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トラウマを克服!心の傷を癒やす方法

トラウマを克服!心の傷を癒やす方法 "不眠・パニックが消える音楽"

トラウマ(心の傷)とは、つらい体験を受けたとき、気持ちの整理がつかなかった、いわば「未処理の記憶」です。動悸や過呼吸、パニックといったPTSDを引き起こします。今回は臨床心理士の立場から、脳に直接働きかけ「再処理」を促し、「心の傷」を消す方法を紹介します。【解説】藤本昌樹(東京未来大学こども心理学部准教授・臨床心理士)

うまくいかなかったりキレやすかったりする原因は、乳幼児期からの「親との関係」が原因

トラウマ(心の傷)とは?

 私は大学で教鞭をとりながら、臨床心理士としてトラウマ(心の傷)の治療にたずさわってきました。トラウマは、災害や事故・事件などがもたらす特殊なものと思われがちですが、心に傷を負う出来事は日常生活にもたくさんあります。

 例えば、教師や上司から叱責される、親しい人に裏切られる、親から心ない言葉を言われるなど、傷つき体験もトラウマに含まれます。
 通常、私たちはつらい体験をしてもある程度時間がたてば、「終わったことだ」と乗り越えられます。脳が新しく体験したことを処理し、過去の記憶の1つに組み入れることで気持ちの整理がつくのです。

 ところが、体験が自分にとって強烈すぎたり、体や心が弱っていたりすると、脳はその体験(記憶)を処理できません。
 未処理の記憶は、体験時に感じた怒りや恐怖などと一緒に生々しさを保ったまま脳にとどまり続けます。

 つらい記憶をくり返し思い出すことで、心の傷はいっそう深くなります。当時の状況や感情、体の感覚を鮮明に再体験したり、動悸や過呼吸などさまざまな症状が生じたりするPTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こします。

「過去のネガティブな記憶」が「今」を辛くする

 脳が処理できなかった記憶は手強い相手です。なぜなら、「過去の記憶」に伴う恐怖や不安、嫌悪などネガティブな感情、体に感じた不快な感覚が心や体をしばり「今の生活」、とりわけ人間関係のあり方に影響を及ぼすからです。

 小学生のとき、いじめにあったとします。いじめの体験を何度も思い出すと記憶の回路が強化され、つらさを体の神経が記憶します。
 すると大人になり、職場の飲み会などに参加したときなどに、いじめを記憶している神経が反応して緊張します。「同僚と楽しく話そう」と頭ではわかっていても言葉が出ない、顔が引きつるなど体がいうことを聞かないといった事態になります。

人間関係の不調は、性格のせいではなくトラウマが原因の可能性

 この例のみならず、人と接するなかで、頭ではわかっているのに自分をコントロールすることができないという経験は、誰しもあるのではないでしょうか。
 例えば、人と一緒にいると顔色ばかり気にして落ち着かない、相手の言動にカッとなりキレる、上司から否定的なことを言われると落ち込んで仕事が手につかない……。

 人間関係がうまくいかないと、性格が悪いせいとか、コミュニケーション能力が低いせいと自分を責めてしまいます。しかし、性格や能力ではなく、トラウマ体験を記憶している「神経系の反応が原因」とわかると気持ちも楽になるでしょう。

 人間にはもともと「耐性の窓」と呼ばれるストレスを許容できる範囲があり、神経はこの窓の枠のなかで上下に波打っているといわれています。
 神経がどの位置で波打っているかで、ストレスへの許容度がわかります。神経系のバランスが安定している人は、窓の真ん中で神経が一定のリズムで上下しており、ストレスを感じてもうまく対処できます。

 窓の上は神経の活性度が上がった興奮状態で、怒りやイライラが生じます。逆に窓の下にいきすぎると、うつ状態になります。PTSDを抱えていると、神経が過敏になっているので波は上にいきます。この状態では対人関係でもピリピリしてトラブルが起こりやすくなります。

 ストレスの許容度は、窓の幅が広いほど高くなり、狭いほど低くなります。子どものときに虐待を受けた人は幅が狭く、ストレスに強く反応します。

「愛着のタイプ」を知れば 不安軽減の手助けになる

 自分の耐性の窓がどのようになっているのかを知る手掛かりとなるのが「愛着」のタイプです。愛着とは親と子どもの間に作られる絆です。

 赤ちゃんが「ミルクが欲しい」と泣いて要求を伝えると、親はミルクを与えます。こうした親子の相互関係を通して子どもに、「自分は安全だ。大切にされていて自分には価値がある」という感覚が生まれます。

