解説者のプロフィール
【悩み】トイレで便を出した後も、なんだか出きっていない感じや、お尻に違和感があります。スッキリしないし、何か病気があるのかもと心配です。(60代女性)
まずは内視鏡検査でガンの可能性をつぶす
ご相談のお尻の違和感は、「残便感」と呼ばれるものです。
これは、排便したにもかかわらず、便が肛門の奥に残っているような感じがして、「まだ出そう。でも出ない」といった感覚のことを指します。
残便感が起こる主な原因は三つあります。
①大腸ガンなど腸の病気。
②腸のぜん動運動の異常。
③イボ痔ともいわれる内痔核によるもの。
①〜③はいずれとも、中年以降に起こりやすくなります。
相談者の方は60代ですから、三つの原因を一つずつ探っていく必要があります。
何よりも最初に行っていただきたいのが、大腸ガンのチェックです。
消化器内科か肛門科で大腸内視鏡検査を受け、ガンの有無を調べましょう。
肛門科だと、ガンと肛門を1回でチェックできます。
ちなみに、健康診断で便潜血反応がマイナスであっても、ガンがないとはいえません。
便に異常がなくても、2年に一度は内視鏡検査を受けるようにしたいものです。
ガンなど腸に病気がなかった場合、残便感の原因は②の腸のぜん動運動の異常か、③の内痔核ということになります。
それぞれの対策を説明しましょう。
腸のぜん動運動の異常でいちばん多いのが「直腸性便秘」です。
直腸まで便が達しているにもかかわらず、便意を感じなくなって起こる便秘で、女性に多くみられます。
直腸性便秘の原因には、便意を我慢してしまう習慣があります。
通常、直腸に便が到達すると「便が来た」という直腸の神経反射が起こり、それが脳に伝わります。
すると脳から直腸に「便を出しなさい」と指令が送られ排便を促します。
ところが、家事や仕事などの忙しさにまぎれて便意を我慢する習慣が続くと、脳から直腸に送られる指令が遮断されます。
その結果、直腸に便がたまっても便意を感じなくなり、ぜん動運動も起こりにくくなって便秘になります。
直腸性便秘を解消するには、便意を我慢しないことが重要です。
加えて、朝起き抜けにコップ2杯の水を飲みましょう。
水で胃が急に膨らみ、この刺激が自律神経を通じて大腸に伝わってぜん動運動を起こし、強い便意をもたらします。
朝、ストレッチや体操など軽い運動を行うことでも、腸のぜん動運動が促され便意を起こします。
また、便意を感じたときは、便座にやや前かがみに座ると、便がより出やすくなります。
便意が強くなったところで、軽くいきんで排便します。
ストンと便が出る快便感を覚えておき、トイレに入るたびに思い出しましょう。
気持ちよく便が出せるというイメージトレーニングも、便秘解消に効果を発揮します。
残便感の原因と対策

内痔核は3ヵ月で改善する
もう一つ、残便感の大きな要因となるのが③の内痔核です。
内痔核は、肛門の内部にできるイボ痔(痔核)です。
排便時の強いいきみや座りっぱなし、便秘などが原因で生じます。
痛みは少ないのですが、進行すると排便時に出血します。
内痔核が大きくなると便が出しにくくなり、残便感が起こります。
また、内痔核の腫れが刺激となり、直腸に便がたまっていないにもかかわらず、体が「便があるのではないか」と錯覚して、違和感や残便感につながります。
痔というと、出血や激しい痛みを伴わないと自覚がなかったり、いざとなっても、肛門科や手術への拒否感が先に立つかたも多いようです。
ですが、内痔核の手術の適用は12%程度で、残り88%は3ヵ月間、薬物治療と生活改善を行い、肛門内部の炎症を治めることで改善します。
日常生活の注意点は、1時間以上座り続けないことです。
タイマーを1時間で鳴るようにセットし、アラームが鳴ったら10メートルほど歩きましょう。
これだけでも、内痔核の悪化要因である肛門周辺の血管のうっ血を予防できます。
食物繊維をしっかり取って便を軟らかくすることも大切です。
不溶性食物繊維と水溶性食物繊維を半々ずつ取りましょう。
いきまずに排便できるようになります。
食事は、ごはんにみそ、しょうゆ、ぬか漬けなど発酵食品を加えた和食がお勧めです。
腸内の善玉菌を増やすことで便通が整い、肛門内部の炎症を治めることができます。
日常生活の改善で症状が治まることも多いので、できることから心がけてみましょう。
平田 雅彦
平田肛門科医院院長。1953年、東京都生まれ。81年、筑波大学医学専門学群卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。社会保険中央総合病院大腸肛門病センターを経て、現職。「患者さん本位の親切医療」をめざし、最新の医療技術と心身両面の生活指導を通して、痔の約9割を手術なしで共存するという実績を上げている。著書に『痔の最新治療』(主婦の友社)などがある。