つらいのは「周囲の無理解」
耳鳴りのつらさは、なった人でなければわかりません。
それは、ただうるさいとか、わずらわしいというだけでなく、人や社会とのコミュニケーションを阻害するからです。
それが高じると、うつ状態や引きこもりになってしまうこともあります。
また、患者さんをさらに苦しめるのが、周囲の無理解です。
耳鳴りのつらさは家族にも理解されず、「気のせい」「耳鳴りで死ぬことはない」などという周囲の言葉が、患者さんを傷つけます。
医者ですら、「治りません。うまくつきあっていくしかないですね」と、さじを投げている状況です。
私は、そういう行き場を失った患者さんの悩みを目の当たりにして、耳鳴りの治療をライフワークにしようと考えるようになりました。
耳鳴りはなぜ起こるのか
さて、耳鳴りはなぜ起こるのでしょうか。
このメカニズムを知ると、それだけで耳鳴りは軽くなります。
私たちが聞いている音は、空気の振動です。
振動は外耳道、中耳を伝わり、内耳で電気信号に変わります。
そこから聴神経、脳幹を経て、大脳の聴覚野で初めて音として認識されます(下の図参照)。
そのどこかに異変が生じると、耳鳴りが始まります。
いちばん多いのは、内耳の障害です。
内耳にある蝸牛という器官には、3500個もの微細な細胞がびっしり並んでいます。
そこで有毛細胞が膜とこすれ合って空気振動を電気信号に変えるのですが、その摩擦音が異常に強く聞こえると、耳鳴りとなり耳の中で響くのです。
ではなぜ、異常な摩擦音が聞こえてしまうのでしょうか。
そこには、内耳の血流が深く関係しています。
音が聞こえる仕組み

耳鳴りの正体は内耳で生じる摩擦音
内耳の血管は、「血管条」と呼ばれる非常に微細な網のような血管で、わずかなことで血流が滞ったり、途絶えてしまったりすることがあります。
すると内耳が正常に働かなくなり、有毛細胞の摩擦音を強く感じてしまうのです。
また血流が悪くなると、有毛細胞に栄養や酸素が届かず、有毛細胞自体も変性してしまいます。
それによって異常な摩擦音が作り出されてしまいます。
こうしたことは特別な人に起こるわけではなく、聴覚の機能を持っている人なら誰の耳でも起こっています。
耳が聞こえるということは、耳鳴りもあるということで、どんな人にも耳鳴りはあるのです。
では、耳鳴りがある人とない人がいるのは、なぜなのでしょうか。
そこには、脳が関係しています。
頭の中で音が鳴るような 「頭鳴り」もある
内耳で電気信号に変換された音は、脳幹を通って大脳の聴覚野に届きます。
その途中の大脳辺縁系にある、ストレスを感じる「扁桃体」、記憶が関係する「海馬 」の感じ方が、人によって違うのです。
日本人は虫の声を風流な音色として聞きわけますが、外国の人にはただの雑音にしか聞こえません。
それは、脳での音の捉え方が違うからです。
耳鳴りも、そうです。
にぎやかなパーティの席では、耳鳴りは気になりませんが、一人になって周りが静かになると、急に耳の中で音が鳴り出します。
耳鳴りの音が急に大きくなったのではありません。
ずっと耳鳴りはあるのですが、脳での認知が違うために耳鳴りが聞こえたり、聞こえなかったりするのです。
だから、耳鳴りはやっかいなのです。
耳鳴りの中には、脳の血流不足や脳の過敏状態などによって起こる「頭鳴り」もあります。
内耳性の耳鳴りに比べると非常に少ないですが、頭の中で音が鳴るように感じたら、頭鳴りの可能性があります。
耳鳴りにしても頭鳴りにしても、気にすればするほど、脳が音を大きく感知してしまいます。
ですから、気持ちの持ち方はとても大事です。
耳鳴りがあっても「耳が聞こえている証拠」くらいの、おおらかな気持ちでいると、だいぶ違ってくるはずです。
しかし、耳鳴りは慢性化するほど治りにくくなりますから、耳鳴りを感じたら、なるべく早く適切な対処をする必要があります。
特に頭鳴りは、脳腫瘍などの病気が隠れていることがあるので、注意してください。
耳鳴りを理解し、耳鳴りを起こさない生活を身に付ければ、最大9割まで音を小さくできます。
ですから、決してあきらめないでください。
解説者のプロフィール

坂田英明(さかた・ひであき)
●川越耳科学研究所クリニック
埼玉県川越市脇田町103
川越マイン・メディカルセンター川越2階
TEL 049-226-3387
http://www.jikagaku.jp/
川越耳科学研究所クリニック院長。
1988年、埼玉医科大学卒業。
ドイツ・マグデブルグ大学耳鼻咽喉科研究員、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科副部長、目白大学教授等を経て2015年より現職。
専門はめまい、耳鳴り、難聴、イビキ、睡眠時無呼吸。