痛みやストレスなど全身の不調を和らげる
私は鍼灸やいろいろな手技療法を取り入れたセルフケアを、患者さんに勧めています。
そんな健康法の一つに、「耳ひっぱり」があります。
これは、両耳を指で軽くつまんで、ごく弱い力で2~3分間ひっぱるというものです。
耳ひっぱりは、アメリカで考案された、「オステオパシー」という手技療法の中の「頭蓋仙骨療法」という手技の一部です。
解剖学的な裏付けのある、根拠のある方法です。
耳にあるツボや反射区(体の各部位に対応するゾーン)を刺激する一般的な耳ツボ療法とは異なり、耳をひっぱることで頭蓋骨を調整することを目的としています。
頭蓋骨は一つの骨ではなく、15種類23個の骨が、立体パズルのように組み合わさっています。
頭蓋骨を構成する骨同士は、縫合という、ギザギザとした縫い目のようなつなぎ目で結合しています。
かみ合わせ、悪い姿勢、ストレス、外部からの衝撃などの影響で、頭蓋骨の縫合が硬くなったり、ゆがんだりすると、頭蓋骨の間を通る血管や神経も圧迫されます。
その結果、頭痛や不眠、めまい、耳鳴り、目の疲れ、肩こり、自律神経失調症など、全身のさまざまな不調につながるのです。
ごく弱い力で軽くひっぱるだけ
最初に、耳ひっぱりのやり方のコツと注意点を説明しておきます。
まず、耳は決して強くひっぱらないこと。
ごく弱い力で軽くひっぱるだけで、効果は十分得られます。
やり方は次のとおりです。
①耳の真ん中あたりのくぼみ(下の写真参照)を人さし指と親指でつまみます。
人さし指が耳の前、親指が耳の裏側です。
②斜め後方に2~3㎜ひっぱります。
物足りないくらいの力かげんがポイントです。
③呼吸はゆったりと自然に、耳をひっぱったまま、最低でも1分以上、できれば2〜3分キープします。
座った姿勢で行う場合は、頭をイスの背もたれや壁につけるか、机にひじをつくと、らくにできるでしょう。
就寝前にあおむけで行っても構いません。
耳ひっぱりはかなりのリラックス効果があるので、直後は頭がボーッとすることがあります。
耳ひっぱり後に雑用などを行う場合は、リラックス状態から脱するために、最後に耳ひっぱりをしながら足首の曲げ伸ばし運動を行います。
ゆっくりと息を吸いながらつま先をすねのほうに近づけて、息を吐きながら元の位置に戻します。
耳ひっぱりを終了するときに、この動作を5〜10回加えると、心身がシャキッとします(下のやり方参照)。
リラックスできる「耳ひっぱり」のやり方

大半の人はその場で頭がスッキリする
耳は、頭蓋骨の側頭骨という骨にくっついています。
側頭骨の内側には、脳硬膜(小脳テント)というものがくっついていて、その端は蝶形骨という骨にくっついています。
耳をひっぱると、これらのアンバランスさが調整され、頭蓋骨の縫合がゆるむので、血流や神経の流れがよくなります。
また、側頭骨と後頭骨の間には頸静脈孔というすき間があり、重要な神経や血管がたくさん通っています。
耳をひっぱると、頭の両側面にある側頭骨が横に広がり、側頭骨と接している骨の縫合もゆるみます。
すると、頸静脈孔が広がり、頭蓋骨内によどんでいた古い血液が内頸静脈からスムーズに排出されて、脳の血流がよくなるのです。
迷走神経(リラックス状態をつかさどる副交感神経の一部で、内臓の働きをコントロールする)や副神経(首や肩の筋肉につながる運動神経)など、頸静脈孔を通る神経の流れもよくなります。
耳ひっぱりを行うと、その場で大半の人が実感するのが、頭がスッキリして、深いリラックス感を得られることです。
頭や目の奥の重い感じが取れて、就寝前に行うとぐっすり熟睡できます。
緊張型の頭痛、めまい、耳鳴り、首や肩のこりなどにも効果的です。
とても気持ちがよく、気分がリフレッシュします。
通常は気持ちがいいものですが、もし不快感があれば無理に行わないでください。
解説者のプロフィール
村山哲郎
岡山県生まれ。日本鍼灸理療専門学校卒業。操体法、カイロプラクティック、オステオパシー等の手技療法を習得。鍼灸治療、耳鍼を基本とした、様々なアプローチを行う。自宅でできるセルフケアを考案し患者に紹介している。
●戸塚鍼灸院
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