解説者のプロフィール

泰江慎太郎
銀座泰江内科クリニック院長。
三重大学医学部医学科卒業。
京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。
京都大学医学部附属病院などを経て、2012年、銀座泰江内科クリニックを開院。
合併しやすい糖尿病と心臓病(循環器)を包括的に診療するため、日本糖尿病学会と日本循環器学会の二つの分野で専門医資格を取得。
●銀座泰江内科クリニック
https://www.ginza-ys-clinic.com/
改善のカギは抗酸化物質とアディポネクチン
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)をうまくエネルギーとして利用できなくなり、血管などが障害される病気です。
糖尿病の患者さんは、国内で約1000万人。糖尿病の可能性がある予備軍まで含めると、成人男女の約4人に1人が糖尿病だと推計されています。
私は糖尿病の専門医として、1日の摂取糖質量を150g以内に抑える糖質制限食の実践に加え、トマトとみそを積極的にとることを勧めていて、ヘモグロビンA1c(1~2カ月以内の血糖状態を示す指標)の改善に高い効果を上げています。
トマトジュースを常飲して、無理なく6㎏やせ、ヘモグロビンA1cが7.1%から5.9%に下がった(正常値は6.5%未満)50代男性など、改善例が多数います。
というのも、糖尿病の改善には、
①血糖値を急激に上げる糖質をとりすぎないようにする
②活性酸素の害をおさえる抗酸化物質をしっかりとる
③「アディポネクチン」というホルモンを増やす
の三つが、非常に重要だからです。
まずは糖尿病の仕組みから、その理由を説明しましょう。
食物から摂取した糖質は、消化吸収によって、ブドウ糖へと分解され、血液に乗って全身の細胞に送られます。糖質とは、砂糖や果物など、甘いもののほか、米や小麦、イモ類、トウモロコシなど、いわゆる主食にしてきた食べ物に多く含まれる成分です。
この血液中のブドウ糖を、筋肉などの細胞が取り込んで、エネルギーとして消費することで、血糖値は一定に保たれています。血糖を細胞に取り込ませる働きをしているのが、膵臓が分泌する「インスリン」というホルモンです。
ところが、血糖が高い状態が慢性的に続くと、細胞内に取り込める血糖の量には限りがありますし、インスリンの邪魔をするホルモンも増えてきます。そのため、インスリンが分泌されても反応が悪くなって、血糖を取り込みきれなくなります。
インスリンを分泌しても、血糖が取り込まれない状況で、膵臓はさらにインスリンを分泌して対応しようとしますが、しだいに疲弊してきます。
そして、インスリンの分泌が減る→血糖を取り込む反応が悪くなる→さらに分泌が減る……という悪循環に陥るのです。
また、血糖値が高い状態が続くと、大量の活性酸素が発生します。活性酸素は、自分の細胞や組織、内臓を攻撃して、傷つけます。
血液中に血糖が多い状態では、血管の細胞が大量の活性酸素の攻撃を受けて、傷だらけになります。その傷を修復するためにコレステロールが集まって、血管が厚く硬くなっていき、どんどん動脈硬化が進んでいきます。
その結果、目の毛細血管が詰まる糖尿病網膜症、腎臓の血管が詰まって体内の老廃物をろ過できなくなる糖尿病腎症、心筋梗塞など、さまざまな合併症が起こってくるのです。

トマトのリコピンとみそのメラノイジンが強力な抗酸化作用で血管を傷つける活性酸素を撃退!
リコピンはビタミンEの100倍の抗酸化作用
そこで、ぜひ活用したいのが、夏野菜の代表格であるトマトと、優れた発酵食品であるみそです。
トマトの特長でもある鮮やかな赤色は、「リコピン」という強力な抗酸化物質です。
トマトにはβカロテン、ビタミンC、Eなどの抗酸化ビタミンも豊富ですが、リコピンはβカロテンの2倍、ビタミンEの100倍以上もの抗酸化作用を持つといわれています。
リコピンは赤色色素なので、生食用の一般的なトマトよりも、ミニトマトや加熱調理用(水煮缶)、トマトジュース、ケチャップなどによく用いられる赤色系トマトに多く含まれています。
リコピンの1日摂取目標である15㎎をとるには、一般的な生食用トマトなら3~4個、ミニトマトなら10~12個、トマトジュースならコップ1杯、ケチャップなら大さじ4が目安です。
一方、みそに含まれるのが、大豆が発酵・熟成される過程で生み出される褐色色素である「メラノイジン」です。八丁みそ(豆みそ)のように褐色の濃いみそほど、メラノイジンが多く含まれています。
こちらも強い抗酸化力を持つだけでなく、食物繊維のように糖の吸収スピードを抑えるように働いて、食後に急激に血糖値が上がるのを防いだり、インスリンの分泌を促進する働きがあります。
トマトとみそに含まれるこれらの抗酸化物質が、活性酸素を消去し、インスリンの効きをよくし、合併症につながる動脈硬化を防いでくれるのです。
脂肪代謝を促進して内臓脂肪を減らす

アディポネクチンが増えると肝臓、膵臓、筋肉で糖尿病の改善に役立つ
トマトとみそが、糖尿病改善に役立つ理由の三つめが「アディポネクチン」を増やす作用です。アディポネクチンは、別名「長寿ホルモン」「やせホルモン」などとも呼ばれる、ホルモンです。
アディポネクチンは、脂肪燃焼を促しながら、肝臓での糖新生(インスリン不足のため、肝臓から糖を作り出すこと)を抑制し、筋肉細胞への糖の取り込みを促し、膵臓ではインスリンの分泌を促すという、糖尿病の改善に非常に重要な働きを持っています。
また、脂肪代謝を促進して内臓脂肪を減らし、善玉コレステロール(HDL)を増やしたり、炎症を抑え、傷ついた血管を修復・拡張して血流をよくしたりするなどの幅広い働きがあります。そのため、高血圧、動脈硬化、脂肪肝、肥満などにも改善効果が期待できます。
このアディポネクチンを増やす働きが、トマトに含まれる「リコピン」と、みそに含まれる大豆たんぱくの一種である「β‐コングリシニン」という成分で、確認されているのです。
このようにトマトとみそを合わせた「トマトみそ」は、まさに糖尿病の予防改善にぴったりの組み合わせだと言えるでしょう。
また、トマトのうま味成分である「グルタミン酸」の働きでうま味が増し、自然な減塩ができることから、高血圧のかたにもお勧めできます。
リコピンやメラノイジンは熱に強く、加熱しても効果は落ちません。さまざまな料理に活用して、毎日、継続的にとり続けることが大切です。