 乳幼児期に作られた愛着は、大人になってからの対人関係の持ち方や、ストレスを許容できる幅にも影響を与えます。
 愛着は大きく4つのタイプに分かれます。「愛着タイプ」から自分のタイプをチェックしてみましょう。自分のことをより深く理解できるようになり、不安を軽減する助けとなります。

 ご自身の神経の波のパターンから、ストレスの許容度が低いとわかっても、心配はいりません。
 次項で紹介する「合谷タッピング」は、トラウマや恐怖を軽減し、耐性の窓を広げてストレスの許容度を高める効果があります。心が安定するので、人とのコミュニケーションも取りやすくなるでしょう。

あなたはどのタイプ? 愛着の4タイプ

手のツボ「合谷」がもたらす効果

 「合谷タッピング」は、私がトラウマ治療で開発した「ボディ・コネクト・セラピー」をベースに考案した手法で、不安や恐怖、緊張を消去する効果に優れています。

 ボディ・コネクト・セラピーは、「体から心に働きかける」身体志向の心理療法であり、目の動きや体へのタッピングやタッチ、東洋医学のツボなどを用いて効果を上げています。

 合谷タッピングのやり方は簡単です。ストレスや不安、恐怖などを感じたときに、人さし指と中指の2本の指の腹で、「合谷」のツボを、心地よい強さでトントンとたたくだけなのです。
 単純な動作ですから、不安や恐怖で心に余裕がないとき、体が緊張でこわばっているときでも行うことができます。

 合谷への刺激がもたらす効果については、国内外で研究されています。中でも私が注目したのは、合谷を1分間以上、刺激することにより、脳の血流量が上昇するという研究です。

 人間が不安やストレスを感じたとき、情動や感情を司る脳の「扁桃体」が過剰に興奮します。PTSDを抱えている人の場合、扁桃体が興奮すると、トラウマ(心の傷)体験や恐怖の消去にかかわる脳の前部帯状回の血流が悪くなるといわれています。

 合谷を刺激し、前部帯状回をはじめとする脳全体の血流量を増やすことにより、トラウマや恐怖の消去につながると私は考えています。合谷への刺激は、扁桃体の過度な興奮を抑え、ストレスを許容する幅を広げ、心を安定させる効果もあります。

合谷の探し方と、合谷タッピングのやり方

心の傷を消す音楽CDブック視聴

【好評】藤本昌樹著『心の傷を消す音楽CDブック』(聴くだけで不安・心配・悲観がなくなる)

 パニック障害に悩んでいる239人に、合谷タッピングを試していただきました。その結果、「とても効果を感じた 35人/14・64%」「まあまあ効果を感じた 108人/45・19%」と約6割の人が以下のような効果を実感しています。

・気持ちが落ち着いた
・イライラが消えた
・不安や恐怖が和らいだ
・緊張が解けた
・心が軽くなった
・体の力が抜けて、呼吸が楽になった
・胸につかえていたモヤモヤがなくなった
・眠くなった

 合谷タッピングを行うときには、自分が好きな風景、楽しい思い出、成功体験、家族や友だち、好きなアニメのキャラクターなど、安心・安全を感じられるイメージを思い浮かべるとなおいいでしょう。

 そんなイメージとつながることで、ポジティブな記憶がどんどん目覚め、忘れていた幸せな出来事がよみがえったり、自分の可能性や強さに気がついたりして、つらい過去を乗り越える力がつきます。

 私の近著『心の傷を消す音楽CD』には、脳に直接働きかけて心の傷を消す9曲の「ボディ・コネクト・サウンド」が収録されています。
 下のリンクから試聴することができます。心当たりのある方は、ぜひ一度お試しください。

 ボディ・コネクト・サウンドは、耳(聴覚)からアプローチして、心の傷を消します。
 収録曲をよく聴くと、音の左右への揺れを感じられると思います。この揺れが右脳と左脳を交互に刺激し、脳のバランスを整え記憶の再処理を進めるのです。
 音楽を聴くうちに心も体もリラックスして、不安やイライラが軽くなっていくのを体感できることでしょう。特に鈴虫の声が背景に入った音楽は、効果を感じられると思います。

 心の傷から解放され、よりよく生きる一助として音楽の活用もお勧めします。

解説者のプロフィール

藤本昌樹(ふじもと・まさき)
東京未来大学こども心理学部准教授・臨床心理士。
 1973年、東京都生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科心理学講座修了。東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士後期課程修了。静岡福祉大学准教授、桐生大学准教授を経て、現職。社会福祉士、精神保健福祉士。トラウマケア専門カウンセリングルームSeeding Resource代表。nico株式会社エグゼクティブアドバイザー。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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