低血圧がめまい・耳鳴りを起こす
めまいや耳鳴りを医師に診てもらうとなれば、多くの人は耳鼻科に行くでしょう。そして、「耳の奥にある“内耳のむくみ”が関係している」と指摘されるかもしれません。
内耳がむくむ原因の1つが、低血圧です。血圧が低いということは、
①血液を体中に送る心臓の力が弱い
②手や足などの末梢血液を心臓に戻す力が弱い
という意味です。
低血圧では、めまいや耳鳴りに関わる器官に、血液が行き渡らず、必要な酸素や栄養が届きません。また、静脈に老廃物を含んだ血液が滞り、むくみを生じやすくなります。
つまり、低血圧による血液の巡りの悪さが、めまいや耳鳴りを引き起こしている可能性があるのです。
低血圧が原因でめまい・耳鳴りが起こっている患者さんには「やせている」「顔が青白い」「むくみやすい」といった特徴があります。
また、滞った血液中の老廃物は痛みの原因になるため、肩こりや片頭痛を起こしたり、血行不良のために、朝起きの悪さ、疲労感、息切れ、気分の落ち込みなどが生じたりすることもあります。
実際、慢性疲労症候群では、多くのかたが低血圧です。
うつ病と間違われるケースも
こうした症状は一見、うつ病に似ていますから、精神科や心療内科を受診して、抗うつ薬を処方されるケースも多々あります。
しかし、実際にはうつ病ではなく、低血圧なのですから、抗うつ薬は効果がありません。
さらに悪いことに、抗うつ薬には血圧を下げる副作用があります。血圧がさらに下がれば、症状は改善しないどころか悪化してしまいます。
実際に、抗うつ薬を処方されて、低血圧の症状がひどくなった患者さんを、私は何人も診てきました。
小食や偏った食生活が低血圧を引き起こす
患者さんの中には、私が低血圧と診断すると、馬鹿にされたような表情を浮かべるかたもいらっしゃいます。これは、低血圧が甘く見られていることのいい例でしょう。
しかし、理解していただきたいのは、低血圧が立派な「生活習慣病」だということです。
もちろん遺伝的に、血液を体中に送る心臓の力が弱いことも、低血圧の原因の1つではあります。
しかし、低血圧は多くの場合、遺伝的体質に、生活習慣が積み重なって起こります。
低血圧に、とりわけ大きな影響を与えているのが食生活です。
例えば、過去に、少食、過食、偏った食生活、極端なダイエットなどを経験したことがあるかたは、血糖値の乱高下(血糖値スパイク)を起こしやすくなっています。
血糖値が乱高下すると、一時的な低血糖(※)に陥ります。血糖値が低いということは、利用できるエネルギー(糖)が少ないということでもありますから、エネルギー不足となり、血液を送り出す心臓の力も弱くなります。こうして低血圧を生じるわけです。
特に、高齢のかたは食後に低血糖を起こしやすく、注意が必要です。
※機能性低血糖、反応性低血糖。インスリンが出すぎて血糖値が下がりすぎるために起こる
朝、少しのチェダーチーズを食べれば血圧が上がる
低血圧が原因のめまい・耳鳴りを解消するには、食生活の改善が欠かせません。それには、次の4つが役立つはずです。
❶3食きちんと食べる
特に、朝食は必ず摂りましょう。温かい飲み物を1杯だけでもかまわないので、必ず何か口にしてください。3食食べることで、血糖値の乱高下を防ぎ、低血糖から低血圧になる流れを断ち切ることができます。
❷塩分は多めに取る
「健康には減塩」と思い込み、塩分を摂取しないようにしている人もいるようですが、血圧を上げるべき低血圧のかたには逆効果です。
1日に15〜20gの塩分を摂ってください。味噌汁や、魚の塩焼き、漬け物などを食べるようにするとよいでしょう。
❸チェダーチーズを食べる
チェダーチーズには、「チラミン」という血圧を上げる作用のある物質が含まれています。少量でもいいので毎日、食べてみてください。血圧を上げて1日を始められるよう、朝食べるのがお勧めです。
私が以前診た、61歳の男性は、「シャイ・ドレ―ガー症候群」といって、起立性低血圧を中心とする症状に悩んでいました。
失神することもある激しい立ちくらみや、めまいのせいで、歩けなくなることもありました。
それが、毎日50gのチェダーチーズを食べた結果、低血圧が大幅に改善し、立ちくらみやめまいを克服することができました。
❹発酵食品を食べる
下痢や便秘は、栄養障害を起こし、低血圧の症状を悪化させます。ヨーグルトや納豆などの発酵食品を摂取して、腸内環境を整えてください。
疲れを感じやすい低血圧のかたは、気を張って生きてきたため、感受性が細やかで、気配りができ、創造性があるかたが多いものです。
そうしたかたが低血圧を改善し、豊かな才能をじゅうぶんに発揮できるようになることを祈っています。
低血圧を改善する4カ条


解説者のプロフィール

永田勝太郎(ながた・かつたろう)
千代田国際クリニック院長・WHO(世界保健機関)心身医学・精神薬理学教授。
1948年、千葉県生まれ。
福島県立医科大学卒業。千葉大学、北九州市立小倉病院、東邦大学、浜松医科大学附属病院心療内科科長、日本薬科大学統合医療教育センター長・教授を経て、WHO(世界保健機関)心身医学・精神薬理学教授、(公財)国際全人医療研究所代表理事、リヒテンシュタイン国際学術大学院大学ビクトール・フランクル講座名誉教授、日本実存療法学会理事長、日本疼痛心身医学会理事長。
『本当は怖い「低血圧」』(秀和システム)など、著書多数。
●千代田国際クリニック
https://www.ciclinic.net/