野菜スープを冷蔵庫に常備
15年前から、我が家の冷蔵庫には「野菜スープ」が常備してあります。
常備するようになったきっかけは、40歳のときに虫垂がんがみつかったことでした。
虫垂は大腸の一部で、盲腸の端にある小さな部分です。
症例数の少ないがんで、5年生存率の統計はみつけられませんでしたが、手術で治る可能性は約30%と、術後、医師から告げられました。
術後の抗がん剤も、治癒の確率を高めるかどうかは、先生によって考え方が分かれるそうでした。
そこで、いろいろと模索して漢方治療を受け始めたのですが、その先生は食事療法も指導されており、「日々の食事は、薬以上にクスリですよ」と食事の重要性を言われました。
「ほんとうにそうだ」と納得できたので、私は食事療法を始めました。
その中の大きなものが「野菜スープ」だったのです。
漢方の先生の食事療法では、肉類や大型魚、添加物入りの調味料などはとりません。
野菜、海藻、キノコ、アジのような小型魚などを、岩塩などの天然のもの、伝統的製法で作った調味料で味つけします。
最初は少し苦労しましたが、もともと料理が好きなので、慣れてくると工夫して作るのが楽しくなってきました。
同時に、素材のもち味がとてもおいしく感じられるようになってきました。
なかでも、それを味わえるのが、毎日とる具だくさんの野菜スープです。
しみじみおいしく体にスーッと入る
食事療法を始めたときから、自分に許したことがあります。
それは、続けるためには、「作りおき」などの手抜きもするということ。
野菜スープも、次のようなやり方で作りおきすることにしました。
材料として、必ず使うのがタマネギとニンジン。
そこにキャベツかハクサイと、夏ならカボチャ、冬ならダイコンを加えます。
作り方はいたって簡単で、各材料を適当な大きさに切って鍋に入れ、浸るくらいの水を入れてじっくり煮込むだけです。
大きめの鍋にたっぷり作って冷蔵庫で保存し、私は4日くらいで食べています。
味はつけずに、食べるつど温めて調味料や食材を加えると、飽きずにおいしく食べられます。
タマネギをはじめとした根菜は、煮込むほど深い味が出るので、そのままでもじゅうぶんおいしくいただけます。
特に、朝一番にこのスープを飲むと、しみじみおいしく、体にスーッと入っていきます。
また、夜におなかが空いたけれど、「ここでごはんを食べると寝られなくなる」というときにも、このスープを飲んで温まり、小腹を満足させて寝ます。
この作りおきスープがあるだけで、手間をかけずに食卓が豊かになります。
始めたのは病気がきっかけでしたが、「おいしくて便利だから」という理由で自然に続けてきました。
肌の透明度が上がり血液サラサラ度が抜群
この野菜スープをとり始めてから3カ月ほどたつころ、いつもお世話になっているメイクさんから「肌の透明度が上がりましたね」と言われました。
そのかたがおっしゃるには、皮膚のすぐ下に流れている血液が、サラサラできれいに流れていると肌の透明度が上がるそうです。
野菜スープの常食などで、どうやら血液のサラサラ度が上がったようです。
野菜スープをとり始めて3年目頃、取材で血液ドックを受けたとき、そのことがさらにはっきり証明されました。
血液のサラサラ度を調べたところ、検査員さんが驚くほど抜群だったのです。
検査員さんから「動脈硬化には間違ってもなりません」というお墨付きまでいただきました。
がんの手術を受けてから15年が過ぎましたが、おかげさまで再発はなく、体調もいたって良好です。
私は野菜スープをはじめとする食事療法を、「していればがんが再発しないはず」と思って取り入れたわけではありません。
そんなふうに思い込むと、望ましい結果にならなかったとき、「あんなに我慢したのに裏切られた」という感じになってしまいます。
それはつらいので、「保証は求めず、食事自体を楽においしく味わおう」という気持ちでした。
その気持ちに、おおいにこたえてくれたのが野菜スープです。
今では、私の体がこの野菜スープを欲しているのがわかります。
「野菜不足を感じているけれど、なかなかじゅうぶんにとれない」という人や、「野菜スープを常食したいけどめんどう」という人に、作りおき野菜スープはぴったりです。
ベーコンや肉類を入れたくなるかもしれませんが、野菜だけのシンプルなスープを作ることをお勧めします。
最初は少しもの足りなくても、続けるうちに、野菜の深い滋味が感じられるでしょう。
野菜スープの作り方


岸本葉子
エッセイスト。
1961年、神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒。会社勤務、中国留学を経て執筆活動に入る。食や暮らしのスタイルの提案を含む生活エッセイや、旅を題材にしたエッセイを多く発表。同世代の女性を中心に支持を得ている。著書に『がんから始まる』『がんから5年』(文芸春秋)、『テーブルに何もない日気持ちいい暮らしのスタイルブック』(ミスター・パートナー)、『週末介護』(晶文社)、『いのちの養生ごはん』『捨てきらなくてもいいじゃない?』(中央公論社)など多数。