解説者のプロフィール

工藤千秋(くどう・ちあき)
くどうちあき脳神経外科クリニック院長。
1958年、長野県生まれ。東京脳脊髄研究所所長。臨床脳電位研究会事務局長。日本脳神経外科学会専門医。英国バーミンガム大学、労働福祉事業団東京労災病院脳神経外科、鹿児島市立病院脳疾患救急救命センター脳神経外科などを経て、2001年にくどうちあき脳神経外科クリニックを開設。漢方やアロマセラピーなど各種補完療法も導入しながら、脳疾患はもちろん、認知症やパーキンソン病、痛みの治療にも情熱を傾ける。著書に『脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング』(サンマーク出版刊、1300円+税)などがある。
●くどうちあき脳神経外科クリニック
東京都大田区大森北1-23-10
TEL 03-5767-0226
http://www.kudohchiaki.com/
神経の老化があらゆる病気の元凶だった
●昔よりも字が下手になった
●段差も何もないところでつまずきやすくなった
●食べこぼしが多くなった
●しびれや震えが起こる
このような変化に心当たりのある人は要注意です。あなたの末梢神経は、かなり老化しているかもしれません。末梢神経は脳と体の末端をつなぎ、指令や情報を伝える働きをしています。(以下、「神経」と略して表記する)。
私は脳神経外科医として、これまでに延べ39万人に上る患者さんを診てきました。その経験から、神経は命をつなぐ生命線だと考えています。頭痛、腰痛、耳鳴りから高血圧や便秘まで、あらゆる病気や体の不調の元凶は、「神経の老化」だと言っても過言ではありません。
この万病のもとである神経の老化を食い止め、若返らせる方法として、私が5年ほど前から、患者さんに勧めているのが「顔もみ」です。

神経の大半が顔と指に集中している
下の図を見てください。これは、カナダの脳神経外科医、ワイルダー・ペンフィールドが描いた「ペンフィールドのホムンクルス」という有名な図です。
この図は、脳のどの部分が体のどこの筋肉に指令を出しているか(運動野)、脳のどの部分が体のどこからの刺激を受け取っているか(感覚野)を表しています。
大きく描かれた部位ほど、たくさんの神経が集中していることを意味します。顔や舌、歯ぐき、くちびる、そして手(特に指先)が大きく描かれていることから、たくさんの神経が集中していることがわかります。
指先を使って顔を刺激するという顔もみの動作は、脳とそこにつながる神経を効率よく刺激することができるのです。

神経は体の電線停電で機能不全を起こす
最初に、私は「神経こそ生命線だ」と言いました。
神経が老化すると、脳が適切な指令を臓器や筋肉などに送っていても、その指令がきちんと届かなかったりエラーが出たりします。また、脳が判断するために欠かせない、末端からの情報も得られません。
必要に応じて血管を拡張・収縮させて、血流をコントロールしているのも神経(自律神経)です。神経がしっかりと働いていなければ、血液や酸素も内臓に送られなくなり、正常な機能を維持できなくなるのです。
これは、人間の体を一つの町にたとえて説明すると、わかりやすいでしょう。
下の図を見てください。
●神経=電線
●脳=発電所
●血管=水道
●内臓・筋肉=家庭
に当たります。
発電所(脳)でどんなに電気(指令・情報)を作り出していても、途中で電線(神経)が切れていたら、電気は家庭(内臓・筋肉)にまで届きません。
また、一見、電線(神経)と関係ないように思われる水道(血管)も、給水コントロールには電気が必要なので、停電時には使えなくなります。
電気(指令・情報)も水(血液・酸素)も使えなくなった家庭(内臓・筋肉)は、大混乱に陥り、生活ができなくなってしまうのです。

はがれたカバーを巻き直せば神経が若返る

神経は、その構造も電線と似ています。
電線の本体(金属線)に当たる「軸索」には、シュワン細胞という細胞が巻きつき、カバーのような電気を通さない膜を作っています。この膜を「ミエリン」と呼びます。
軸索にはミエリンの途切れたすき間があり、神経を流れる電気信号は、ミエリンのすき間からすき間へとポンポンと跳ぶようにして伝わります。ちょうど飛び石を渡るように見えるので「跳躍伝導」と呼ばれています。
ところが、ミエリンが軸索からはがれたり溶けたりすると、電気信号の適切な跳躍ができなくなります。すると、信号が伝わらなくなったり、伝わる速度が極めて遅くなったり、不要なところに送られてしまうことになって、さまざまな不調が起こるのです。これが、万病のもととなる神経の老化です。
ミエリンが損傷する原因として、加齢やストレス、悪い姿勢からくる血行不良による酸素不足などがあります。
通常、ミエリンが損傷した場合には、シュワン細胞が適宜巻き直して、メンテナンスをしています。ところが、あまり使っていない神経回路だと、修繕が後回しにされてしまうのです。
ミエリンを巻き直すには、その神経をよく使い、血液を集めて、シュワン細胞にじゅうぶんな酸素と栄養を送り込むことが重要です。
顔もみを行うと、脳内の酸素化ヘモグロビン濃度が平常時の2・33倍に上がることが、実験で確認されています。ヘモグロビンは、酸素を運ぶ役割を担う血液の成分の一つです。
神経の大半を占める顔と指の神経回路をよく使い、酸素をじゅうぶんに補給するという、はがれたミエリンを巻き直すための条件を最も簡単に満たすのが、顔もみなのです。
顔もみは、やればやるほど神経が若返ります。例えば顔を洗った後は必ず顔もみを行うというように、毎日の習慣の中にぜひ取り入れてください。
即効性もあり、首のこりや目の疲れ、頭重感を訴えていた患者さんが、顔もみをやったその場で「こりがらくになりました」「目がスッキリして軽く感じます」とうれしそうにおっしゃることもよくあります。
顔もみは年齢・性別を問わず、どなたにもお勧めできる健康法ですが、三叉神経痛と診断された人と、顔に傷や炎症がある場合は避けてください。

神経を若返らせる「顔もみ」のやり方

次の記事では、神経の老化が引き起こす症状について詳しく説明しましょう。