わが国では毎年約3万人が肝臓ガンで亡くなっていますが、その原因として最も多いのが、ウイルス感染による「C型肝炎」です。
かつては、C型肝炎はなかなか治らないとされていましたが、近年は治療法が目覚ましく進歩しました。
特に、この2年ほどで新薬が次々に登場し、従来の治療法で効果がなかった患者さんも完治が可能になりました。
現在は、9割以上の患者さんが治るようになっているといいます。
しかも、従来の治療法にはつきものだった副作用もほとんどない飲み薬で、比較的、短い期間での完治が可能になっているのです。
おおたかの森病院消化器肝臓内科部長の島田紀朋先生に、C型肝炎の最新治療について伺いました。
【取材・文】山本太郎(医療ジャーナリスト)
解説者のプロフィール
B型とC型肝炎は自覚症状がほぼない
――肝炎には「B型」「C型」などの種類がありますが、どのような違いがあるのですか?
そもそも肝炎とは、肝臓の細胞に炎症が起こり、肝細胞が壊される病態です。
お酒の飲み過ぎが原因となるアルコール性肝炎、免疫の異常が原因となる自己免疫性肝炎などもありますが、最も多いのはウイルスの感染が原因となるウイルス性肝炎です。
肝炎の原因となるウイルスは、A・B・C・E型などがあります。
A型やE型は急性肝炎で通常、慢性化することはありません。
一方、慢性化するのはB型とC型です。
B型は出産時の母子感染が(母親が感染している場合、生まれてくる子も感染してしまうことがある)圧倒的に多いのが特徴で、C型では感染した場合、7割程度が慢性肝炎になります。
日本では肝炎症状のないキャリア(持続感染者)を含めると、B型が100万人程度、C型は150万~200万人いると推測されています。
なお、ウイルスの種類によって感染経路も異なります。
A型やE型肝炎ウイルスは、飲食物などを経由し口から感染します。
生の魚介や生肉、衛生状態の悪い土地での生水から感染することがあります。
B型とC型肝炎ウイルスは、空気感染や経口感染することはなく、血液を介して感染します。
B型肝炎ウイルスのほうが感染力は強く、性交渉による感染や母子感染も少なくありません。
C型の場合、わが国の感染者の多くは、C型肝炎ウイルスが発見される前の輸血や血液製剤、あるいは注射針が使い捨てになる前の注射針の使い回しなどで感染したものと考えられています。
現在では、このような原因で新たに感染することはほとんどありません。
問題になるのは、ピアスや入れ墨、覚せい剤使用などで注射針を使い回すことによる感染です。
急性肝炎は発熱や倦怠感、嘔吐、黄だんなどの症状が現れますが、一般に症状は一過性で、安静にしていれば自然に治ることが多いものです。
一方、慢性肝炎は通常、自覚症状はほとんどないのですが、放置していると、肝硬変や肝臓ガンに進展していく怖い病気です。
早期に発見・治療することが大切です。
今回は、近年に治療法が大きく変わってきたC型肝炎について、詳しくお話ししたいと思います。
主なウイルス性肝炎の種類

ここ数年で根底から治療法が変わった
――C型肝炎の治療はどのように変わってきているのですか?
C型肝炎の治療では従来、インターフェロンによる治療が広く行われてきました。
インターフェロンとは、もともと私たちの体内で、ウイルスやガン細胞などの病原体に対抗するために作り出される物質です。
インターフェロンには強い抗ウイルス作用がありますが、C型肝炎ウイルスのように感染が慢性化しやすいウイルスに対しては、体内で作られる量では、とうてい追いつきません。
そこで、人工的に作られたインターフェロン製剤を大量に追加することで、ウイルスを排除する、これがインターフェロン療法です。
しかしインターフェロン療法は、治療期間が1年~1年半ほどもかかる上に、発熱や倦怠感、うつ症状などの副作用が現れることも多く、患者さんにとってはつらい治療法でした。
しかも、完治率は全体の5割程度で、決して治療成績のよい治療法とはいえなかったのです。
というのも、後ほど詳しく説明しますが、C型肝炎ウイルスにもいくつかの種類があり、インターフェロンは日本人に多い1型のウイルスには効きが悪いのです。
しかし近年、新しい薬が次々と登場し、従来の治療では効果がなかった種類のC型肝炎ウイルスも、非常に高い確率で治療できるようになりました。
患者さんが感染しているC型肝炎ウイルスの種類に応じ、適切な治療薬を用いることで、今やC型肝炎の9割以上が完治可能です。
この2~3年の間に、C型肝炎の治療は根底から変わったのです。
これはぜひ、多くの人に知っていただきたい事実です。
ウイルスの種類によって薬を使い分ける
――新薬はどのような薬なのですか?
インターフェロンが、免疫力(病気に対する抵抗力)を増強してウイルスを攻撃するのに対して、2014年以降に次々と承認された新薬は特定の種類のウイルスを直接攻撃し、やっつける薬です。
ウイルスに対してのみ作用するため、インターフェロン療法にはつきものだった副作用もほとんどなくなった上、3~6ヵ月程度の投薬で済むようになったのも大きなメリットです。
ただし、とても重要なのが、C型肝炎ウイルスの種類に応じて、適切な薬を選んで使用するということです。
C型肝炎ウイルスは、さらに細かくいくつかに分類されます。
ウイルスの種類を特定するための検査も、近年に新たな方法が登場し、より高精度の判別が可能になっています。
従来は、C型肝炎ウイルスを「セロタイプ(血清タイプ)」という分け方で、「1型」「2型」の2種類だけに分類していました。
セロタイプによるC型肝炎ウイルスの判別は、1995年に健康保険の適応となり、現在、一般に行われている検査です。
ただ、患者さん全体の5%くらいに判定不能が出ることがあり、また、まれに判別の間違いが生じることもあります。
それによって、治療の効果が現れないケースもままあるのです。
それに対して、遺伝子の塩基配列というものの類似性による「ジェノタイプ」という分類が従来から知られています。
ジェノタイプでは、C型肝炎ウイルスを「1a」「1b」「2a」「2b」「3a」「3b」など、より細かく判別できます(下の表参照)。
ちなみに日本人の場合、1bが最も多く約70%、2aが約20%、2bが約10%、1aや3aがわずか(1%未満)といった割合で、3bは非常にまれです。
ジェノタイプを調べる遺伝子型検査は現状、まだ健康保険の適応になっていないため、多くの医療機関では行っていません。
しかし、ジェノタイプを検査したほうが、より適切な治療を行うことができます。
例えば、2014年9月に承認されたダクラタスビル(商品名ダクルインザ)、アスナプレビル(商品名スンベプラ)の2剤併用治療は、セロタイプによる分類で1型に有効です。
けれど実は1b型には有効なのですが、1a型には効果が非常に乏しいのです。
一方、2015年7月に承認されたソホスブビル+レジパスビル配合剤(商品名ハーボニー)は1a型にも有効です。
もし患者さんが1a型に感染している場合、こちらの薬を用いる必要があります。
C型ウイルスの分類

