解説者のプロフィール

冨野玲子
鍼灸師。東京外国語大学在学中のベトナム留学をきっかけに自然療法に興味を持ち、世界各国でさまざまな自然療法を学ぶ。英国IFPA認定アロマセラピスト・プリンシパルテューター、ベトナム医道認定ディエンチャン・インストラクター、南アフリカDI認定セラピューティック・リフレクソロジストほか多数の資格を取得。
●自然療法の国際総合学院IMSI
https://www.imsi.co.jp/
覚えておきたい「尿意が遠のくツボ」
〇外出先でトイレが見つからない
〇公衆トイレに長蛇の列
〇トイレに行きたいのに会議が終わらない
〇渋滞にはまって、サービスエリアまで遅々として進まない
そんなピンチに陥ったときには、ぜひあごの先を小指の爪の角で30秒、ぐっと押してみてください。
あごの先には、ベトナム医道「ディエンチャン」で膀胱のツボ・反射区に当たり、「尿意が遠のくツボ」があるのです。
もちろん1時間も2時間ももたせられるわけではありませんが、「あとちょっと我慢したい」という切羽詰まった状況を救ってくれる、覚えておいて損はないツボだと思います。
生活に密着したベトナム式ツボ押し「ディエンチャン」
ディエンチャンは、顔にある「反射区」や「ツボ」を刺激して、全身の健康状態を読み取り、機能を高めるベトナム生まれの補完療法です。
ベトナム語で「ディエン(Dien)」は「面」、「チャン(Chan)」は「診断」を意味します。
ディエンチャンは、1980年に、ベトナム伝統医学研究家で、鍼灸師でもあるブイ・クォック・チャウ教授によって創始され、瞬く間にベトナム全土に普及しました。
当時のベトナムは、30年以上続いた数々の独立戦争・内戦・戦争がようやく収束したところ。
インフラは破壊しつくされ、衛生状態は最悪なのに、なまじアメリカに「負けなかった」ことで国際社会の支援も得られないという、非常に苦しい状況に置かれていたのです。
病院も医師も薬も足りないという医療が壊滅した状況で、国民のほとんどは、病気になっても病院で治療を受けることはできませんでした。
大学で法律を学ぶ傍ら、鍼灸や伝統療法を学んだチャウ教授は、そのような人々に鍼灸治療を行っていました。
同時に、家庭で誰もが自分の主治医になれるよう、簡単で即効性がある療法の開発に取り組みました。
顔面への治療は脳を刺激するため、全身に最も早く効果的に働く。
そう確信したチャウ教授は、顔にある反射区やツボを鍼で刺激し、体の健康状態を読み取り、体の機能を高め、健康に導いていく治療を始めました。
そして生まれたのが「ディエンチャン」なのです。
そうした背景を持つディエンチャンは、いつでも誰でも安全に、自分や家族の健康を守ることができるようになるための工夫が詰まっています。
例えば、字が読めない人でもわかりやすいように、刺激する場所を図や数字で示したり、鍼の代わりに、どんな家庭にも必ずあるはしの先端でツボを刺激するよう指導したりというのもその表れだと思います。
さまざまな病気、症状に対応するツボがある一方、生活に密着したツボが数多くあるのもディエンチャンの特長です。
最高気温が一年中30℃を超える国ならではの「涼しくなるツボ」、「魚の骨がのどに刺さったときのツボ」、おしゃべりが止まらない相手を「無口にするツボ」など、聞くと思わず笑ってしまいますが、いざというときにとても便利なツボがたくさんあります。

膀胱の筋肉の柔軟性を高めて蓄尿量を増す
今回ご紹介する、おしっこを我慢したいときに使う「尿意が遠のくツボ」もその一つ。
公衆トイレなどほとんどなかったベトナムでは、買い物の最中にトイレに行きたくなっても、帰宅するまで我慢しなければなりません。
実際、私も、留学中にトイレがなくて困ったことが何度もありました。
ベトナムと比べたらトイレ事情は格段によい日本であっても、乗り物に乗っているときや映画を観ているとき、席を外せないときなど、トイレに駆け込めないときに押し寄せる尿意は困りものです。
そのようなときには37番と87番のツボを30秒ずつ押してみてください。
ベトナムの知恵!尿意が遠のくツボ

緊急事態ですから指先の爪の角やペン先など、手近にある先端が細く、かつ丸まっていて、肌を傷つけないものならなんでも構いません。
今はディエンチャン用のツボ押し器具などもたくさん開発されていますし、専用器具を使うとたしかに刺激しやすく効果も高いのですが、なければあるもので代用してなんとかする、というのもディエンチャンの臨機応変な精神です。
図のツボの周辺を探ってみて、いちばんキーンと響くような痛みが感じられる場所を、肌が5㎜沈むぐらいの圧で押しましょう。
あごの膨らみの中央にある87番のツボは、膀胱の筋肉の柔軟性を高めて、尿を多くためることができるという、まさに尿を我慢するためのツボです。
小鼻の左側にある37番のツボは、脾臓の障害に効くツボです。
東洋医学では、一つの臓器の働きを強めると、それに関連する臓器の働きが弱まる関係(相剋関係)があるとされています。
37番のツボを刺激することで、相剋する膀胱の働きを一時的に弱めて尿意を抑えることができます。
この二つのツボは普段からこまめに刺激しておくと、尿もれ・尿失禁、夜間頻尿の改善にも役立ちます。
ぜひ一度お試しになってみてください。