リコピンが遺伝子の変化を予防する
私の実家はトマト農家で、幼少の頃から新鮮なトマトをたくさん食べて育ちました。
さらに大学院へ進学後、トマトの成分と遺伝子の研究をするようになった私は、トマトの健康効果についての論文に触れ、世界中の知見を得る機会に恵まれました。
そこで、トマトの力に改めて驚かされました。
それらを踏まえて言えるのは、「トマトを常食すればアンチエイジングに役立つ」ということです。
「アンチエイジング」と聞いて、多くの人が期待するのがシワやたるみの改善など若返り効果ではないでしょうか。
年齢とともにシワやたるみが出てくるのは、肌にハリを保つたんぱく質の「コラーゲン」が減ってくるのが原因です。
私たちの体の中では、抗酸化物質が働いてコラーゲンを守っています。
しかし、長く紫外線に当たることや日頃の不摂生、ストレスなどが積み重なると、コラーゲンが分解され、さらには遺伝子までも変化してしまいます。
その結果、コラーゲンが減り、新しく作る量も減ってしまうため、シワやたるみができてしまうのです。
こうしたシワやたるみを抑える成分が、トマトに豊富に含まれる「リコピン」です。
リコピンは、ニンジンなどに多く含まれるβ-カロテンの仲間で、抗酸化作用があり、コラーゲンの分解と遺伝子の変化を防ぐ力があります。
ですから、トマトを食べることにより、シワやたるみを抑えて、若々しい肌を保つのに役立つのです。
肌に関していえば、一般に、トマトのリコピンはシミにも有効といわれています。
また、トマトのアンチエイジング効果は肌だけでなく、血管に対しても発揮されます。
動脈硬化の一つに血管壁に「アテローム」という白血球やコレステロールの塊のできる、「アテローム性動脈硬化」というものがあります。
アテロームは、血管内にくっつきやすい粘着物質が増えていきその結果、コレステロールや白血球の塊が作られます。
粘着物質が増える要因として免疫異常が挙げられますが、トマトは免疫異常を抑える働きを持つことが知られています。
この働きもリコピンの作用だと考えられており、実際にリコピンを摂取することで、血管内の粘着物質が減ったという報告もあります。
リコピン以外にも、トマトには、ホルモンバランスの調整を通じて免疫異常を防ぐ「ナリンゲニンカルコン」や、動脈硬化に伴う血栓(血液の塊)を防ぐ「アデノシン」、「グアノシン」、「ケルセチン」といった有効成分が含まれています。
これらの働きで、トマトは動脈硬化の抑制に効果を発揮します。
トマトに含まれるアンチエイジング成分

油と一緒にとると吸収がよくなる
肌や血管のアンチエイジングには、トマトの常食が有効です。
ただし、トマトの代表的な有効成分であるリコピンを効率よくとるには、少し工夫が必要となります。
リコピンはトマトの細胞にガッチリと組み込まれているので、分離させると吸収がよくなります。
その調理法は、細かく刻んだり、ぐちゃぐちゃに混ぜること。
そして、「ほどよく加熱」することです。
トマトのリコピンは、もともとは「トランス型」という構造ですが、ほどよい加熱によって「シス型」という体に吸収されやすい構造に変化するのです。
シス型にするには、90℃程度(弱~中火)で15分ほど加熱するのがベストです(100℃以上の高温で長く加熱しすぎると、リコピンそのものが減るので注意)。
さらに、オリーブオイルなどの油と一緒にとることで、リコピンの吸収が一層よくなります。
この方法で調理したトマトスープ(下記画像参照)は、リコピンを摂取するのに最適なメニューです。
なお、ここで述べた他の成分も、多少加熱しても失われることはありません。
冷めるとリコピンはトランス型に戻りますが、再加熱すればまたシス型になるので問題はありません。
冷めたスープは温めて(50℃以上90℃未満が目安)飲みましょう。
肌や血管が若返る!ぐちゃぐちゃトマトスープの作り方

【材料】(2人分)
トマト……2個(大きめ)
タマネギ……1個
オリーブ油……大さじ2
水……200ml
塩・コショウ……少々

【作り方】
❶トマトは皮ごと細かくカットする。

❷タマネギはみじん切りにする。

❸鍋にオリーブ油を熱し、タマネギがキツネ色になるまで炒める。
臭いが気にならなければみじん切りにしたニンニク(適量)を加えるのもよい。

❹トマトを加えて、中火でつぶすようにかき混ぜる。

❺水200mlを加えて弱~中火でかき混ぜながら15分加熱。
最後に塩・コショウで味を調える。

出来上がり!
リコピンの吸収力を高めるポイント
●トマトは皮ごと使う。
●ぐちゃぐちゃにかきまぜる。
●煮立たせず、弱火~中火(約90℃)で15分程度加熱する。
解説者のプロフィール

石井賢二
東北大学大学院在学中に千葉県木更津市のかずさDNA研究所にてトマトの成分分析と遺伝子の研究に従事。現在は製鉄関係のエンジニアとして世界中を飛び回り、週末にトマトの論文を読み進める。世界中のトマトの研究結果をまとめた『元トマト研究者・農家だった僕がぜひ教えたいトマトの10の効果』(パレード出版)を執筆。