生活を変えなければ病気は治らない
現職に就く前、私は国立大学で教鞭をとりながら、約10年間、治験センター長として新薬の臨床試験に取り組んできました。
ですから、薬の長所、短所はよくわかっています。
その上であえて言わせていただくと、今の医療は、医師も患者も薬に頼りすぎています。
「病気はこの薬を飲めば治る」というような単純なものではありません。
人は日常生活を送る中で、病気になっています。
ということは、その人の生活のどこかに問題があるのです。
しかも、病気は1日や2日で生まれるわけではありません。
問題のある生活を長期間続けることによって、発症するのです。
にもかかわらず、薬でてっとり早く病気を治そうするのは、無理があります。
病気をほんとうに改善したいなら、自分の生活の中の問題点を見つけて、時間をかけて整え直す「急がば回れの養生法」が必要になってきます。
逆に言えば、それをすることで、薬に頼らなくても病気が治る可能性はあるということです。
生活の中で、まず見直すべきものは食事です。
最近は、腸と健康の関係が注目されています。
腸は栄養素を吸収する場でもありますが、細菌やウイルスなどの外敵侵入を防ぐ関所でもあります。
関所には多くの免疫細胞が存在しますので、生活習慣病や自己免疫疾患はもちろん、アルツハイマー病、パーキンソン病といった脳の病気ですら、適切な食事の摂取で改善すると私は考えています。
食事を変えたらパーキンソン病が改善
当病院では、私が専門とするパーキンソン病の患者さんを対象に、1日800キロカロリーの少食や玄米、野菜を中心とした昔ながらの日本食の提供を実践しています。
少食療法だけで、よだれ、不整脈、夜間徘徊が減ったり、立てなかった人が立ち上がることができるようになったりと、大きな効果が見られるかたが出現しています。
私自身も今から3年ほど前、総コレステロール値が300mg/dlくらいありました。
薬を飲まず放っておいたら、やがて不整脈が出るようになり、知り合いの医師からは服薬を勧められました。
しかし、私はそれを断り、自分自身で食養生を実践してみることにしました。
私がまず取り入れたのは、野菜スープです。
最初の2日間は、朝と夜にそれぞれお椀1杯程度の野菜スープを飲み、それ以外は何も食べない断食を実践しました。
3日目からは、朝は野菜スープと玄米ごはん、昼は玄米ごはんと野菜中心の弁当、夜は野菜スープを軸にした具だくさんのみそ汁と玄米ごはん、野菜中心のおかずと魚を食べました。
すると、1週間ほどで不整脈が止まり、以後、まったく出なくなりました。
コレステロール値も1年かけて220mg/dlまで下がりました。
現在もこの食事は続けていて、コレステロール値は207mg/dlくらいで安定しています。
それどころか、カゼ一つひきません。
インフルエンザの予防接種も受けていませんが、この食生活を続けていれば必要ないと考えています。
くず野菜スープの材料例

8番目の栄養素マイクロRNAにも注目
私がこんなふうに健康が保てているのは、食事の内容を見直したことに起因しますが、中でも野菜スープの効果が大きいと思っています。
人の体に必要な5大栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル)のうち、野菜にはビタミン、ミネラルが豊富に含まれています。
加えて、6番目の栄養素と言われる食物繊維も、野菜スープで大量に摂取できます。
さらに、7番目の栄養素として、ファイトケミカルがあります。
植物にストレスがかかると出現するファイトアレキシンの中には、皆さんもご存じのポリフェノールなどの抗酸化成分が含まれています。
そしてもう一つ、私は8番目の栄養素として、マイクロRNAを挙げてみたいと思います。
植物に含まれるマイクロRNAがヒトの体に入ってきて、さまざまな遺伝情報の制御を介して、がんを抑制したり、ウイルスの増殖を抑えたりすることに役立つと考えられるようになってきました。
植物が3億年かけて磨いてきた病気への対応方法をいただくことで、私たちも健康を維持することができるのです。
ただし、野菜は、どんなものを、どう食べるかが重要です。
ファイトケミカルやマイクロRNAは、植物にストレスがかかると増えることがわかっています。
それには、温室で育てた野菜よりも、自然環境の中で育った季節の野菜を食べるのがよいでしょう。
調理法も、生食や電子レンジ加熱ではなく、時間をかけてグツグツゆでるほうが、野菜にストレスがかかって、ファイトケミカルやマイクロRNAが増えると予想されます。
その意味でも、野菜スープがお勧めなのです。
「くず野菜スープ」は「お宝スープ」
私が実践し、皆さんにもお勧めしているのは、「くず野菜スープ」です。
下の写真をご覧ください。
我が家のある日のくず野菜スープの材料です。
くず野菜は、タマネギの皮、ネギの根や端っこ、赤カブの皮、シシトウのヘタ、ハクサイのヘタ、ニンジンのヘタ、カブの葉です。
通常、これらは「野菜のくず」として、生ごみに出しているかたが多いのではないでしょうか。
しかし、これらは「くず」ではなく、実際は体に有用な成分の「宝庫」です。
紫外線やウイルス、細菌などから身を守るファイトケミカルは、野菜の外側にこそ多くあるのです。
ですから、くず野菜スープではなく、実は「お宝スープ」なのです。
作り方は、1300mlの水に、よく洗った野菜のくずを両手一杯分、それにお酒小さじ1を入れて、弱火で20~30分煮ます。
ボウルの上にザルをおき、鍋ごと移してこせば、出来上がりです。
こうし作ったくず野菜スープは、我が家では料理のときの水代わりに使っています。
別に作っただしと一緒に、ジャガイモやニンジンなどを入れたポタージュスープにしたり、野菜の具だくさんのみそ汁にしたりして食べています。
生活の中のどこに問題があるのかは、人それぞれ異なります。
それでも、病気を改善させる食養生の主役として、くず野菜スープを試してみる価値はあると思います。
食事のほかにも、睡眠や運動、それに生体リズムを整えることも重要です。
私は食事を改善した以外に、生活のパターンも見直しました。
ここ数年は、夜8 時くらいまでに夕食を終え、10時前には就寝し、朝4時半くらいに起きる生活を続けています。
皆さんもご自身の生活を見直して、問題のある部分を改善することに取り組んでみてください。
くず野菜スープの作り方

解説者のプロフィール

佐古田三郎
国立病院機構・刀根山病院院長。大阪大学名誉教授。1975年、大阪大学医学部卒業。2000年、大阪大学医学部神経内科教授に就任。2010年より現職。パーキンソン病を専門としつつ、診療科の枠にとらわれない身体全体にアプローチした病態の解明、生体リズムを改善する「高照度光療法」、「少食療法」などを取り入れた薬に頼らない治療法、日常の食事や睡眠などを重視した養生法のあり方などについて幅広く研究、啓蒙を続けている。著者に『医者が教える長生きのコツ~病院・薬に頼らない、自分でできる「現代養生訓」』(PHP 研究所)がある。
●刀根山病院
大阪府豊中市刀根山5丁目1番1号
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