を乗り越える力が自然と高まっていく、安心・安全な方法と言えるでしょう。
解説者のプロフィール

藤本昌樹(ふじもと・まさき)
東京未来大学こども心理学部准教授・臨床心理士。
1973年、東京都生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科心理学講座修了。東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士後期課程修了。静岡福祉大学准教授、桐生大学准教授を経て、現職。社会福祉士、精神保健福祉士。トラウマケア専門カウンセリングルームSeeding Resource代表。nico株式会社エグゼクティブアドバイザー。