
「耳鳴りの真実」が明らかになってきた
「耳鳴り」は、悩んでいる人の多い病気ですが、原因については、これまで不明な点が多くありました。
患者さんが耳鳴りを不快に感じ、生活に支障をきたしているなら、耳鳴りは病気と診断されます。
しかし、耳鳴りはあるけれど特に気にならない、というかたもいらっしゃいます。
このように耳鳴りは、患者さんの主観をもとに診断されるので、耳鳴りに共通する客観的な原因が、なかなか明らかにならなかったのです。
近年、脳の神経活動を解析する技術が飛躍的な発展を遂げました。
そのおかげで、聴覚に関係する脳の活動について、詳しく観察できるようになってきました。
耳鳴りがあるときに、どのような脳の活動が起こっているかについても、わかるようになってきています。
今までよくわからなかった、耳鳴りに関する真実が、明らかになりつつあるのです。
ここでは、私が2017年に発表した最新研究より、脳の活動からわかった、耳鳴りが起こるしくみについて説明しましょう。
「神経の勝手な活動」が耳鳴りの原因
まず、年を取るにつれて、高い周波数に対する耳(内耳)の神経活動が低下していきます。
簡単に言えば、高音を聴き取る力が弱まるということです。
高音が聴き取れなくなると、「抑制系」という神経の活動も低下します。
例えば、雑音がいっぱいの中で、話し声を聴き取るときに、私たちの脳は、雑音の周波数を抑えて、声を聴き取りやすいように調整しています。このときに活躍しているのが、抑制系の神経活動です。
高音が入ってこなくなると、脳は「高音が聴こえないな。もっと高音のセンサーを敏感にしよう」と神経に指令を出します。
それでも高音が入ってこないと、高音のセンサーはもっと敏感になります。
これが続くと、実際に外から高音が入ってきたわけでもないのに、高音域の神経が勝手に活動をするようになってしまうのです(自発活動)。
すると「キーン」という音が聴こえることがあります。これは、神経が自ら勝手に、音を作り出している状態とも言えるでしょう。
こうして、高音域の神経の自発活動により、実際には存在しない音が聴こえている状態が、耳鳴りの正体と考えられます。
耳鳴りへの恐怖が不眠につながる
本来なら、神経の自発活動は、前述した抑制系の活動によって鎮められます。
しかし、抑制系の活動も低下しているので、勝手な神経活動を抑えることができず、耳鳴りが継続すると考えられます。
神経の自発活動が原因で耳鳴りが起こったとしても、本人が気にしていなければ、生活に支障をきたすことはありません。
問題が起こるのは、耳鳴りが不安や恐怖の感情とつながったときです。
「耳鳴りが恐い」と思うようになれば、耳鳴りがさらに気になってしかたなくなります。
こうした悪循環で、不眠になるかたも少なくありません。
そうなると、耳鳴りが気になって眠れなくなり、眠れないため、さらに耳鳴りを意識してしまう、といった具合に、どんどん状況が悪化しかねません。
就寝時に音楽を流し無音状態を避ける
私の研究からお勧めできる耳鳴り対策は、大きくわけて2つです。
❶補聴器を使う
高音域の難聴がきっかけで、耳鳴りが起こる場合は、補聴器を使って、高音域にも音がしっかり入るようにすることが効果的です。
補聴器で高音がしっかり聴こえるようになれば、神経の自発活動を抑えることにつながります。
また、抑制系の神経活動を回復させることにもつながります。
つまり、正常な神経ネットワークの状態に近づき、耳鳴りが軽減していくのです。
❷就寝時に自然音を流す
補聴器がすぐに購入できない場合は、眠るときに自然音などの心地よい音を流すようにしましょう。
耳鳴りのかたが最も避けるべきなのは、無音状態です。音がなければ、高音への入力もありませんから、耳鳴りがさらに悪化しかねません。
また、静かすぎる環境では、耳鳴りに意識が集中しやすいものです。
そこで、就寝時に、川のせせらぎなどの自然音や、好きな音楽が入ったCDなどを、タイマー機能でかけておくのです。ラジオを小音量でかけておくのでもかまいません。
心地よさを感じる音は、不安を軽減させますから、耳鳴りが不眠につながる悪循環も予防できます。
また、耳鳴りを悪化させる不眠を防ぐために、毎日夕方までには軽い運動をして、睡眠の質を上げることもお勧めします。

自然音などを流しながら就寝すれば、無音状態を避けられ、耳鳴りを改善できる
解説者のプロフィール

岡本秀彦(おかもと・ひでひこ)
国際医療福祉大学医学部生理学教授・耳鼻咽喉科専門医。
2005年、大阪大学大学院医学系研究科臓器制御医学専攻を卒業。
大阪大学附属病院耳鼻咽喉科臨床研修医、ミュンスター大学生体磁気研究所博士研究員、自然科学研究機構生理学研究所統合生理研究系准教授などを経て、現職。
2015年、自然然科学研究機構若手研究者賞を受賞。医学博士。
●国際医療福祉大学
https://narita.iuhw.ac.jp/index.html