解説者のプロフィール
レモンは何百年も前から健康に役立てられていた
果実や野菜などの有効成分が発見されたのは現代になってからです。
その成分の機能が研究によって科学的に証明されたことで、健康に役立てられるようになりました。
しかし、ことレモンに関しては、成分も機能もまだ解明されていない何百年も前から、世界中で健康に役立てられてきた歴史があるのです。
例えば、16〜18世紀にかけての大航海時代には、船に大量のレモンが積み込まれました。
そのレモンを長い航海中にかじることで、壊血病(ビタミンCの不足によって起こる出血性の病気)をはじめとするさまざまな病気を防いでいました。
私も、食品が持つ健康効果の研究を長く続けてきました。
なかでも、健康に役立つ成分がズバ抜けて多いのがレモンといえるでしょう。
ビタミンCとポリフェノールの作用
では、レモンの有効成分と、各成分が健康にもたらす作用を見ていきましょう。
●ビタミンC
レモンに多い有効成分といえば、まずビタミンCです。
ビタミンCは、疲労回復やカゼの予防に役立ち、肌や骨の形成に必要なたんぱく質であるコラーゲンの生成にもなくてはならない成分です。
最近の研究では、ビタミンCに血液中の余分なコレステロールや中性脂肪を減らし、血液をサラサラにする働きがあることもわかっています。
ビタミンCが豊富なレモンなどのかんきつ類をいつも取っている人ほど、肥満や生活習慣病を予防できます。
●レモンポリフェノール
次に、レモンには多彩なポリフェノール成分が含まれます。
ポリフェノールは「抗酸化作用」を発揮する機能性成分で、体内に増え過ぎると病気や老化の原因になる「活性酸素」を抑える働きがあります。
レモンには、エリオシトリン、ヘスペリジン、ケルセチンなどのポリフェノール成分が含まれていることが確認されています。
三つのポリフェノール成分の中でも、特にレモンに多く、強い抗酸化作用を発揮するのがエリオシトリンです。
エリオシトリンには血管を強くする作用、血液循環をよくする作用、血中の脂質を減らす作用があることが、研究等で明らかになっています。
二つめのヘスペリジンは、かんきつ類全般に含まれるポリフェノールで、血管を強化する働きがあります。
そして三つめのケルセチンは、タマネギやソバにも含まれるポリフェノールです。
ケルセチンは、関節や血管・血液の健康維持に役立つことで注目を集めている成分です。
ヘスペリジンとケルセチンはビタミンPと呼ばれたこともあり、血管を強化する成分として注目されていました。
抗酸化作用以外にも、ポリフェノールには大腸菌、ピロリ菌、虫歯菌などに対する抗菌作用があります。
生ものにレモンをかけて食べることで、抗菌作用が発揮されます。
また、これらのレモンポリフェノールは、果肉や果汁に比べて、皮にたくさん含まれています。
つまり、レモンを食べて抗酸化作用や抗菌作用を存分に発揮させるためには、果肉だけでなく皮も取ることが重要です。
丸ごとかじるのも一つの方法ですが、レモン酢のように皮付きのレモンの輪切りを酢漬けや砂糖漬けにすると食べやすく、ポリフェノール成分を十分に取れるでしょう。

リモネンでリラックス、クエン酸で疲労回復
●色素成分や香り成分
レモンの色素成分や香り成分も、健康を助けます。
色素成分でカロチノイドの一種の「β・クリプトキサンチン」は、血液循環や骨の強化に役立ちます。
香り成分のリモネンは、リラックス効果や血行促進効果があることで知られています。
レモンを取ったら不眠が改善したという話を聞きますが、これはリモネンのリラックス効果がうまく作用したものでしょう。
●クエン酸
レモンのすっぱさのもととなるクエン酸は、細胞でエネルギーを生み出すクエン酸回路で重要な働きをする成分。
疲れたときにレモンを食べると、クエン酸回路が働いて早めに疲労が取れ、体調が回復します。
さらに、クエン酸には、キレート作用という働きがあります。
キレート作用とは、カルシウムや鉄など体に吸収されにくいミネラル分を包み込んで吸収しやすい形に変える働きです。
この働きが、骨粗鬆症の予防にはとても役立ちます。
骨粗鬆症は、老化や閉経の影響で骨を作るカルシウムや鉄分が減って骨密度が薄くなり、骨がもろくなる病気です。
クエン酸が、カルシウムを増やす手助けをしてくれるのです。
私が以前に行った実験でも、骨粗鬆症を防ぐレモンの作用が実証されています。
50代の女性7人に、レモン1個分の搾り汁を毎日摂取し続けてもらいました。
3ヵ月後に骨密度の変化を調べたところ、7人中6人の骨密度が、レモンの搾り汁を飲む前に比べて上昇していることを確認しました。
骨粗鬆症の予防には、できるだけ早い時期からレモンを習慣にして取ることをお勧めしたいです。
レモンの機能性成分の一覧表

漬けたレモンを食べると良い
私自身も、レモンをよく食べています。
自宅ではサラダや肉、魚料理でレモンを使い、外食でも、レモンを使った料理を選ぶようにしています。
天ぷらにギュッと搾ったレモンをかけて食べるのも好きです。
おかげで生活習慣病や骨粗鬆症もなく、現在も医師として大勢の患者さんの診察にあたっています。
こうした健康効果を得るため、雑誌やテレビなどでも、最近ではさかんに、レモンの手軽な取り方が紹介されています。
なかでも、最近は「レモン酢」の人気が高まっていると聞いています。
レモン酢なら、漬けたレモンを食べることもできます。
前述したとおり、レモンのポリフェノールは皮に豊富に含まれていますから、レモン酢ならレモンの有効成分を丸ごと手軽に摂取できます。
レモン酢を飲むのはもちろんのこと、漬けたレモンもぜひ食べてください。
季節柄、これからは国産のレモンが市場に出回る時期です。
毎日の健康にぜひ、レモンをお役立てください。
板倉弘重
1961年、東京大学医学部卒。同 第三内科講師、国立健康・栄養研究所臨床栄養部長、茨城キリスト教大学生活科学部食物健康科学科教授などを歴任。主な研究分野は、脂質代謝、動脈硬化、抗酸化物質。特に、赤ワイン、ココアのポリフェノールの抗酸化作用を明らかにした研究が有名。『あなたの血糖値はなぜ下がらないのか』(PHP出版)など著書も多い。