睡眠中は水分を取れず血液はドロドロになる
動脈硬化が進むとともに血栓ができると、その結果として、脳梗塞や心筋梗塞といった怖い病気を招いてしまいます。
命に関わるこれらの病気を防ぐために習慣にしてほしいのが、起床後に十分な水分を取ることです。
具体的には、朝起きてから2時間の間に、600〜800㎖の水分を取ることを、私は提唱しています。
読者の皆さんは、脳梗塞や心筋梗塞の発症頻度が、時間帯によって大きく異なることをご存じでしょうか。
統計によって違いはあるものの、多くのデータでは、朝の時間帯の頻度が高くなっています。
脳梗塞と心筋梗塞のうち、およそ7割は朝の時間帯に起こっているのです。
これには理由があります。
私たちは、日中起きているときには、のどが渇けばすぐ水分を取ります。
しかし、睡眠中は水分を取ることができません。
そのため、どうしても体は脱水傾向になります。
睡眠中は、意外と多くの水分を失います。
私たちが意識しないうちに、呼気(吐く息)に含まれたり、皮膚から蒸発したりして失われる水分が700〜800㎖あります。
これに汗で失う水分を合わせると、多いときは一晩で1200㎖もの水分を失うのです。血液中の水分も減るので、朝方には、いわゆるドロドロ血液に傾きやすいのです。
すると血液が固まりやすくなり、血栓ができる危険性が高まります。
同時に、朝は自律神経のうち、主に休養時に働く副交感神経から、活動時に働く交感神経に切り変わる時間帯です。
交感神経の働きが強まると、血管が収縮して血圧が上がります。
つまり、朝は、
①血栓ができやすい
②血管が収縮して細くなる
③血圧が上がって血管壁への刺激が増す
という悪条件がそろって、血管に血栓が詰まりやすくなる魔の時間帯なのです。
大部分の脳梗塞や心筋梗塞が朝の時間帯に発生するのは、こうした理由からです。
この危険な時間帯を、できるだけ安全に過ごすために効果的なのが、起床後2時間以内に600〜800㎖の水分を取る、という方法です。
脳卒中は、起床後2時間以内の発症が多い

水や野菜ジュース、麦茶がお勧め
起床後すぐに、これだけ大量の水分を補給すれば、血液をサラサラ状態に戻せます。
すると血栓ができにくくなるので、脳梗塞や心筋梗塞の予防に役立ちます。
血管の収縮や血圧の上昇があっても、おおもとの原因である血栓を防ぐことで、そうした効果が得られるのです。
目安として、男性は800㎖、女性なら600㎖の水分を、起床後2時間以内に3〜4回に分けて取りましょう。
標準的な体格であれば、女性より男性のほうが大きいので、取るべき水分も多くなります。
女性でも体格のいい人は700〜800㎖取ってください。
飲むのは、次の3点がよいでしょう。
①水
水道水の塩素(カルキ)が気になる場合は、浄水器を通した水、ミネラルウオーターなど
②野菜ジュース、果物ジュース(無加糖のもの)
③麦茶
コーヒーや紅茶、緑茶などでもよいのですが、これらは水分摂取量の半分以下にとどめましょう。
カフェインを含む飲み物には利尿作用があるため、水分補給の効率が悪くなるからです。
私は、朝起きるとすぐに水をコップ1杯飲み、少ししてからオレンジジュースを飲みます。
朝食とともに紅茶を2杯飲んで、ほぼ800㎖になります。
なお、朝以外の時間帯にも、水分は十分取ることが大事です。
目安として、朝以外に男性は1500㎖、女性は1000㎖ほど取りましょう(食品に含まれる水分は別)。
肉を食べる前にトマトを食べるのも効果的
水分補給のほかにも、私が血栓予防のために実践しているのが、肉食の前にはトマトを食べるということです。
肉類に偏ると動脈硬化を進める一因になりますが、その前にトマトを食べると、弊害を減らすことができます。
肉類の脂肪が酸化することは、動脈硬化を進める元凶ですが、トマトに豊富なリコピンが脂肪の酸化を防ぐからです。
また、リコピンには動脈硬化を抑える善玉コレステロールを増やす働きもあります。
野菜(特に緑黄色野菜)は、全般的に酸化を防ぐ成分を含みますが、中でもトマトは効果的です。
このほか、自律神経のバランスを取ることも重要です。
血管の過剰な収縮を防いで、脳梗塞や心筋梗塞の予防に役立ちます。
それには、早寝早起きや十分な休養を心掛けることです。
大切な血管を守るため、起床後の水分摂取をぜひ実行してください。
解説者のプロフィール

南和友
京都府立医科大学卒業後、ドイツに渡航し、心臓外科医として活躍。年間手術数6000例という世界一の規模の心臓センターをドイツで立ち上げる。2005年に帰国し、最先端の治療を普及するとともに次世代の心臓外科医の育成にも力を注ぐ。