のどの筋肉低下が誤嚥リスクを高める
私たちの体の筋肉は、何もしなければ年とともに必ず衰えます。
わかりやすいのはお尻の筋肉で、鍛えていないと衰えて、垂れは一目瞭然です。
「のどの筋肉」にも同じことがいえます。
これはお尻のように大きくないので目立ちませんが、年々、垂れています。
のどの筋肉は、あごから宙づりにされたような構造で不安定なため、少しでも筋力が衰えると、引力に負けてどんどん下がってしまいます。
特に60代を過ぎると、のど仏の位置が急激に下がり始めます。
しかし、その始まりは40代で、友人、家族、そして本人も気づかないうちにジワジワ下がり始めているのです。
目安として、のど仏がのどのまん中より下になってきたら要注意。
それは、「のどの筋力」の低下を示し、「誤嚥」のリスクが高まっています。
一般的にのど仏は、若いころにはのどのまん中より上にありますが、加齢とともに次第に下がってきます。
なぜなら、喉頭を引っ張りあげる筋肉が、お尻と同じく、たるんで下がるからです。
当然、それについているのど仏も、一緒に下がります。
可能なら40代から、40代以降の方は気がついたときから、垂れ下がったのどの筋力を鍛えることが大切です。
それが誤嚥予防、ひいては日本人の死因第3位の肺炎の予防につながります。
のどの筋肉を鍛える3つの心がけ
のどの筋肉を鍛えるといっても、難しいことは何もありません。
日ごろ、私が患者さんたちにお勧めしているのは、日常生活の中で、次の三つを心がけることです。
①カラオケ
②おしゃべり
③笑うこと
この三つはどれも大きな声を出すため、のどの筋肉に程よい負荷をかけられます。
声を出す筋肉は、嚥下(飲み込み)とほぼ同じ筋肉を使うのです。
大きな声で歌ったりしゃべったりしていると、のど仏が盛んに上下することからもわかるでしょう。
普段からしっかり声を出すように心がけていると、そのまま飲み込み力のトレーニングにつながるのです。
ですから、ぜひ、カラオケで思い切り歌ったり、家族や友人と楽しくしゃべったり、笑ったりしていただきたいと思います。
大きめの声で音読するのも効果的です。
ただし、食事しながらのおしゃべりはお勧めしません。
会話が弾んだ拍子に誤嚥する危険性もあるからです。
食事中は食事、会話中は会話に集中することも、大切な誤嚥予防になります。
こうした日常生活の心がけ以外にも、次のような簡単な運動で、のどのトレーニングができます。
行うのはいつでもけっこうですが、食事の前に行うと、習慣づけやすいうえ、誤嚥予防の効果が高まります。
おでこ体操のやり方
一方の手で額を上方に押しながら、それに対抗してうなずく動作をしようとします。
おへそを覗き込む感じで頭を下げて、額と手で押し合い。
力を入れた状態を保ちます。
5秒間ほど保つことを5~10回くり返します。
体操をするのが面倒なときは、口をいっぱいに横に広げて、「イーーーーッ」と大きな声を出すだけでも効果的です。

男性は女性よりものどが衰えやすい!
男性のほうが、のど仏が目立つので、女性よりものど仏が下がりにくいように思われるかもしれませんが、実際はその逆です。
これには顕著な男女差がみられ、女性より男性のほうが、のど仏が下がりやすいのです。
つまり、男性のほうがのどの筋力が衰えやすく、それだけ誤嚥を招きやすいということです。
その医学的な根拠は見つかっていませんが、女性は井戸端会議や女子会などで日常的におしゃべりが多く、逆に男性には寡黙な人が多いことが影響していると推測できます。
ですから男性は、誤嚥予防のために日ごろからおしゃべり、カラオケ、お笑いを、もっと楽しむほうがいいかもしれません。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)との関係は?
誤嚥を防ぐには、食物の形態を工夫することも役立ちます。
誤嚥しにくいのは、適度な粘りけと軟らかさがあり、まとまりやすくべたつかないものです。
例えば、液体よりは、ゼリー状のほうが誤嚥しにくくなります。
これは、ゼリー状だとのどをゆっくり落ちるので、気管にフタをする動作が間に合いやすいからです。
なお、脳血管障害や認知症、神経・筋肉の病気なども誤嚥の原因となります。
これらがある場合は、治療と併行して誤嚥対策を行う必要があります。
ちなみに最近、睡眠時無呼吸症候群(SAS:睡眠中にいびきとともに短時間の無呼吸をくり返すもの)と誤嚥との関係が一部で話題になりましたが、両者が関係する症例は少ないというのが多くの専門家の意見です。
SASだからと、ことさら誤嚥を心配する必要はないでしょう。
とはいえ、SAS自体は治療を必要とします。
放置せずに医療機関を受診してください。
なお、誤嚥は全身状態とも深くかかわるので、防ぐには規則正しい生活や十分な栄養摂取、適度な全身運動なども心がけましょう。
解説者のプロフィール

西山耕一郎
西山耳鼻咽喉科医院院長。
1957年福島県生まれ横浜育ち。医療法人西山耳鼻咽喉科医院理事長。東海大学客員教授。北里大学医学部卒業。病棟医時代に「術後の誤嚥性肺炎の危険性」に気づき、嚥下治療を専門の一つにし、運動として、無意識のうちに行喉頭という部分が瞬間的にせり約30年間で1万人の嚥下治療患者を診療。
●西山耳鼻咽喉科医院
神奈川県横浜市南区中里1-11-19
TEL 045-715-5282
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