軍隊の流行病だった脚気を一掃した大麦
東京慈恵会医科大学附属病院では、入院患者さんへの昼食に、毎日、大麦が3割入ったごはんを出しています。
最近、大麦の健康効果が次々と解明されており、注目を浴びていますが、それよりずっと以前、明治のころ、海軍の軍医であった高木兼寛が大麦に着目していました。
というのも、軍隊では、脚気(ビタミンB1欠乏症の一種で、心不全と末梢神経障害を起こす)という病気が流行し、軍隊としての機能が損なわれるほど重大な問題になっていたからです。
高木医師は、脚気の原因を白米主体によるビタミンB不足と考え、白米から大麦入りごはんに変える食事療法を行います。
結果は大成功で、脚気患者は急激に減りました。
この高木医師こそが、当病院の創設者なのです。
大麦は、ビタミンB群やミネラル類を多く含む栄養豊富な食材です。
成分の中でも特筆すべきなのが、食物繊維の多さです。
その量は、玄米の4~5倍。白米との比較では10~20倍もの差となります。
すごいのは量だけではありません。
食物繊維には、水に溶けにくい不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維がありますが、大麦にはその両方が豊富に含まれています。
この2種類の食物繊維の理想的なバランスは「不溶性2に対して、水溶性が1」です。
しかし、水溶性食物繊維を豊富に含む食品が少ないため、ほとんどの人の場合、水溶性食物繊維が不足しているのです。
大麦は、水溶性植物繊維が豊富という珍しい食品です。
そのため、大麦を食事に加えると、食物繊維の理想的なバランスに近づけることができるわけです。
高血圧の予防から肥満や便秘の解消まで役立つ

現在、大麦が注目を集めている理由は、それに加えて「β‐グルカン」と呼ばれる水溶性食物繊維が際立って多いからです。
それでは、大麦のβ‐グルカンの健康効果についてご説明しましょう。
①血糖値の急上昇の抑制
粘性や吸着性があり、胃の中で食物とからまります。
すると食物の消化吸収がゆるやかになり、糖の吸収を抑えます。
その結果、血糖値の急上昇が抑制されるのです。
この効果は、大麦を食べてから半日ほど残るため、朝食で大麦を食べれば、昼食と夕食の血糖値上昇も抑制されるのです。
②コレステロールの低減
余分なコレステロールを吸着し、排泄を促す作用があります。
その結果、コレステロール値を下げる効果も期待できます。
③高血圧の予防
塩分の吸収を抑制し、高血圧を予防する効果があることが、海外の研究によって報告されています。
また、大麦にはカリウムとカルシウムが豊富に含まれていまます。
カリウムは余分な塩分を排泄し、カルシウムは血圧を安定させるので、それらの相乗効果も期待できるでしょう。
④便秘の解消
腸で善玉菌のエサとなります。
すると善玉菌の活動が活発になり、腸内環境が整います。
また、大麦に含まれる不溶性食物繊維も、便の量を増やすとともに、腸壁を刺激して腸の蠕動運動を促してくれます。
⑤免疫力の向上
腸には細菌などから体を守る免疫組織が多く存在しています。
大麦のβ‐グルカンは、腸内環境を整えることで、腸の免疫機能を向上させてくれます。
⑥肥満の予防
小腸で余分な脂肪が吸収されるのを抑制します。
また腹持ちがいいので、おなかも空きにくくなります。
研究では、大麦を1日に3g食べると、これらの効果が得られることが実証されています。
これは、白米に3割の大麦を加えた麦ごはんの場合、お茶わん4杯分の量になります。
毎食、お茶わん1杯の麦ごはんを食べ、残りはおかずに大麦を混ぜて取るとよいでしょう。
大麦は調理に手間がかからないのも長所です。
麦入りごはんなら水の量や浸水時間を守れば、あとは炊飯器で炊くだけです。
おかずに使う場合も、煮物や汁物に大麦をそのまま加えて煮込んだり、フライパンで炒ってサラダにトッピングしたりすればおいしくいただけます。
前述の効果を実感するためには、最低2週間は大麦を食べ続けることをお勧めします。
お通じについては、早ければ3日程度で変化が感じられるでしょう。
実際、患者さんからは「大麦を食べるようになってから、お通じがよくなった」「体重が減ってきた」といった声を多くいただいています。
別の記事では、大麦を使ったお勧めのレシピをご紹介します。ぜひご活用ください。
解説者のプロフィール

濱裕宣
東京慈恵会医科大学附属病院栄養部課長。管理栄養士。医大発のレシピ本が続々と出る中、慈恵医大ならではの特色を生かしたレシピ本といえばこれしかないと思い、企画した『慈恵大学病院のおいしい大麦レシピ』(出版文化社)が大好評となる。