解説者のプロフィール

楠山弘之
1954年、静岡県生まれ。埼玉医科大学卒業。
癌研究会付属病院医員、埼玉医科大学泌尿器科講師を経て1991年より現職。
著書に『尿トラブルは自宅で治せる』(東洋経済新報社)等がある。
●永弘クリニック
https://www.eikou-clinic.jp/original2.html
【Q】頻尿や尿もれは何科で受診できますか?
【A】尿失禁外来がある医療機関が確実です。
泌尿器科が専門ですが、産婦人科でも尿失禁治療を行っている場合があります。ただ、泌尿器科と産婦人科であれば、どこでも尿失禁治療をしているわけではないので、注意が必要です。結論としては「尿失禁外来」がある医療機関を選べば確実です。事前に電話などで、尿失禁外来があるかどうか確かめるとよいでしょう。
【Q】受診すると、どんな検査がありますか?
【A】問診や触診、超音波検査や尿検査があります。
まず、尿失禁が起こる状況や、トイレの回数などについて、あらかじめ記入してもらった問診票を基に、医師との問診があります。
その次に、診察です。泌尿器科では内臓の状態を診るため、おなかと下腹部を触診するのが一般的です。産婦人科では、尿道の出口や膣、外陰部を診る、いわゆる内診を行うことも多いです。
次は検査です。私の診療所では、膀胱や腎臓の状態を調べるために腹部の超音波検査を行います。そのあと、尿検査を行いますが、この検査は医療機関によってやり方がさまざまです。トイレに入って自分で採尿する場合もありますし、尿道に管を差し込んで取る場合もあります。後者でも痛みはさほどありませんが、抵抗がある場合は医療機関に事前に問い合わせるとよいでしょう。私は、その後に、再度超音波検査をして膀胱に尿が残っているかどうか見ます。
場合によっては、その後血液検査と、外尿道口の検査を行うことがあります。
検査は簡単なので、気楽に受けてください。
【Q】泌尿器科の先生は男性が多いと聞いたのですが……。あと、待合室でほかの人と同席するのがちょっと恥ずかしいです。
【A】顔を見ただけで病名はわからないのでご心配なく。
確かに、泌尿器科は男性医師が多いです。でも、最近は女性医師も増えています。受診する前に、事前に問い合わせるとよいでしょう。
また、泌尿器科の待合室には、膀胱炎の人もいれば、尿路結石の人もいます。顔を見ただけでは病気まで分からないので安心してください。
【Q】排尿日誌をつけるといいと聞いたのですが、どういうものですか?
【A】1日の排尿回数や時間、量を記録するもので、自分の尿トラブルのタイプを知るのに有効です。
尿もれの特徴を確かめるために、何時ごろ、どれくらいの尿量があったか、どんな状況で尿もれがあったか記録するものです。これにより、自分が頻尿なのか、どのタイプの尿もれなのかといったことが確かめられますし、医療機関を受診する際に持参すれば症状がよく伝わります。
日誌を始めるには医療機関を受診したり、決まったひな形を使ったりする必要はありません。右にあるように、トイレに行った時刻と尿の量、排尿時や尿失禁の状況が記録できればよいのです。自分でマス目を書いて日誌にしても構いません。尿量を測るには、10㎖単位の目盛がついたカップが便利です。
長い期間記録する必要はなく、3日分でよいでしょう。連続でなくて結構です。大切なのは尿の回数と丸1日の尿量なので、24時間チェックできる日に行うようにします。排尿日誌を基に、おおまかな判断できますが、正確な診断は医療機関で行う必要があります。

【Q】過活動膀胱などの尿もれで処方されるのは、どんな薬ですか?薬局で買えますか?
【A】処方されるのは、抗コリン剤やβ3受容体刺激薬などです。薬局で買えるものもあります。
ウェットタイプの過活動膀胱の治療でよく使われるのが、抗コリン剤やβ3受容体刺激薬と呼ばれる種類の薬です。このタイプの尿失禁は膀胱の筋肉が強く縮んで尿意が起こりますが、これらの使用により膀胱の筋肉の緊張がゆるんで症状が緩和します。
腹圧性尿失禁に対しては、骨盤底筋体操が第一です。体操も手術も効果のない患者さんには、骨盤底筋を強く締める作用のあるスピロペントという内服薬が健康保険で認められた唯一のものですが、この薬は補助的な役割です。
ほかに、健康保険で認められた医科向けの漢方薬を用いることもあります。
どうしても医療機関に行けないときは、過活動膀胱には当帰芍薬散、加味逍遥散、八味地黄丸、ハルンケア、ユリナール、レディガードなどの市販薬、腹圧性尿失禁には葛根湯や補中益気湯などの市販薬があります。
【Q】体操や手術以外の治療法を教えてください。
【A】干渉低周波や磁気を使った機械による治療があります。
骨盤底筋体操は、尿失禁の改善にはかなり有効です。しかし、どうしても続けられない人には、干渉低周波による治療があります。マッサージ用の低周波治療器に似た器具で、電気刺激により骨盤底筋を鍛えます。保険診療ができ、週に2回の治療を3週間、後は2週間に1回の治療を2ヵ月ほど続けると骨盤底筋体操とほぼ同じ効果が期待できます。
また、磁気を出す機械で骨盤底筋を刺激する治療もあり、こちらも保険適用です。ただし、これらの治療を行っている医療機関は多くないので、事前に問い合わせてください。