オキシトシンの健康効果
「オキシトシン」という脳内ホルモンをご存じでしょうか。
私たちの感じる幸福感や愛情と深い関わりがあることから、「幸せホルモン」「愛のホルモン」とも呼ばれます。
近年、オキシトシンには、ストレスを抑えたり、自律神経(※自分の意志とは関係なく、体の機能を維持・調節する神経)の働きを整えたり、免疫力(※体が病気などに抵抗する力)を高めたり、体の痛みを抑えたりと、さまざまな健康効果があることがわかってきました。
私はかねてからオキシトシンについて研究しており、その分泌を増やすと考えられる方法を治療の一環として取り入れ、また、患者さんの生活の中でも実践してもらうように指導してきました。
すると、「肩こりや腰痛から開放された」「うつ病や不眠症が改善した」「体を動かすのも苦痛だった関節炎が軽快した」などの声が聞かれています。
オキシトシンの分泌を高めるポイント
実は、オキシトシンの分泌を高めるポイントは2つだけです。
1つは、「五感に気持ちいい刺激を与えること」です。
体を気持ちよく動かしたり、おいしいものを食べたり、美しい景色を見たり、好きな音楽を聴いたり、いい香りをかいだり……。
要するに、体と心が心地よく感じることをすればいいのです。
もう1つは「人と交流すること」です。
もともとオキシトシンは、スキンシップをすると分泌されることがわかっていました。
母親が赤ちゃんを抱っこする、恋人同士が手をつなぐ、マッサージを受ける……など。
また、セックスは最もオキシトシンが分泌される行為です。
しかし、最近になって、肉体的な触れあいのみならず、精神的な交流によってもオキシトシンが出ることがわかってきました。
人に思いやりや感謝、共感の気持ちを持つだけでもオキシトシンが出るのです。
例えば、ボランティア活動をすると体が健康になるという論文があります。
これはオキシトシンの分泌が関係しているのではないかと思っています。
私自身、大震災後の東北へ医療ボランティアに行った際、食事も満足にとれない過酷な環境にもかかわらず、不思議と体が軽く、力が出ると感じました。
まわりのボランティアの人も同じようなことを言ってました。
人はそういう無償の行為をすると、オキシトシンが出て、元気になるようになっているのだなと実感したものです。

クリニックでも治療に取り入れ成果が上がる
最近の研究からは、ツボを鍼で刺激すると、その刺激が脳の視床下部に及び、オキシトシンが分泌されることが明らかになっています。
ツボは「経穴」ともいわれ、東洋医学では古くから、心身の不調を整える効果があることが知られてきました。
現在では、WHO(世界保健機関)もツボ療法に治療効果があることを認めています。
ツボへの刺激は自律神経の反応を引き起こしたり、血流の改善を促したりと、さまざまな作用がありますが、オキシトシンの分泌が増えることも心身の不調改善に役立つ理由の1つと考えられます。
私のクリニックでも治療の一環として鍼灸療法を取り入れていますが、痛みやこりなど体の症状ばかりでなく、うつ病や認知症の症状改善にも役立っています。
実はオキシトシンの分泌が増えると精神的に安定し、うつ病や認知症の症状改善に役立つことがわかってきました。
海外では近年、うつ病や自閉症などの精神疾患に対するオキシトシン補充療法も試みられるようになっています。
ただ、私自身はオキシトシンを外部から投与することには疑問を抱いています。
なぜなら、オキシトシンを外部から投与し続けると、体内にあるオキシトシン受容体(刺激を受け取るしくみ)が鈍感になり、さらに脳内でオキシトシンを分泌する能力が衰える可能性があるからです。
前述の方法で、なるべく自分の脳内でオキシトシンを分泌させる生活を心がけるようにしましょう。
特に「首のツボ」は、脳に近いうえ、現代人は長時間のデスクワークやパソコン、スマホの使用などの影響で、首こり、肩こりを抱える人が多いため、心地いい刺激を得やすい場所です。
別記事では、心地いい刺激でオキシトシン分泌を高めるのに役立つ首のツボを紹介します。
もちろん首のツボ刺激は、オキシトシンの分泌だけでなく、首こり、肩こり、頭痛などの不調の解消にも役立つことでしょう。
オキシトシンは自律神経を整える
現代人には、首のこりに悩まされている人が多くいます。
首のこりを放置すると、骨(頸椎)のゆがみにつながったり、周囲を通る神経の働きに悪影響を及ぼしたりして、自律神経失調症のような、さまざまな不調につながる恐れがあります。
そこで首のツボを押して、こりをほぐすとともに、心地よい刺激で幸せホルモン・オキシトシンの分泌を促していきましょう。
オキシトシンには自律神経のバランスを整える働きもあります。
自律神経は、体を緊張させる交感神経とリラックスさせる副交感神経で構成されていますが、現代人は交感神経の働きが過剰になりやすく、自律神経のバランスがくずれがちです。
オキシトシンは交感神経を抑えて、副交感神経の働きを優位にし、自律神経のバランスを整えます。
なお、ツボ刺激は強く押しすぎず、「イタ気持ちいい」と感じられる程度の強さにとどめてください。
「脳活ツボ」の押し方

解説者のプロフィール

高橋徳
統合医療クリニック徳院長。
1977年、神戸大学医学部卒業。関西の病院で消化器外科を専攻した後、1988年、米国に渡る。ミシガン大学助手、デューク大学教授を経て、2008年よりウィスコンシン医科大学教授。2013 年、オキシトシンの研究成果をまとめ、英文で『Physiology of Love』をNova Science Publisherより出版。同年、郷里の岐阜で、統合医療クリニックを開院。
●統合医療クリニック徳
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