こっそり一人で治せる!
尿もれや頻尿に悩んでいる人は、非常に多くなっています。日本では40代以上の女性のうち、3人に1人は尿もれを経験しており、その数は500万人から800万人にも上ると推定されています。
中高年の女性にとって、尿もれは、よくあるトラブルといってよいでしょう。
また、寒くなってくると男女を問わず、頻尿が気になる人が増えます。これは、汗をかく量が減って尿量が増えることと、寒冷反射により膀胱が閉まり、膀胱に十分な量の尿がたまらないうちにトイレに行きたくなることも関係しています。
男性の頻尿は60代以上に多く、前立腺肥大が影響しているケースが大半です。女性の頻尿は、尿もれと同様、更年期以上の中年~高齢者に多く、尿もれと頻尿を併発している人も多く見られます。
健康な人の排尿回数は1日8回以下(2時間に1回程度)とされており、就寝中に1回以上(50歳以上では2回以上)トイレに起きる場合は、夜間頻尿と診断されます。
尿もれや頻尿は、特別な場合を除いて放置しておいても命にかかわる病気ではありません。しかし、外出や人と会うことがおっくうになって行動範囲や人間関係が狭くなったり、尿もれや頻尿を気に病んでうつ状態になったりして、日常生活を不自由な、暗いものにしてしまいます。尿もれや頻尿は、「生活の質」を落としてしまうトラブルといえます。
誰にも話せず悩んでいる人が多い
尿に関するトラブルは、恥ずかしくてなかなか他人には打ち明けにくいことです。医療機関にかかるのをためらわれる人も多いでしょう。その気持ちは、よくわかります。
私は泌尿器科の診療所を開設し、排尿トラブルに悩む患者さんたちの治療にあたっていますが、長年にわたり尿もれや頻尿の症状がありながら、人に知られるのを恐れて、誰にも話せずに一人でずっと悩んできた人が多いのです。「年のせいだからしかたがない」と、あきらめている人も少なくないでしょう。
しかし尿もれの多くは、骨盤底筋体操と呼ばれるごく簡単な体操を行うことで、自分で改善することができます。医療機関にかかることなく、自宅でこっそり、誰にも知られずに治すことができるので、骨盤底筋体操を習慣にして、一人でも多くの人が尿もれの悩みから解放されることを願っています。
腹圧性尿失禁と過活動膀胱、混合性尿失禁の違い
とはいえ、尿もれや頻尿の原因はさまざまです。タイプによっては、医療機関にかかったほうがよい場合もあります。そこで、まずは、自分の尿もれがどのタイプにあたるのか、チャートで自己診断してみましょう。
診断結果に記した尿もれの各タイプについて、簡単に説明しておきます。
「腹圧性尿失禁」は、セキやくしゃみ、笑う、立ち上がるなど、おなかに力が加わる(腹圧がかかる)と尿がもれるのが、大きな特徴です。出産後や、40代以上の女性の尿もれに多いのが、このタイプです。
「過活動膀胱」は、何らかの原因で膀胱が過敏になり、急に切迫した尿意を感じて頻繁にトイレに駆け込みます。トイレまでがまんできずに尿をもらしてしまう「ウェットタイプ」(切迫性尿失禁)と、排尿回数が増えて頻尿になる「ドライタイプ」に分けられます。
「混合性尿失禁」は、腹圧性尿失禁と過活動膀胱を併発し、両方の症状が現れます。
また、泌尿器系以外の病気やケガが原因で起こる尿失禁もあります。「溢流性尿失禁」は、糖尿病や男性なら前立腺肥大症の影響が大半です。
「反射性尿失禁」は、脊椎のケガや病気が原因で起こることが多く、「機能性尿失禁」は、脳血管障害の後遺症として現れるほか、認知症の人にもよく見られます。これらの尿失禁は、原因となる病気を治さない限り、改善が難しくなります。
特殊なタイプの尿失禁として、膀胱に尿をためる力がないために起こる「全尿失禁」や、尿道以外の臓器に尿がもれる「尿道外尿失禁」などもあります。これらも、医療機関で治療しないと改善は困難です。
このほか、血尿が出る、尿のにおいがきつくなる、尿もれが突然始まったといった場合は、医療機関で診察を受けることをお勧めします。
中高年の女性の尿もれや頻尿の大多数は、腹圧性尿失禁、過活動膀胱、混合性尿失禁のいずれかです。これらのタイプの尿失禁は、膀胱を支え、尿道や肛門を締めるときに働く骨盤底筋と呼ばれる筋肉群の衰えが、深く関係しています。
骨盤底筋体操は、加齢とともに衰えた骨盤底筋を鍛える体操なので、これらのタイプの尿失禁の改善に効果があるのです。
あなたの尿もれタイプがわかる「自己診断チャート」

オナラをがまんするのと同じくらいの力でよい
骨盤底筋体操は簡単な体操ですが、コツがうまくつかめない人もいます。骨盤底筋に力を入れる感覚がよくわからない人は、排尿時におしっこを途中で止めてみてください。尿が出るのを止めたり、オナラをがまんしたりするのと同じ力の入れ方で行うのがコツです。
3週間くらいで効果を実感し、3ヵ月くらい続けると尿もれが改善する人が多いようです。尿失禁体操を毎日の習慣にして、あせらずコツコツと続けていただきたいと思います。
解説者のプロフィール

楠山弘之
1954年、静岡県生まれ。埼玉医科大学卒業。癌研究会付属病院医員、埼玉医科大学泌尿器科講師を経て1991年より現職。著書に『尿トラブルは自宅で治せる』(東洋経済新報社)等がある。