解説者のプロフィール

髙橋悟(たかはし・さとる)
日本大学医学部附属板橋病院副病院長・泌尿器科部長。
1985年、群馬大学医学部卒業。
東京大学医学部附属病院、国家公務員共済連合会虎ノ門病院、都立駒込病院、米国メイヨークリニック等を経て2005年より現職。
テレビや雑誌を通して尿トラブルをわかりやすく解説するほか、前立腺ガンをはじめとした泌尿器科腹腔鏡手術の件数は全国でも屈指。
3人に1人が夜間頻尿の疑い
夜、眠りについた後に、排尿のために1回以上起きなければならず、そのことで日常生活に支障をきたしている状態を「夜間頻尿」といいます。
ひと晩に2~3回以上も目が覚め、睡眠不足に陥り、日中の日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
夜間頻尿は加齢に伴って増加し、特に50代以降に多くなります。
40歳以上の日本人の3人に1人は、夜間頻尿の疑いがあるともいわれています。
男女差はほとんどありません。
夜間頻尿の主な原因
原因はいろいろありますが、主に次の三つが考えられます。
① 膀胱蓄尿障害
尿を膀胱にためておく働きや容量が低下してしまうことです。
過活動膀胱、前立腺肥大、間質性膀胱炎(膀胱に原因不明の炎症が起こり、尿がたまると痛みや切迫感が起こる病気)などによる障害が代表的です。
②夜間多尿
1日の尿量は正常でも、夜間の尿量が多い(1日の尿量の3分の1以上が夜に出る)状態です。
尿は本来は日中に多く作られますが、加齢に伴って心臓や腎臓の働きが低下すると、夜間尿量が多くなってしまいます。
③睡眠障害
眠りが浅いと、軽い尿意でも目が覚めやすくなります。
トイレに行きたくて目が覚めたのか、目が覚めたからトイレに行くのか、区別がつかないということも多いものです。
実は、このほか、あまり知られていませんが、夜間頻尿の原因として「足のむくみ」が関係していることもあるのです。
患者さんに勧めて効果のあった方法
そもそも「むくみ」とは、不要な水分が体内にたまった状態です。
年とともに筋力や血管の収縮力が弱まり、重力に逆らって体内の水分を上に持ち上げる働きが低下します。
そのため、足がむくみやすくなるのです。
夜、横になると、下半身にたまっていた水分が上半身へ移動し、心臓の静脈に戻る血液量が増えます。
すると体は余分な水分を尿として体外に排出しようと「利尿ペプチド」という物質を作ります。
その結果、夜間に腎臓で作られる尿量が増え、トイレに行きたくなるというわけです。
そこで、足のむくみを改善し、夜間頻尿を防ぐのに役立つ生活習慣をご紹介しましょう。
足のむくみを解消する4つの生活習慣
①午後から夕方に運動する
特に、むくみが起こりやすい午後から夕方の時間帯に、ウオーキングなど足を動かす運動を30分程度するのがお勧めです。
ふくらはぎの筋肉が収縮することでポンプ作用が働き、下半身の水分を持ち上げる効果が期待できます。
運動すると眠りも深くなり、一石二鳥です。
②過剰な水分摂取を控える
実は、水分の取り過ぎが頻尿を招いていることが少なくありません。
よく「1日2.5ℓ以上の水分摂取」が推奨されますが、これは食事に含まれる水分も合わせた量です。
ことに生の野菜は水分含有量が多く、利尿作用のあるカリウムも含まれます。
野菜をよく食べる人が頻尿でお悩みなら、その分、飲み物を控えるといいでしょう。
また食塩を控えると、のどが渇きにくくなり、過剰な水分摂取を抑えられます。
特に、就寝2〜3時間前の水分摂取は控えたほうが無難です。
「脳梗塞や心筋梗塞(脳や心臓の血管が詰まって起こる病気)予防で、寝る前に水を飲む」という人もいますが、これは医学的根拠がなく、私は気にする必要はないと考えます。
③足を高くしてあおむけになる
日中に、バスタオルやざぶとんなどを足の下に置き、足を10〜15㎝ほど上げて15分ほど仰向けに寝ます。
これにより、下半身の水分を移動させ、排尿を促すことに役立ちます。
ただし、寝る前や寝るときは逆効果なので行わないでください。
④夕飯と入浴の時間を早める
就寝の4時間前までに、夕飯と入浴を済ませてしまうのもお勧めです。
これにより、水分の摂取と排泄を前倒しにし、眠りを妨げないようにするのです。
4時間以上というのは、体の余分な水分が排出されるまでには、2〜3時間ほど必要だからです。
入浴は血流の改善や、足に水圧がかかり、むくみの解消に役立つと考えられます。
患者さんに効果のあった方法なので、ぜひお試しください。
