●昔よりも字が下手になった
●段差も何もないところでつまずきやすくなった
●食べこぼしが多くなった
●しびれや震えが起こる
このような変化に心当たりのある人は要注意です。あなたの末梢神経は、かなり老化しているかもしれません。末梢神経は脳と体の末端をつなぎ、指令や情報を伝える働きをしています。(以下、「神経」と略して表記する)。
私は脳神経外科医として、これまでに延べ39万人に上る患者さんを診てきました。その経験から、神経は命をつなぐ生命線だと考えています。頭痛、腰痛、耳鳴りから高血圧や便秘まで、あらゆる病気や体の不調の元凶は、「神経の老化」だと言っても過言ではありません。
神経の老化現象が引き起こす症状(1)
耳が遠い、転びやすいは神経老化の危険信号
神経の老化が万病につながるということを、もう少し詳しく説明していきましょう。
神経の老化現象が引き起こす症状は、大きく三つに分けられます。
一つ目は、神経が老化して、電気信号が詰まって起こる症状です。
電線でたとえれば、断線しかけて、電気がついたり消えたりと不安定になるか、停電をしてしまった状態です。
つまり、脳から神経を通して、筋肉や内臓、血管などに届けられるべき指令がきちんと届かず、また末端から脳に報告されるべき情報も脳にしっかりと伝わらないので、脳が的確な指令を出せなくなっています。
「耳が遠くなった」「目が見えづらくなった」「味やにおいがわからなくなった」といった視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった五感が鈍くなった状態は、感覚神経(末端がとらえた感覚情報を脳に伝える神経)の老化の典型的な表れです。
五感から得た情報が、脳まで届かなくなると、脳の神経細胞への刺激が減ります。
そのために脳の血流が悪くなり、さらに神経の老化が進む悪循環で、認知症につながります。
実際、ミエリンを再生させる薬を、認知症患者さんに服用してもらったところ、認知機能が向上したという研究が発表されているのです。
同様に、運動神経が老化して、筋肉への指令にタイムラグが起こり、動かしにくい筋肉が出たり筋肉の協調がうまくいかなくなると、転びやすくなったり食べこぼしが多くなったりします。
そして思うように体が動かないことで、ますます体を動かすことがおっくうになり、使われなくなった神経がさらに老化していき、筋肉が弱っていってしまいます(廃用性萎縮)。

脳と器官のやり取りがうまくいかなくなる
便秘も、神経の老化で信号が詰まって起こる典型的な症状です。
食事をした刺激が神経を通して大腸に伝わると、大腸の神経にコントロールされながら蠕動運動(腸の内容物を先に送ろうとする動き)が起こって、便が直腸に押し出されます。
今度は直腸の神経が便が直腸にたまったことを感知して、神経を通して脳に伝え、その情報を受け取った脳から「排便せよ」という指令が出て、排便するというのが、通常の排便の仕組みです。
この一連の流れのどこかで、神経の老化によって情報伝達が滞ってしまうと、蠕動運動が起こらなくなったり、便意を感じなくなったりして、便秘を招いてしまうのです。
神経の老化現象が引き起こす症状(2)
神経が原因の痛みには消炎鎮痛剤が効かない
神経の老化現象が引き起こす症状の二つ目は、ミエリンが損傷した部分から電気信号が漏れ出して起こる症状です。
電線でたとえると、カバーが破れたところから、漏電している状態です。
漏れ出した電気信号が、周囲の神経を刺激して、不快感をもたらします。
その刺激の度合いによって、ムズがゆい感覚だったり、チリチリ、ピリピリ、ジンジンしたしびれや痛みの感覚、むき出しの神経に直接触られたような激烈な痛みまで、さまざまです。
ピリピリ、ジンジンした痛みの代表的なものが「糖尿病性末梢神経障害」。
最初は足の裏や足指に痛み・しびれが現れ、やがて手指にも症状が出てきます。
腰から足にかけて痛みやしびれが起こる座骨神経痛、激烈な痛みが走る三叉神経痛や舌咽神経痛も同様の神経障害性疼痛です。
こうした神経障害性の痛みには、ロキソニンやボルタレンのような一般的な痛み止め(消炎鎮痛剤)が効きません。
神経痛は、周囲の炎症が神経を刺激して起こしているのではなく、老化した神経自体が起こしている痛みです。
消炎鎮痛剤は、その名のとおり、痛みの原因となっている炎症を抑えて痛みを鎮める薬ですから、そもそも炎症していない神経痛には効きようがないのです。