再燃した患者さんが完治した例もある
実際のところ、C型肝炎は近年の治療法の進歩で、高い確率で治る病気になりました。
それでも、なかなか治らない患者さんも、まだ一部います。
それは、ウイルスの判別が正しく行われておらず、治療が適切ではない可能性があります。
ウイルスのジェノタイプを正しく判別し、患者さんに最適な「テーラーメイド治療」を行うことが重要だと考えています。
さらに、特に日本人で最も多いジェノタイプ1bの患者さんでは、薬剤に対する耐性変異(薬剤に対して効果を減弱させる、特定の部位のウイルスの遺伝子変異)の検査を行うことで、さらに治療効果を非常に高い確率で予測することがでます。
これが究極の「テーラーメイド治療」であると思っています。
68歳の女性患者Aさんは、他の病院でセロタイプ2型のC型肝炎と診断され、インターフェロン(2型には一定の効果がある)と、リバビリンという薬の投与を受けていました。
ところが、それでいったんはウイルスの数値が改善したものの、完治せずにまた再燃してしまい、初期肝硬変の状態に進展してしまったとのことで、当院を受診されました。
検査してみると、セロタイプは確かに2型と出るのですが、ジェノタイプは実は1b型という結果が出ました。
つまり、セロタイプの判別結果が誤っていたわけです。
早速、1b型に有効な投薬治療を開始すると、はたしてウイルス値が順調に下がっていき、3ヵ月ほどで完治しました。
Aさんは「ウイルス値が下がらないというだけで、特に自覚症状がなくても、心配でしかたなかった。無事に治療できて、精神面でも本当にらくになりました」と話されていました。
C型肝炎の新治療薬の種類

国や自治体の助成制度も活用できる
C型肝炎ウイルスに感染し、医療機関での治療を受けている人は50万人ほどにすぎず、残りの100万人以上が自らの感染に気付いていないともいわれています。
現在では対策が取られていて、輸血や血液を原料とした薬からC型肝炎に感染することはありませんが、そうした対策が取られる前、具体的には1992年(平成4年)以前に輸血や大きな手術を受けたことがある、あるいは出産時に大量出血があった、長期に血液透析を受けているといった人は、ぜひとも検査を受けてください。
現在でも入れ墨やボディピアス、不潔な鍼治療などで感染することがありますので、思い当たる人も検査を受けたほうがいいでしょう。
最初に受ける検査は「HCV抗体検査」という血液検査で、ほとんどの病院や診療所で受けることができます。
この検査では、現在、C型肝炎に感染している人、あるいは過去に感染したが治ってしまった人、すべてが陽性になります。
もし陽性であれば、肝臓の専門医を受診し、さらに詳しい検査を受けてください。
そのさい、できればジェノタイプの検査を行っており、症例数の多い医療機関を選ぶのがお勧めです。
最後に、治療費のことです。
C型肝炎の新たな治療薬は薬価が高いのですが、国や自治体による医療費の助成制度があり、適用になれば、患者さんの自己負担の上限額が月額1~2万円で済みます。
ただし、助成の申請には肝臓の専門医の診断が必要です。
お住まいの都道府県に、助成制度の申請方法などを問い合わせの上、必ず専門医を受診してください。
島田紀朋
1991 年、東京慈恵会医科大学卒業。同大学第一内科入局。虎の門病院消化器科(肝臓科)、東京慈恵会医科大学柏病院総合内科、平和台病院内科部長、新松戸中央総合病院消化器・肝臓科部長、千葉徳洲会病院消化器内科肝臓病センター長等を経て、2015 年より現職。専門分化している肝疾患を、総合的に診断・治療する。医師一人当たりの症例数は全国トップ10 に入る。