解説者のプロフィール
足の裏をマッサージすると睡眠の質が上がる
私は、福岡市で精神科・心療内科を開設しています。
当院の診療は、漢方薬と西洋薬の二本柱で行っています。20代のころに勤務した病院で、漢方の名医に直接教えを受けたことがきっけでした。
さらに当時、鍼灸の指導も受けることができました。皮膚刺激の効果を目の当たりにし、「心と体は相互に関係している」という思いが強くなりました。
実際にクリニックを開設し、日々、患者さんに接していると、「体が健康でないと、心も健康にならない」ことがわかります。例えば、「ストレスを感じると動悸がする」という患者さんは、「動悸がすると不安が強くなり、それがまた動悸につながる」といいます。
こうした悪循環に陥らないための基本が、「良質の睡眠」です。睡眠不足だったり、熟睡できなかったりすると、副腎皮質ホルモンやアドレナリン、ノルアドレナリンといった脳内物質が放出されます。これらは、危険を感じて逃げるときや、闘うときにも分泌されます。つまり、良質の睡眠を取れないと、心身は緊張状態に入るのです。
良質の睡眠は、薬でのコントロールが難しく、患者さん自身の努力が不可欠です。そこで、私は患者さんに、簡単なセルフケアをお勧めしています。
なかでも、簡単で気持ちよく、効果を実感しやすいのが、「足の裏刺激」です。
足の裏には、鍼灸で使うツボや、「反射区」があります。反射区とは、体内の臓器が投影されている場所のことです。足の裏のほかに、手のひらや手の甲、耳などにも、反射区があるとされます。
私のクリニックには、「人と接するのが不安」「憂うつな気分が続く」「感情のコントロールができない」といったかたが多く来院されます。
皆さんも経験があると思いますが、不安や恐怖を感じているときは、体がかたく縮こまるものです。足の裏全体をマッサージすることで、反射区に対応する臓器や部位が緩むという効果が期待できます。
下の図を見ていただくとわかるように、足の裏には、心身をリラックスさせる反射区が多く存在します。また、不眠の特効穴といわれる、失眠というツボもあります。
心が軽くなる「足の裏の刺激法」

つまり、足の裏をマッサージすることで、心身が緩み、睡眠の質が上がるのです。
実際、患者さんからは「足の裏をマッサージすると、「とっても気持ちがよくて、全身の緊張が解けます」といった感想が聞かれます。
治療家が足の裏を刺激するときは、「ここは目」「ここは胃腸」というように、局所的に押したりもんだりします。しかし、一般の人がセルフケアで行う場合は、厳密にツボやゾーンを確定する必要はありません。足の裏全体をマッサージするだけで、十分です。物足りないときは、足裏を触ってみて、痛いところやかたいところを丁寧にもみほぐしてください。
この図に、メンタル強化に効果的なツボと反射区、そして、それぞれの刺激法を紹介しています。余裕のあるかたは、試してみてもいいでしょう。
入浴時に足の裏だけタワシで洗おう
私が患者さんに勧めているのは、入浴時に行う足の裏マッサージです。
入浴には、うつ病を改善したり、睡眠の質を上げたりする効果があると判明しています。
スペインのハエン大学では、2014年、高齢者を対象に12日間の温泉治療プログラムを実施し、痛みや睡眠、気分状態について調査しました。その結果、温泉療法は被験者のすべての症状を有意に改善したのです。
また、ドイツのフライブルク大学の研究グループは、2017年、週2回の温熱浴でうつ病の症状が改善したという研究結果を発表しました。
気分が優れないときや、疲れ切ったときには、お風呂に入ることすら苦痛な患者さんもいます。でも、「お風呂が気持ちを楽にしてくれますよ。治療の一環と思って入ってくださいね」とお話しします。
湯船につかって体を温めたら、体を洗うときに、足の裏をマッサージします。わざわざマッサージするのは大変なので、足の裏だけ洗い方を変えればけっこうです。足の裏は、体を洗うタオルではなく、タワシで洗いましょう。ツボや反射区を刺激するためには、タワシくらいのかたさが適当なのです。
毎日10回程度、両足の裏をこすってみてください。睡眠の質が上がって朝スッキリ目が覚め、生活のリズムが整います。続けるうちに、心の悩みも改善していくでしょう。
木村昌幹
1962年、東京都生まれ。川崎医科大学卒業後、同大学附属病院、一本松すずかけ病院などを経て、2001年より現職。精神科医。精神保健指定医。日本心身医学界専門医。日本医師会認定産業医。