脳へ伝わる情報にノイズ が入るとめまいが起こる
高血圧や高血糖(糖尿病)も神経からの「漏れ」が招く症状です。
自律神経(意思とは無関係に血管や内臓機能を調節している神経)で電気信号の漏れが生じると、血圧を調整するための血管の収縮・弛緩や心拍が誤作動して高血圧が誘発されたり、インスリンなどのホルモン分泌も適切にコントロールできなくなってしまうのです。
ですから、顔もみでミエリンを巻き直して神経を若返らせることは、高血圧や糖尿病の改善にもたいへん有効なのです。
体のバランスを取る機能に問題が起こって発生するめまいも、感覚神経の電気信号の漏れが原因です。
立ち上がったり、姿勢を変えたときなどに、体の動きの情報が脳に瞬時に届かなかったり、信号にノイズが入ったりして平衡感覚が狂うために脳が混乱し、めまいが起きます。
特に、周囲がグルグル回転するように感じるタイプのめまいには、顔もみが有効です。
ただ、くり返し起こったり、手足に力が入らないという症状を伴ったりする場合は、重篤な症状が隠れている恐れがありますので、一度、脳神経外科や神経内科を受診してください。
神経の老化現象が引き起こす症状(3)
悪い姿勢で神経を圧迫すると神経に負担がかかる
神経の老化現象が引き起こす症状の三つ目は、電気信号が一気に流れ過ぎて、神経が興奮状態になって起こる症状です。
電線でたとえると、過電流を起こした状態。
ショートして火花が散ったり、熱を持って火事を起こしたり、電気機器を壊してしまいます。
電源コードを何度も折り曲げていると、コードが劣化して発熱・発火などの事故のもとになります。
人間の体でも、悪い姿勢を取り続けて、神経を圧迫したことが原因となって症状が現れてきます。
腰痛は、普段から姿勢が悪かったり、うつぶせで本を読んだりしていると、腰の神経に大きな負担がかかって、あるとき、電気信号が一気に流れて起こります。
予兆もなくグキッとした衝撃とともに起こるぎっくり腰は典型です。
重い物を持つ、あるいは無理な姿勢を取るといった物理的な負担だけでなく、心理的なストレスも、過電流を引き起こす要因となります。
椎間板ヘルニアやひざ痛では、椎間板(背骨のクッションの役割をしている軟骨)や半月板(ひざ関節のクッションの役割をしている軟骨)が、無理な姿勢を続けたり、酷使したりして、本来の位置からはみ出して起こります。
はみ出した軟骨が神経を圧迫すると、神経が常に興奮状態となってしまうのです。
ちょうど電源コードをイスの脚で踏んでいて、電気抵抗が増し、過熱して発火したイメージです。

スマホの画面から出る光が視神経を酷使する
パソコンやスマートフォンの普及に伴い、眼精疲労に悩まされる人が増えています。
スマートフォンなどの画面からは、ブルーライトと呼ばれるエネルギーの高い光が出ています。
長時間にわたって見続けると、後頭部を走る大後頭神経や視神経に、過剰な負荷がかかるのです。
パソコンやスマートフォンを使用するときには、1時間に1回程度は休んで、顔もみを行うのがお勧めです。
いったん過熱してしまった電線の劣化が進むように、電気信号が過剰に流れた神経は、神経を包むミエリンの損傷が激しくなります。
すると、「詰まり」や「漏れ」が起こりやすくなって、また「流れ過ぎ」を起こすリスクが上がります。
三つの症状は、ミエリンの損傷という点で、密接に関係しているのです。
私たちの体には、ミエリンのメンテナンスを行う力が、もともと備わっています。
その力を最大限に発揮するために、ぜひ顔もみを活用してください。
解説者のプロフィール

工藤千秋(くどう・ちあき)
くどうちあき脳神経外科クリニック院長。
1958年、長野県生まれ。東京脳脊髄研究所所長。臨床脳電位研究会事務局長。日本脳神経外科学会専門医。英国バーミンガム大学、労働福祉事業団東京労災病院脳神経外科、鹿児島市立病院脳疾患救急救命センター脳神経外科などを経て、2001年にくどうちあき脳神経外科クリニックを開設。漢方やアロマセラピーなど各種補完療法も導入しながら、脳疾患はもちろん、認知症やパーキンソン病、痛みの治療にも情熱を傾ける。著書に『脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング』(サンマーク出版刊、1300円+税)などがある。
●くどうちあき脳神経外科クリニック
東京都大田区大森北1-23-10
TEL 03-5767-0226
http://www.kudohchiaki.com/