解説者のプロフィール

板倉弘重(いたくら・ひろしげ)
●品川イーストワンメディカルクリニック
東京都港区港南2丁目16-1 品川イーストワンタワー3階
03-6718-2898
品川イーストワンメディカルクリニック理事長・医師。医学博士。
1961年、東京大学医学部卒。同 第三内科講師、国立健康・栄養研究所臨床栄養部長、茨城キリスト教大学生活科学部食物健康科学科教授などを歴任。主な研究分野は、脂質代謝、動脈硬化、抗酸化物質。特に、赤ワイン、ココアのポリフェノールの抗酸化作用を明らかにした研究が有名。『あなたの血糖値はなぜ下がらないのか』(PHP出版)など著書も多い。
「ブドウ」には健康寿命を伸ばすと期待の成分がたっぷり
「赤ワインをよく飲むフランス人は、心臓病が少ない」皆さんも、こんな話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
赤ワインの健康効果は、以前から注目され、多くの研究がなされてきました。
その結果、赤ワインの原料であるブドウの成分が、その効果の源であることがわかってきています。
とはいえ、赤ワインはお酒です。
いくら体にいいとはいっても、飲み過ぎは逆効果ですし、お酒を飲めない人もたくさんいらっしゃいます。
そこでお勧めしたいのが、今回ご紹介する「干しブドウ酢」です。
干しブドウ酢は、干しブドウを酢に漬けて作るものです。
簡単に作れておいしく、アルコールを含まないので、どんな人でも食べることができ、赤ワインにも勝る健康効果が期待できます。
「干しブドウ酢」の作り方は、↓の記事で詳しく紹介されています。
ブドウの皮に含まれる「レスベラトロール」の高い抗酸化作用
そもそも、赤ワインに豊富な健康成分として、特に注目されたのは、ポリフェノールの一種である「レスベラトロール」です。
レスベラトロールには、数あるポリフェノールの中でも高い抗酸化作用(有害な活性酸素を消去する作用)があり、ほかにも多彩な働きを持っています。
レスベラトロールは、ブドウの皮に豊富に含まれます。
干しブドウは、ブドウを皮付きのまま乾燥させたものなので、レスベラトロールを無駄なく取ることができるのです。
さらに、後述するとおり、干しブドウを酢に漬けることで、より健康効果が高まります。
レスベラトロールの主な働き
まずは、レスベラトロールの主な働きをご紹介しましょう。
レスベラトロールの働きは、『サイエンス』や『ネイチャー』などの世界的な科学雑誌に掲載され、学術的に明らかにされています。
それによると、レスベラトロールには、ガンの予防効果、糖尿病の予防・改善効果、体温を上げる効果などが認められています。
ガンの予防効果は、レスベラトロールの高い抗酸化作用によるものと考えられます。
また、レスベラトロールには、細胞内のミトコンドリアの機能を高める働きがあります。
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギー産生工場の役目をしている器官で、その機能が高まると、体のエネルギー代謝がよくなります。
動物実験では、筋肉が弱ったネズミにレスベラトロールを与え、筋肉細胞を電子顕微鏡で見たところ、細胞が元気になり、ミトコンドリアも大きくなったことが確認されています。
体内でブドウ糖を取り込んでエネルギーに変える最も大きな器官は筋肉です。
ですから、レスベラトロールで筋肉がしっかりした結果、血糖値が下がり、糖尿病の予防・改善効果につながったと考察されています。
また、エネルギー代謝が高まると、体温も上がります。
このことが、冷え症の改善にもつながると考えられています。
同時に、レスベラトロールには、長寿遺伝子であるサーチュイン遺伝子を活性化する働きもあることが確かめられています。
そのため、レスベラトロールは、健康寿命(寝たきりなどにならず、元気で過ごせる期間)を伸ばす切り札になるのではないかと期待されています。
レスベラトロールを効率よく摂取できる食べ物が「干しブドウ」
こうした数々の健康効果を持つレスベラトロールを、効率よく摂取できるのが、干しブドウです。
さらに干しブドウには、血圧の上昇を抑えるカリウム、ダイエットや便秘改善作用などを持つ食物繊維なども豊富です。
干しブドウの主な成分

「干しブドウ酢」は血糖値を上げない食べ物
その干しブドウを酢に漬けると、ふっくら軟らかくなって食べやすくなるうえ、酢の健康効果も加わります。
酢に豊富な酢酸やクエン酸には、高血圧を防ぎ、血管の内皮細胞(血管の最も内側にある細胞)の機能を高めて動脈硬化を防ぐ働きがあります。
さらに、エネルギー代謝をよくする作用、腸内環境を整える作用、消化・吸収を促す作用などもあり、干しブドウとともに取ると、さまざまな面での相乗効果が期待できます。
1日に取る干しブドウ酢は、10〜20粒程度を目安にするとよいでしょう。
干しブドウは甘味の強い食品ですが、主な糖分は果糖とブドウ糖で、そのうちの果糖は、血糖値を上げにくい甘味成分です。
しかも食物繊維が豊富なので、さらに血糖値の急激な上昇を防ぎます。
実際に、干しブドウのGI値(グリセミックインデックス・血糖値の上げ方の指標となる数値)は57と、低めのカテゴリーに位置づけられています。
加えて、酢にも血糖値の上昇をゆるやかにする作用があるので、干しブドウ酢は、甘くても血糖値を急に上げない、体にやさしい食品といえます。
ですから、糖尿病で血糖値が気になる人や、ダイエットでエネルギー制限をしている人でも、摂取可能なエネルギーの範囲内で食べる限りは問題ありません。
デザートや間食の代わりに、干しブドウ酢を食べるようにすれば、なおよいでしょう。
干しブドウ酢は、生活習慣病やダイエット、便秘対策などに、大いに役立つ食品です。
多くの人に活用していただきたいと思います。
ただし、腎臓病でカリウム摂取量を制限されている人は、主治医に相談の上でご利用ください。