声帯は使わなければ衰える一方
「音痴の人は誤嚥性肺炎になりやすい」まさかと思うかもしれませんが、本当の話です。
私は5000人以上の音痴を矯正してきた歌の専門家であり、音痴矯正トレーナーです。
音痴の人は「歌なんて歌う必要なんてないから、このままでいいじゃないか」と、思うかもしれません。
しかし、冒頭で述べたように、その油断が誤嚥性肺炎のリスクを高めます。
それはなぜか?まず、のどの構造からおさらいしましょう。
のどには、食道と気管という、二つの管が並んで位置しています。
入ってきた空気や食物は、のどで、食物は食道、空気は気管と振り分けられます。
その振り分けを担っているのが、のどの中にある喉頭蓋と声帯です。
食物を飲み込むときは、喉頭蓋が倒れて気管をおおいます。
さらに喉頭蓋の下にある声帯がぴたっと閉じて、気管に異物が混入するのを防ぎます(画像①②参照)。
声帯は2枚のヒダでできていて、それが開閉します。
要は、喉頭蓋と声帯で、二重に誤嚥を防ぐ仕組みとなっているのです。
食道と気管はこうなっている!

音痴の人は嚥性肺炎になりやすい
さて、音痴の人に話を戻しましょう。
音痴の人は、「恥ずかしい」と、歌うのを避けることが多いのではないでしょうか。
その結果、声帯を使う機会が少なくなります。
これが大問題で、声帯は筋肉のため使わないとやせ細り、衰える一方です。
この状態を声帯萎縮といい、閉じたときにすきまが生じるので、異物が混入しやすくなります。
それが肺に入り、炎症を起こしたのが誤嚥性肺炎です。
音痴の人が誤嚥性肺炎になりやすい、そのメカニズムをおわかりいただけたでしょうか。
1日5分程度の訓練で声帯はみるみる若返る
もちろん、音痴の人に限らず、声を出す機会が少なければ声帯はやせ細ります。
また加齢によっても声帯は萎縮します。
ですから、結局のところ、誰にとっても、声を出して声帯やそれを動かす筋肉を鍛えることは重要です。
そこで私は、楽しく歌えて、短時間でのどの筋肉を鍛えられる体操を考案しました。
それが「のどピコ体操」です。
のどピコとは、「のどちんこ」を言い換えた造語です。
現在、私はのどピコ体操を広める「のどピコ体操コンサート」を全国の病院や高齢者の施設で行っています。
観客もいっしょに歌う参加型のコンサートは、毎回大盛況。
音痴の人も歌いやすいメロディなので、みなが笑顔で歌うことを楽しんでくださっています。
しかも、のどピコ体操には、即効性があります。
声帯やその周囲の筋肉を効率よく動かすので、5分程度の歌唱で声に張りやツヤが戻ってくるのです。
裏声は誤嚥の防止に役立つ最強の方法
のどピコ体操がこれほど効果的な秘訣は、裏声を多用していることにあります。
実は裏声こそ、のどの筋肉を鍛える最強の方法です。
裏声をたくさん出せば、声帯の萎縮や誤嚥性肺炎も予防できるのです。
音痴も改善します。
では、なぜ裏声を出すといいのでしょうか。
そのポイントとなるのが、裏声を出すときの声帯の動きです。
そもそも声の高低は、声帯が伸び縮みすることで調整されています。
低い声では縮む、高い声では伸びる、裏声のような高音に至ってはグーっと大きく引き伸ばされます(画像④参照)。
会話でも声帯は振動しますが、声の高低がないので、声帯が伸び縮みする機会がありません。
つまり会話では、声帯はただ単に筋肉体操しているだけ。
一方、裏声では、筋肉体操に加えて、ストレッチ体操もしていることになるわけです。
さらに、裏声を出すときは、のどピコも後方に大きく反り返ります(画像⑥参照)。
これら一連の筋肉は、ものを飲み込む運動にも欠かせない筋肉です。
そのため、裏声を出すことが誤嚥の防止に直結するのです。
ちなみに、笑うときも声帯やのどの筋肉が大きく動きます。
大いに笑いのある生活を心がけることも大切です。
裏声を出す訓練法は下記画像のとおりです。
楽しく裏声を出しながら、誤嚥性肺炎を予防できるなんて、こんなお得な方法はありません。
ぜひお試しください。
まずはのどをチェック!

裏声トレーニングのやり方

その1
地声と裏声を交互に使って、音読する
1ページごとに、裏声→地声と、声を変えて音読をする。
これを5分も行うと、その場で地声のトーンが上がる。

その2
巻き舌やリップロール(くちびるをふるわせる)を練習する
巻き舌やリップロールは、自然と腹式呼吸になるため、横隔膜も鍛えられます。
その3
毎日、歌を2曲歌いましょう
解説者のプロフィール
高牧康(たかまき・やすし)
●音痴矯正.com
http://sm-onti-kyosei.com/
BCA教育研究所主宰 ヴォイスティーチャー 。
国立音楽大学音楽学部声楽学科卒業。
発声指導法の開発と臨床研究、音痴矯正、吃音矯正、誤嚥予防音楽療法などのメソッドを考案・開発。全国各地に赴き、講演や指導の活動を行っている。
誤嚥性肺炎を予防する「のどピコ体操」は各地から絶賛されている。